学園祭に向けて
『え、セヴァラスも馬術の大会に出るの?』
アレクサンダーが馬術の大会に出るという噂が公然の事実として扱われるようになった頃、恒例となった図書室での勉強会でボソリとセヴァラスが打ち明けてきた。
「あぁ、アレクサンダー王太子が参加することで、アレクサンダー派の貴族や王都での就職を希望する奴は参加しない者が多いんだ。僕は土地を継げないとしたら、どこかで騎士として雇われるか魔導具関連での就職だろうから馬術の大会で入賞すれば就職で有利になる可能性もある。プライス家を継ぐにしても求心力になるからな」
『そっか、3位までが表彰で、7位までが入賞だっけ』
ゲームのイベントでは優勝しか取り上げられないけど、実際には入賞でも就職には有利になるらしい。前世で言う資格持ちってやつだろう。
「馬術は元々入賞しやすいからな。どうせ僕はアレクサンダー殿下に嫌われてるし」
『ん、ん~……』
セヴァラスの一言が重いなぁ。
確かに今更セヴァラスがアレクサンダー派という訳にはいかないだろう。かと言ってジェームズとなら上手く行くかと言えば実際はそうではない。
来年になれば分かるのだが、ジェームズは決してセヴァラスに友好的という訳ではない。むしろ王家を侮辱した者として冷たく当たる。
ここでアレクサンダーと対抗してもジェームズ派に入れて貰える訳ではないのだ。
まぁセヴァラスだってアレクサンダーに勝とうとしてる訳じゃないだろうし、別に大会に出たからと言ってそれがすぐに問題になることもないだろうけど。
『セヴァラス、馬に乗ってるの格好良かったもんね!』
「……あれくらい普通だろ」
そう言うセヴァラスだが、ふいと目を反らして口元に手をやっていて、なんとなく照れているのが見て取れた。
ゲームではそんな表現はなかったが、セヴァラスは考え事をしたり照れたりする時に指が口元に行く。それが何とも言えず可愛かった。きっと彼は、嘘を吐く時も指は口元に行くだろう。
『セヴァラスが好きだから、ますます格好良く見えるのかな』
「…………現実を見ろよ」
ふふ、とうとう好かれてることは受け入れることにしたんだな。
『セヴァラスに知恵を貸して欲しいんだよね』
「なんだ?」
『某2人と婚約するのは謹んでお断りしたいんだけど、どう動いたら良いかな』
ジェームズが提案した遺伝の件は、既に国王陛下に話を通したらしい。今月末に私も同行して両親と同じ村に住む私の叔父の魔力を検査することになっている。一応非公式だけど国王陛下からの手配という事でジェームズではなく兵士が来ることにしてくれたらしい。
ジェームズと2人で私の村に行くなんて、もう何言われてもおかしくないもんな……。第二王子が女の子に会うために地方の村を訪ねるなんて婚約の挨拶みたいじゃんか……。
国王陛下としてもそこまで噂になると困るとは考えてくれているんだろう。
意外と国王陛下に相談してみるのもありなのかも知れない。平民の女なんてとんでもない、なんてことにならないだろうか。歴史上光の魔導士が王族と結婚することは前例がない訳じゃないから、無理だろうけど。
「ジョシュア・フローレスかそれに匹敵する相手と婚約することだろうな。もしくは修道女になって国に尽くせ」
『しゅ、修道女かぁ……』
ごめん、正直それだったらヘンリー君と結婚したいわ……。エマとヘンリー君と仲良くやる。
「君は能天気だな」
『え、そう?』
「いくつも選択肢があるのにあれは嫌だこれは嫌だと」
んん、否定できないです。まぁ色んな未来を知っている分、嫌な事もはっきりしてるし、なんだか余裕があるように見えるんだろう。
特にセヴァラスは辛い立場に立たされている訳だし。
『もちろん、セヴァラスにばっかりワガママを言うつもりはないよ! 私も考えていることがあるの!』
「君に?」
苦笑いをされてしまった。ちょっとセヴァラス、最近私に対して失礼じゃない? それだけ心を許されてるってことで良いのかな……。良くないわな。ちょっと信頼と言うか、尊厳を取り戻さないと。
『セヴァラスは魔導具の才能がすごいでしょ? だからね、一緒に考えてみない? 新しい魔導具!』
「は?」
…………。あれ、呆れた顔されている。
「……君、自分が優秀だからって皆そうだと思っているのか?」
『いや、そういう訳じゃなくて……』
セヴァラスには説明できないけど私は前世の記憶がある訳だから、発明という点ではめっちゃ有利なんだよね。だからセヴァラスに少しでも貢献したい。もしセヴァラスが良い物を発明してそれが流行ったりしたら、金銭的に余裕が出るかもしれないし。
『大金持ちになれるかもしれないよ? それに大きな発明をしたら学芸祭で優勝できるかも!』
「発明で大金持ちになったら学芸祭の優勝なんて大した功績じゃないだろ……」
はぁ、とため息をつくセヴァラスだが、そうは言いつつも魔導具の本を手に取ってパラパラと見始めたから少しは付き合う気があるようだ。
だけどすぐに本を置いてしまった。多分30秒くらいで。早くない?
