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4人目の攻略対象

医務室は天井が高く、床から天井に届きそうな高い窓が並んでいる。柔らかな光が差し込んで、医務室はとても明るかった。


エリザベスとアレクサンダーとのお茶会の後、私はその足で医務室へと来ている。ポット夫人にイヤーカフを渡すためだ。


「貴方がレナ・ブラウンさんね! マリーから話は聞いているわ。貴方がずっとここにいてくれたら私の仕事なんてなさそうね!」


医務室のポット先生は開口そう言って私の手を取ってから、控えめに言って10分は話し続けた。イヤーカフの使い方やどんな授業を取っていてどの時間が空いているか、医務室のどこにどんな備品があるかといった事務的な話から、光の魔法に関すること、それから私がアレクサンダーやジェームズ、ジョシュア、セヴァラスと噂になっていること。


一体誰が好きなの? と言われた時は頭痛がしたが、ポット先生は陽気でお喋りな先生のようだ。そしてちょっとデリカシーがない。


『王族の方とお付き合いするのはちょっと……マナーやお付き合いなどに自信がないので……』

「まぁぁぁ! それならやっぱり貴方はセヴァラスさんが好きで仲良くされてるの?」

『んんん……』


やっぱり噂になってるのかな……。まぁ私としてはそんな悪い状況じゃないけど。セヴァラスのことが好きって思われてたら攻略対象からのアプローチもそれを踏まえたものになるだろうし。

だけどアレクサンダーが不機嫌になったみたいに、セヴァラスが私を利用していると思われて敵意を向けられるようになっちゃうと困るけど。


『あの、色々と複雑で……』

「それはそうよね、貴方はこの国待望の光の魔法使いですもの! 想っている人と自由な結婚なんて出来ないわよねぇ……」


そうなの!?


「だけど学生時代の恋愛は自由よ!」


いや学生時代って後2年とちょっとだし、そもそも来年の夏前には大体の人が婚約者決まっちゃうんだけど……。


なんだか現実を突き付けられるなぁ……。私もしかして本当に攻略対象以外とは恋愛出来ない感じなんだろうか……。恋愛ゲームってもっと夢のある感じだと思ってたのに、現実問題私に選択肢はないのかもしれない。


まだ話したそうなポット先生と別れて、とぼとぼ寮に戻る。エマはもう来ているかな。アップルパイ食べるだろうか。冷めてるけど。


以前ジョシュアに教えて貰ったように外庭を通って女子寮を目指すと、なんだか言い争うような声が聞こえる。


え、なんだろ、巻き込まれたくないんだけど……。引き返した方が良いかな。女子寮側は抜けられないかな……?


声がする方をチラッと伺う。


次の瞬間、目の前に剣が飛んできた。


―――え? 死ぬ?


「危ない!」

『ひぃ!』


大きな影が目の前に躍り出て、私を庇ってくれた。驚きすぎてドサリと尻もちをついてしまったが、剣が当たったような感じはない。


それにしてもひいって。こんな窮地に可憐な女の子はキャッとかすごいな……。


「大丈夫か?」

『はい、ありがとうございま……』


ってこいつ4人目の攻略対象のウィリアム・ハントじゃん!

よく考えたら飛んできた剣から庇ってくれるって出会いイベントじゃん! 場所違うから油断してた……!


「怪我は?」


手を差し出してくれる。ガッシリとした大きな手だ。一瞬固まったけどここで手を取らないのもおかしいので、立ち上がるのに力を借りることにした。


『ありがとうございます。ウィリアム様こそお怪我はありませんか?』

「? 何故私の名前を……?」


っやば! つい名前で呼んじゃった。名乗りあってすらないのに目上の人を名前で呼ぶなんて非常識極まりないことを……。


「いや……そんなことより、お前達は何をしている! 外庭で剣を抜くなどどういうつもりだ!」


言い争っていた様子の男達の一人はウィリアムルートのライバルキャラ、オリオンだ。この人とも出会いたくなかった。この人に関しては今後全力で避けるしかない。


「っ、す、すみません……」


オリオンではない方の男子生徒が脅えた様子で謝ってくる。


「おー本当だよな、こいつがいきなり剣抜いてきてよぉ」


あ、これイジメだな。

私はオリオンの性格を知っているから、オリオンが加害者で剣を抜いてしまったらしい相手の男子生徒が被害者だと分かるけど、ウィリアムはどう思うだろう。


「そうか。オリオン、俺は彼と話がある。先に戻ってくれ」

「なんでお前が仕切るんだよ」


オリオンは大股でこちらの方に歩いて来た。


「俺はオリオン・ブラッセル。光の魔法使いだろ? 怖がらせて悪かったな」

『はい、レナ・ブラウンと申します。私は大丈夫です……』

「あいつとはちょっと揉めてたんだけど、まさか剣を抜くなんて思わなくてよ」


やめてくれ、頼む。どっか行ってくれ。本当に怖い。

オリオンは私が取り落としたバスケットから半分零れ落ちそうになっていたアップルパイをチラリと見て、その中の一切れを取り出した。アレクサンダーが食べるはずだった一切れだ。


そしていきなりガブリと一口食べてしまった。


えぇ……。食べて良い? とか言ってくれないの?

