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親友との出会い

学園の図書室から出る頃には、空は夕暮れ一色だった。セヴァラスと軽く挨拶を済ませ、女子寮と男子寮へそれぞれ別の道を行く。


寮の談話室に入ると、一人の少女とその侍女らしき女性がいた。フワフワの焦げ茶色の髪が躍り、ぱっちりとした瞳がこちらを見つけ、彼女は満面の笑みを浮かべた。


「こんにちは! 私はエマ。エマ・ナイトリー。貴方の向かいの部屋よ。よろしくね」

「こちらこそよろしく。私はレナ・ブラウン」


寮は学園のある王都近くに屋敷を持たない地方貴族が主に使っていて、それぞれ二名まで使用人が付き添うことを許され使用人部屋も用意されている。

しかし部屋はそう広くはない上、学校側で寮のために雇っている使用人も十分にいるため使用人を連れていない生徒の方が多い。エマの後ろに侍女が一人微笑んでいるのは、とても珍しい光景と言えた。


後にヒロインの親友となるエマは、裕福な伯爵家の娘だ。彼女の祖父と父親は商才があり、管理している土地はそれほど大きいとは言えないが、活気があり豊かだ。家を継ぐことが決まっている彼女の弟もまだ幼いが利発であると評判で、彼女の結婚には多くの貴族の関心が寄せられている。


「まだ部屋に戻るには早いわ。談話室でお茶でもどう? 貴方の話が聞きたいの」

『喜んで』


彼女の伯母は公爵家に嫁いでおり、一人息子の名前はジョシュア・フローレス、三人目の攻略対象だ。エマとの好感度を一年目の春までに上げることでジョシュアとの出会いイベントが発生する。


これは普通に過ごしていればまずクリア出来る条件で、逆に言えばジョシュア以外のキャラを確実に狙うなら意図的に彼女の好感度を下げる必要がある。


このゲームでは攻略したいキャラ以外とは関わらないに限る。季節固定のイベントを潰されたり、会話しているところにランダム遭遇されるだけで好感度が下がったりするのだ。四六時中ヒロインにくっついて来るハントに何度うんざりした事だろう。


逆に言えば、アレクサンダーやジェームズと結ばれたくないのならジョシュアと会うべきなのだ。ジョシュアはヒロインとの出会いが遅い上に固有イベントが少なく好感度が上がりにくいキャラクターだし、周りを巻き込んだトラブルが発生するようなイベントがない。


彼は穏やかな性格だし、従妹であるエマが一緒にいればセヴァラスに勘違いされるようなこともないだろう。アレクサンダーやジェームズの好感度はいくら下がろうが気にはならないし、むしろ状況によっては下げてもらった方が嬉しい。


それにジョシュアはセヴァラスにも親切なのだ。セヴァラスがヒロインの友人であることを知ってから、ジョシュアはセヴァラスを気にかけ彼が惨めな様子である時に声をかける。そしてセヴァラスは彼が優しい人だとヒロインに告げるのだ。


君が素晴らしい人だから、素晴らしい人がその周りに集まるのだろうと。


―――あのイベントは良かったな。


ジョシュアルートではセヴァラスには何も面倒事は起こらない。むしろ公爵家の一人息子であるジョシュアとの交流が出来たことで、他の貴族からの風当たりも和らぐのだ。


もしも、攻略対象の誰かと必ず結ばれなければならないなら、ジョシュアが良い。


「それじゃあ貴方は教会や古い本屋に通って勉強をしていたのね、一人で?」

『えぇ、村の皆さんがとても親切にしてくださったの。一人一人の知識は貴族に劣るかもしれないけれど、皆の知識を合わせれば試験でも60位になれると手紙を書かないと』

「本当にすごい! 一丸となって努力してきたのね」


エマは勉強熱心で努力家だ。光の魔法が使えることに胡坐をかくような言動がなければ好感度は上がっていく。


「ねぇ、もし良かったらその……見せてもらえない? 光の魔法を」

『もちろん。本当は傷を癒すのが一番得意なんだけど』


自分の人差し指を合わせて、ゆっくりと離す。その間に光の糸が結ばれている。キラキラと輝くそれと同じように、エマも目を輝かせた。その後ろで、侍女もひっそりと期待の目で見ているのを感じる。