「……まぁ1から考えるとしたら日常生活で不便を感じた時にそれを解消する方法を考えた方が良いだろうな」
あ、良かった。真剣に考えてくれてる。
確かに私も日常生活で、前世だったらこれで良かったのになってことをこの世界で可能な範囲で補えば良いんだもんね。前世で便利だったものを思い出すでも良いけど。
イヤーカフを改良してスマホに近付けるか、カメラかレコーダー?
お湯を沸かすものはもうあるし、TVは放送局がなきゃ意味がないし。電車? 車? あ、自転車? いや自転車って普通に考えて魔導具じゃないよね。仕組みが分かれば……いやでも電動自転車……って自転車ないのに電動自転車っておかしいか。
いや、電気的な発想じゃなくて良いんだよね。魔法があるんだから、もっと考えるべきは火、水、風、土で出来そうな……。
今自分自身で不便なことって言ったら村、学園、王都の移動と連絡だけど、電話に近い物はあって、だけどそれは魔法を使う人、それも特定の道具を持つ人にしか出来ない。
そもそも前世は郵便だってもっと早かったし……。
『あ、郵便物の転送は?』
「郵便物の転送?」
『うん、魔導具の箱を用意して、王都とか学園とか、大きな村に置くの。箱の中はそれぞれの転送先にごとに振り分けて、決まった時間に転送できるようにしたらどうかな。転送された先で飛脚さんが振り分けて個人とかそれぞれの村に……』
風の魔法で出来ないかな? とセヴァラスを見ると、ポカンとした顔をしている。さっきとは違ってビックリしているようだ。呆れられてはいないらしい。確かにいい案だと思うけど、空間を歪ませるような魔法は無理かな。手紙が空飛ぶのも危ないし……。
『む、無理かな?』
「いや、面白いと思う。少し考えてみる」
『ほんと? 良かったぁ!』
こんなにすぐ良い案が出るなんて。図書館という事も忘れて思わず大きな声が出てしまう。しかし、セヴァラスはぎゅっと唇を結んでいた。
『……嬉しくないの?』
「君はその案を僕に譲っていいのか? 案だけでも買い取る魔導具師もいるんだぞ」
『えー、だってセヴァラス以外の人に言ったらバカにされそうじゃん! セヴァラスが普段私の訳分かんない発言にも付き合ってくれるから、たまの奇跡的な案も一番に聞けるって事で!』
そもそも私がセヴァラスが好きだからセヴァラスのために考えているんだけどな……。
『と言うかセヴァラスのためじゃなかったら、新しい魔導具考えようって思わないんだけど……』
「どうしてそんなに、僕にこだわるんだ。君に何もしていないだろ」
愛に理由はないって言ってもセヴァラスは納得しないだろうな。
『セヴァラスは本当に私のタイプなの、運命感じてる! 偏見なく見ればセヴァラスはもっとモテると思うから自信持って!』
あ、また呆れた目で見られた。