恋愛ゲームではよくある展開かも知れないけどこれで好感度が上がるヒロイン謎すぎないか。

しかもそれお母さんが作ったやつだし。


「うまっ、これお前が作ったの?」


ちょーぜつため口じゃんか。ていうか、これ攻略対象との会話っぽくない? ウィリアムがやるなら分かるけど、なんでオリオンなの。


しかもなんか虐められていたらしき人が逃げてるんですけど……剣は良いのかな。ウィリアムが持ったままだけど。


「オリオン、彼が行ってしまったぞ」

「あ? あの野郎! 人のことバカにしやがって!」


オリオンがガバリと振り返り、アップルパイを頬張って男子生徒を探して走っていった。なんなんだ。単細胞なのかな……。


「すまない、あの男はいつもあぁなんだ」

『気にしていません。あの、先程は申し訳ありませんでした。私はレナ・ブラウンです。助けていただいて……怪我を!』

「ん? お、気付かなかった……」


ウィリアムは右手の甲が少し切れていた。飛んできた剣をはじいた時に切れてしまったのだろう、少し血が流れている。


『手を貸してください』

「あ、あぁ……」


ウィリアムの手を取り、魔法で傷を癒す。傷が小さいのもあり、あっという間に治った。


『もう大丈夫です。私のせいで、すみませんでした』

「いや、君のせいではない。……俺はウィリアム・ハントだ。傷を治してくれてありがとう」


ウィリアムの顔は少し赤かった。んん、手を取って治したのは愚策だったかもしれない。ナイトリー家とフローレス家のおかげで私のルックスがヒロインに一歩近付いてしまったからな。


名前を呼んでしまったことで何か言われるかもと思ったが何も言われず、お互い向き合って黙ってしまったが、ウィリアムが突然私の頬のあたりに手を伸ばした。


……え?


今日はエリザベスとのお茶会があるから、またお母さんに髪の毛をハーフアップにしてもらっていた。そのためいつもと違って少し髪が後ろに流れている。その髪を、ウィリアムが触っている。


「綺麗な髪だな」


これ、アレクサンダーのイベントなんじゃないの? ウィリアムに褒められるイベントなんてなかったと思うけど。

やばい、好感度上がっちゃってる?


『あ、あの……』

「っ、すまない。考えなしだった」


ウィリアムはますます顔を赤くして、もじもじし始めた。あーこういう純粋な感じだったなそう言えば。普通に良い奴なんだけど、他のキャラとのイベントを妨害するのとオリオンが自動的にくっついて来るのがね……。


「アップルパイは、オリオンが勝手に食べてしまって問題なかったか?」

『はい、大丈夫です。良ければハント様もお食べになりますか?』


3切れしか食べてないから、もう1切れ余ってるしね。残りは切ってないから無理だけど。


「何故、先程はウィリアムと呼んでくれたんだ?」

『あ……っと、申し訳ありません』

「いや、ウィリアムで構わない。だが、何故俺の名前を知っていたんだ?」


やっぱり詰められた。なんて説明しようかな。周りでウィリアムと関わりがある人が全然いないんだよね……。

誰かから聞いていることにしても、ウィリアムって名前で呼ぶのはおかしいもんね。


『あの、内密にして欲しい事なのですが……』

「なんだ?」

『上手く説明できないのですが、光魔法の使い手は未来予知と言うか……知らないはずの事を知っている可能性があって、私はウィリアム様のことを知っていると思って、咄嗟だったので名前を呼んでしまったんです』


と、いう説明で良いかな? ウィリアムとの間に秘密を作るのは不安だけど、そう誤魔化すしかないよね……。


「そうなのか……。もしやそれで、重要人物達と親しいのか?」

『えっと、あまりこのことは話さないようにとスミス先生から言われていて……』

「そうだったのか。込み入ったことに口を出してすまない。パイを貰っても良いか? 良ければあちらの東屋に行こう」


……え? なに、一緒に食べる感じ? こんな時に用事があるって言うのも不自然だしピンチかもしれない。

なんでパイ食べますかなんて言ったんだ、私のバカー!

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