指をクルクルと回し、フワリと上に放つ。空を踊った糸から、周りにキラキラと光が舞った。


「綺麗……」

『ありがとう、特に何か効果がある訳じゃないけど』

「そんなの関係ないわ、指から火を出したり風を吹かせたりするだけでも難しいのよ! こんな綺麗な魔法は初めて!」


エマは純粋で素直で可愛らしい。喜怒哀楽がはっきりしている。その分ショックなことがあると酷く落ち込んでしまうところがある。

従兄であるジョシュアは、エマを実の妹のように愛すると同時に心配もしており、ヒロインがエマを支える様子を見て、心を動かされるのだ。


ジョシュアと出会うためには、エマに降りかかる不幸を見過ごさなければならない。


―――出来れば避けたいところだけど、努力はしてみよう。


『私、貴族の生活の事は良く知らないの。今回のテストも貴学がダメで、もし私がマナー違反な事をしていたらこっそり教えてくれる?』

「もちろん! 大変な事も多いだろうし、私に何でも聞いて! こちら、私の侍女のジェーンよ。私の姉のような人なの」

『よろしくお願いします』

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


明日が楽しみで眠れないと言うエマと別れを惜しみ、お互い自室に戻る。

寮とは言え貴族のためのものだ、生徒が友人を呼んで数人でお茶を楽しむことが出来るように寝室とは別に一部屋用意されているし、バストイレも別で備え付けられている。


贅沢な部屋だ。この寮が作られた頃、国が豊かだったのだろうか。それとも単純に貴族からの寄付で成り立っているのだろうか。ゲームなのだからそんなことを考えても仕方ないけれど、セヴァラスの領地の深刻さを考えると気になってしまう。


それにしても、Bクラスはどんなところなのだろう。Aクラスとはメンバーが違うのだから、何が起こるかは本当に予想できない。


ゲームではヒロインはAクラス、エマはBクラスと別々だったが、同じクラスになったからにはゲーム以上にエマと行動する時間が長くなるだろう。きっとAクラスより楽しく過ごせる。


エリザベスにはこちらも好意的に答え、授業中は目立たないようにしないと。


あぁ、それにしても本当に楽しみだ。ゲームの世界に来てもうすぐ10年。憧れていた学校に入学することが出来た。

これからゲームの中だけだと思っていた魔法の授業を受けるのだから。


前世に比べれば不便な部分も多いけど、それを払拭する喜びだ。同じクラスにはずっと好きだったキャラクターがいるんだから。


―――セヴァラスは会釈程度にしておいた方が良いかな?


明日からセヴァラスと同じクラス。あぁぁぁ、嬉しい!

セヴァラスの声、表情、行動、ゲームで見られなかった色々な一面が見られる。


好きな食べ物は何だろう? 好きな人はいたのかな?

彼の領地は今後どうなるのだろう。卒業パーティーでは誰とパートナーになるんだろう。


そうだ、ゲームではエマと恋バナをしているシーンはなかったけど、折を見て彼女にセヴァラスが好きだと打ち明けてしまうのはどうだろうか。


セヴァラスは入学初日から図書館に通うくらいの努力家だし、家柄で言えばプライス家の方が上だ。ナイトリー家は実力主義な部分があるしプライス家の状況も理解してくれるだろう、エマとは相性が良いかも知れない。


『……あまり相性が良すぎても困るけど』


もし、万が一あの二人が恋仲になったら切ない。やはり早い内に気持ちを打ち明けてしまおう。


待ちきれない。

天蓋付きベッドに潜り込み、そっと目を閉じた。

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