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貴方がヒーローなのでは?

髭面の薄汚れたおっさんがズボンカチャカチャやりながら迫って来る。

本気でヤバい。

アナさんも絶句して固まってる。いや気持ちは分かる。


こんな時攻略対象だったら都合よく助けに来てくれるんだろうけど……でもセヴァラスだからどうだろう……。


いやでももうそんなこと言ってられない……。いざという時は魔法! トーマスさんもそう言ってた!


『お断りします。それ以上近づかないで。今すぐに一階に戻りなさい、ここに来てはいけません』

「つれない事言うなよ。あんたらを守るために来たんだぜ?」

『二階に上がる時点で私達の生活を害しています。今すぐ降りなさい。これ以上近づいたら、魔法を使いますよ』


魔法という言葉で、突然男は表情を変えた。

あー……前世でもこういうのあったな。ナンパを断ったら突然キレられるやつ。


「偉いこった、魔法をひけらかして、俺達を支配しようって訳だ!」

『力で人を支配しようとしているのは貴方でしょう。怒鳴っても無駄です。今すぐ一階に降りないと、魔法を使います。警告しましたよ』

「誰のおかげで今無事でいられると思っているんだ!」

『意味が分かりません』


玄関ホールから階段をあがった場所でかなり目立つので、侍女が様子見に集まって来てくれてはいる。セヴァラスは二階の部屋で休んでいるんだろうけど、来てくれないかな……。多分家主の部屋は二階でも奥の方にあるはずだし、眠っていたら声は聞こえなくてもおかしくない。

と言うか、侍女さんがセヴァラスを呼んできてはくれないか?


『……人が集まっていますよ』

「俺たちはお前らのために来てやってるんだ! もっと丁重に扱え!」


いや傭兵なんだからそれが仕事でしょうが。それでお金を貰ってるんでしょ?

一階に降りる様に言ってるだけなのに何をそんなに怒っているのさ。自分のタマをそんなに見て欲しかったのか?


男がずいと一歩進み出て、私は右手を構えた。

魔法、本当に発動するのかな。離して! とか思ったら離れてくれるのかな。もしくは光を虫眼鏡で集めて炎上させるイメージで行けば良いのかな……。


でも使えたとしても、出来れば魔法は使いたくない。禍魔法になっちゃうかもしれないし。


「それ以上はやめ……」


アナさんが間に入ろうとしてくれた時、ドンドンドンとノッカーの音がした。


こんな夜中だから、また傭兵かもしくは屋敷の人だろうか。

侍女が率先してドアを開けに小走りで向かった。


「ごめんください。こちらに伺うと言うお話はしていないのですけれど……」

『っリッチ様!』


思いもよらぬ人物の登場に、思わず男の横を抜けて玄関まで走り出す。


「レナさん、やっぱりここにいたのね。問題ないかしら」

『問題ありまくりです! 来てくださって助かりました!』


エリザベスの後ろには護衛と思しき男性が4人それぞれ馬を連れている。またエリザベスの乗ってきたらしい馬車にも男性が2人待機していた。


え、エリザベス神か? 王子様は貴方だったのか? 今の所私にとって一番好感度高いのエリザベスなんだけど!? 貴方がヒーローなのでは……?


『え、あの、私のために来てくださったんですか?』

「元々ウィンドレイクの事は気になっていたの。アレクサンダー様は小競り合いだからというのだけれど、貴方がいると聞いて来てみることにしたのよ。私に用意できるもので思いつく限りの物資も持ってきました。役に立つと良いのですが」

『ありがとうございます、リッチ様!』


アナさんが私に続いて玄関ホールまで降りてきたため、私が2人を紹介した。エリザベスは連絡が間に合わなかったことを謝罪していた。早馬は向かわせていたらしいが、馬が雪で滑って足を痛め、屋敷に着く手前で馬車が追いついてしまったらしい。


エリザベスの持ってきたものは、パンやジャガイモなどの食料から包帯や薬などの物資から、金貨もあった。


金貨に関してはアナさんが慌ててお断りしていたが、個人で自由に出来るお金から出しているだけだからと話している。


先程の傭兵もそそくさと一階に戻ったようでもう姿がない。どこか待機室みたいのがあるのかな?


「男手が少ないようですね。私の従者と、護衛を1人ここに置いて、後は戦場に出しますか?」

「ありがたい話ですが、大丈夫でしょうか? 銃声も聞こえたようで……怪我人も多く、いつもとは少し様子が違うのです」


やっぱり今回は特別なんだろうか。

アナさんは実際の戦況をあまり把握していないので、セヴァラスの指示を仰ぐことにするようだ。その前に皆で食事をとることになった。


傭兵さんは一緒に食事するんだろうか、それはちょっと遠慮したいんだけど……。あ、でも使用人の皆さんは一緒に食事しないんだから多分違うのかな?


従者や護衛の人達がエリザベスの馬を休ませ、荷物を運ぶ。私はエリザベスと玄関ホールでそのままお喋りしていた。


「来ておいて、ですが、一泊だけと言ってらっしゃいませんでしたか?」


エリザベスは休日も綺麗だな。こんな状況だから余計そう感じるのかもしれない。今日は髪の毛も普通に降ろしているだけで、ゆったりした印象を受ける。


『それが、負傷した方を治したら丸一日気を失ってしまっていたらしくて……もし状況が許せば村に帰りたいと思っています』


いや本当、もう帰りたいです。争いもそうだけど治安の悪さが本当に無理です。魔法戦争物で治安の悪さとかないじゃん。当たり前だけど。

セヴァラスとの愛を育むにあたりこの問題は解決しないといけないよね……。と言うか、さっきの対応大丈夫だったのかな……。トラブルを起こしたって怒られちゃったらどうしよう。


「まぁ! それほど癒しの魔法は負担なのね。貴方はもっと自分の身体を大切にしないと、貴方の代わりはいないのだから」


エリザベスがそう言ってくれた時、セヴァラスが階段から降りてきた。あらら、多分聞かれたな。まぁ私は丸一日意識戻らなかったのはセヴァラスも知ってるんだから、今更負担って言われたところでって話だよね。

と言うか、顔色悪いな……。さっき死んだばっかりの死体みたいな顔色と表情なんだけど。


『セヴァラス、リッチ様が……』

「あぁ、事情は聞いてる。リッチ嬢。来ていただいて感謝している。食事は質素なものになってしまうが、今夜はここで休んでくれ。明日、僕が傭兵を引き連れて前線に向かうから一緒に出られる者はお願いしたい」

『えっ……』


昨日かなり深い傷を負ったのに大丈夫なのかな。でも多分、エリザベスに自分が負傷したってバレたくないだろうな……。

でも、多分セヴァラスしか抜け道の場所を知らないのかな? そうだ、セヴァラスを連れて帰ってきてくれた人はいないのかな?


「なんだ」

『うぇっ、な、なんでもない……』


う、ちょっと当たりが強い。不満げに見えちゃったのかな。

後で傷の具合だけ聞いてみよう……。


「レナさん、せっかく会えたのだから後で少しお茶が出来ないかしら。もしもプライス夫人が宜しければ」

『はい! 是非!』


うー! やっぱりエリザベスがヒーローだね!

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