新たなルート
いきなり波乱万丈だった冬休みも村に戻ってからは嘘のように平穏だった。セヴァラスから新年のお祝いの手紙があり、抜け道をさかのぼったロックサウザントの軍と合流し、ロイシューク軍をひとまずは退散させたとのことだ。
トーマスさんと会わずに帰ってしまったので気になっていたが、傷を治したことへの感謝とイヤーカフについての改めてのお礼。エリザベスの援助が受けられたのは私のおかげだとも書いてあった。
エリザベスのおかげでウィンドレイクがどういう状況なのか広まれば良いし、これを機にアレクサンダーが動いてくれるとさらに良い。
冬休み後半となりウィンドレイクでの衝撃も薄れて、私がエマの屋敷に遊びに行くことになった。もちろんお母さんお手製のアップルパイを持って。
今日もお母さんにハーフアップにしてもらった。ウィンドレイクに行った時はすぐにくずれちゃったしセヴァラスから手厳しいご指摘を受けたから。
エマの屋敷はウィンドレイクより少し遠いが、途中に休憩する町がいくつかあるので気楽だ。村から町まで駅馬車を使って、最寄りの町まではエマが馬車で迎えに来てくれた。
「レナ! 久しぶりね!」
『エマー! 会いたかったよー!』
「可愛い髪型ね、リボンも良く似合ってるわ!」
『ありがとう、お母さんにやってもらったの』
エマの馬車に乗りこむと、すぐに話が盛り上がった。セヴァラスの領地で戦いが始まったことは、エマの耳にも入っていたようだが、エリザベスが来たことは知らなかったようだ。
「驚かされることばかりだわ……」
『だよねぇ』
「……だけど今は考えるのはやめましょう! 私の領地で楽しんで! ごちそうを用意してるの!」
ひぇぇぇぇ。めっちゃ歓迎されてる。
いや、これももしかして私が軽率だったのかな。光魔法の使い手を招待しておいて失礼があったら問題になったりする?
エマは良くてもご家族は緊張してたりするのかなぁ。弟さんは楽しみにしてくれているって言ってたけど。
「弟がはしゃぎすぎているから、迷惑だったら疲れてるからって言って断って良いのよ」
『大丈夫よ、エマに最初に見せた魔法や明かりをつける魔法だったら簡単だから』
「それが、癒しの魔法を見たくてナイフで自分の手を傷付けようとしてたの」
『ひぇ……』
それはアグレッシブすぎないか。魔法を見たいがためにわざわざ怪我するなんて……。
「それよりも、とっても良い匂いがするわ。それが噂のアップルパイ?」
『口に合うと良いけど……』
「待ちきれないわ! 屋敷はもうすぐよ!」
エマの屋敷はプライス家に比べればそれほど大きい訳ではなかったが、庭がとても綺麗に手入れされていて美しかった。観光スポットにある展示のようだ。玄関では男の子が1人待っているようだ。
「ヘンリー、こちら私の親友のレナ・ブラウン。レナ、弟のヘンリーよ」
「お会いできて光栄です」
『えっ! あ、こちらこそ……』
まだ小さい子と思っていたのにとても紳士的な態度で頭を下げられて面食らってしまった。ヘンリーがとても顔立ちが整っているのもそれに拍車をかけていた。まだ幼さの残る顔立ちだが、目が大きくて鼻筋が通っていて、将来はハンサム確定の引く手あまたと言って良いだろう。
簡単な挨拶をしていたら、すぐにエマのご両親がやってきて挨拶をした。2人ともニコやかに迎えてくれた。
プライス家の時と同じように部屋に案内された後に私の持ってきたアップルパイを温めてすぐにお茶となった。ヘンリー君が熱っぽい目でこちらを見て来るのでなんだか緊張してしまう。
『あ、えっと……』
「レナ、気を遣わなくて良いから。とりあえずお茶にしましょう」
エマが弟さんに塩対応だ。珍しい。驚いていたらエマが少し顔を寄せてこっそりと耳打ちしてくる。
「ヘンリーは小さい頃から発達が早くて愛想が良くて、魔法も使えたからチヤホヤされて育ったの。ハッキリ言わないと図に乗るわよ」
確かにヘンリーは利発そうな子だった。まだ10歳のはずだが、背が高いのもあって年齢以上にしっかりして見える。玄関で会った時も、背はほとんど私と変わらなかった。当然まだ伸びるだろう。
「とても美味しいアップルパイですね、ブラウン嬢」
『ありがとうございます、ヘンリー様。母の力作なんです。今年のリンゴがとても美味しくて』
エマのご両親もアップルパイを褒めてくれ、貴方がエマと友人になってくれて嬉しいと言ってくれる。
それって、どういう意味なんだろう。ちょっと複雑なんだけど。
「エマは人が良すぎるから、不安だったの。ジョシュアがいつも心配してくれて」
『心から信頼する親友です。いつも助けてくださって……』
「レナの方が素敵なの。エリザベス・リッチ様やアレクサンダー王太子とも親しいのよ」
エマと2人で散々お互い褒め合い、アップルパイがなくなり、ヘンリーも緊張が解けた頃、エマのお父さんが初めて切り出した。
「もし良ければ、噂の魔法を見せていただけますかな」
『はい、もちろんです』
右手の平をギュッと握り、ゆっくりと開く。薄い黄色の火の玉がふわりと踊る。何度かこの魔法を使う内に、以前よりも少し大きく、光も強く出来る様になっていた。それを自分の意思で調整できるように。玉の大きさを小さく、大きく。
熟練度が上がっている。癒しの魔法も、同じように上達するのだろうか。
「素晴らしい……」
「なんて美しいの」
『ありがとうございます』
そんな風に褒められると恥ずかしいけど、やっぱりちょっと嬉しい。私がここに到着した時にはしゃいでいたヘンリーが沈黙してしまっているのが少し面白い。
私が庭を褒めたら、夕食前にエマとヘンリーが庭を案内してくれることになり3人で外に出る。小さな散歩道のようになっていて、前世の感覚で言うとかなり広いけど、貴族からすると小さいのだとか。
『本当に美しい庭ね、とても綺麗に整えられているわ』
「使用人も良くやってくれているけど、母が手入れをするのが好きなの。もちろん学園に行くまでは私もね」
「ブラウン嬢はどのお花がお好きですか?」
ヘンリ―にそう尋ねられてドキリとする。花を選ぶのはヒロインにとってはちょっと大きな選択だ。ヒマワリ、薔薇、百合、チューリップは選べない。
だからと言って花の名前をそんなに知らない! と言うか冬だから庭にはあまり花は咲いてないし!
「花なんてほとんど咲いてないわよヘンリー、バカな事を聞くのは止めて」
「……どの花が好きか聞いただけだろ」
『私はスズランが好きだわ。小さい花が連なっていて可愛いもの』
口にしてから、スズランには毒があったんじゃないかと思ったけど、考えないことにする。見た目だけの話。
「スズラン。貴方にきっと似合うでしょうね。今度是非プレゼントさせてください」
……あれ、ヘンリールートはスズランの花決定かな。




