明日から冬休み
雑談みたいな回が一番書くのが大変です……
早く事件が起こって欲しい
今日は冬休み前、最後の授業の日だ。
寮は明日の学園終了時間まで空いているが、寮に住んでいる生徒は屋敷が遠い子がほとんどで、大抵は午前中に出発する。
私もエマも今日の夜はたくさんお喋りするつもりだ。彼女に貰った洋服はどれも素敵だった。ワンピースはシンプルで可愛く、コートは少し大きかったがとても暖かい。
彼女と弟のヘンリーはリンゴが好きだと言うので、今度訪ねる時にはリンゴとアップルパイを持っていく約束だ。リンゴは私の村の名産品なのだ。
アップルパイはお母さんと作る予定だ。私のお母さんはつまりヒロインのお母さんなので、料理スキルがとても高い! 料理もお菓子も美味しいのだ。
つまり一緒に作ると言っても8割お母さんが作るんだけど、まぁ問題ないでしょう。ないよね?
セヴァラスの所を訪ねる時も、同じようにリンゴとアップルパイを持っていく予定だ。そんな楽しみな冬休みの前に、最後にエリザベスのお茶会に出る約束をしている。
今日はエリザベスの友人であるヘレナとロレイン、そしてエマも一緒だ。最近ではこの5人が一番良く集まるメンバーとなっている。
エリザベスは、いつもはこの2人と過ごしている様だ。2人ともとても良い子で、平民の私にも親切にしてくれる。エリザベスに良い友達が出来て良かった。
今日の話題は冬休みの予定と、冬休み明けのあるイベントについてだ。
「エマさんのお家は、コーヒーの輸入にお強いのでしょう? お勧めのコーヒー豆はないかしら」
「ジョシュア様のお好きなコーヒーはどれか知ってらっしゃる?」
前世におけるバレンタインに匹敵するイベント、アレンディアの祭である。
この世界の歴史にアレンディアという愛と美の神様がいて、彼女が愛の妙薬を作り意中の男性と共に飲み干した、と言う伝説が残る日なのである。それ以降その日に心惹かれている相手と同じ席で、自分の用意した飲み物を一緒に飲むと愛が実るとされており、現代ではそれが特にコーヒーとして指定されているらしい。
しかし皆皆さん、よく考えて欲しい。意中の人と二人で、自分の入れたコーヒー一緒に飲んだら両想いって。まずそれが出来たら苦労しないって思いません?
ほぼ告白してるのと同じじゃん。バレンタインには友チョコとか義理チョコとかあるけどこの祭りは基本的には一対一だし、暗黙の了解で誘う相手は1人とされている。
ちなみにこのイベント、誘うのは男でも女でも関係ない。何なら女子同士でも良いのである。ゲームのヒロインは、1年目はエマと一緒に過ごしていた。2年目は当然、攻略対象の誰かである。
2年目でもし狙っている攻略対象と過ごせなかったら、それ以降かなり頑張らないと目当てのキャラはクリア出来ない。ちなみに、アレンディアの祭で過ごした相手と違う相手を最終的に攻略することでゲームのトロフィーが解放される。
―――まぁ、1年目は関係ないよね。エマと過ごそう。
「レナもコーヒー豆、欲しい?」
『え? いや、私は大丈夫……難易度高くない? 好きな人誘うって』
「冬休みに彼の屋敷に遊びに行くんでしょう?」
ふいに皆がキャアキャアと色めき、顔が赤くなるのを感じた。
『もう、エマ!』
「良いなぁ! 私も好きな人と一緒に冬休み過ごしたい!」
『向こうは全然そういう感じじゃないから! 私が雪が見たいって駄々こねただけ!』
ここにいる4人は私がセヴァラスを好きだと知っている。3人とも驚いていたが、受け入れてくれているようだ。
「差し出がましいようですが、ウィンドレイクは戦地になる可能性があるのではなくて?」
少し不安げな声でそう言ったのはエリザベスだ。彼女は誰かの言葉に疑問を投げかけたり、反論したりする時に話し方が少し丁寧になる。彼女なりの心遣いなのだろう。親しくない時には、それが嫌みとして取れるかもしれない。でも実際は、言葉に迷っているだけだ。
『そうなんです、リッチ様。ですので、冬休みが始まったらすぐにお邪魔して、一泊だけして帰る予定です』
「そうなの……。道中治安の悪い村もあると聞きますから十分に気を付けてくださいね」
エリザベスは優しい。こちらがそれを承知であると分かればそっと注意をしつつも引いてくれる。ゲームでもこういう場面はあった。もう少しキツい口調ではあったけど、それは状況的に仕方ないだろう。
自分の婚約者に手を出そうとしている平民にあれ以上優しくは出来ないと思う。
ヘレナとロレインは冬休みにエリザベスの屋敷に数日招待されている。私とエマも誘われたが、ちょうどジョシュアの屋敷へ行く予定とかぶっていたため断っていた。
新年は基本的に自宅で祝うべきものなので、冬休みはあまり盛んに交流が出来ない。エリザベスも気にしていないようで、夏は是非と誘われた。舞踏会など社交界が盛んになるのは夏だ。
私達も夏はエリザベスの所に数日遊びに行くつもりだ。緊張はするが、エマが一緒なら大丈夫だろう。
「エマさん、レナさん、ジョシュア様のお話を聞いてきてくださいね」
恥ずかしそうにそう言うヘレナはジョシュアファンだ。彼女は辺境伯家なので、家格はそれほど離れてはいないが、ジョシュアはやはり別格だという。見た目もさることながら、彼の父は国王陛下の従弟なのだ。
この冬にジョシュアの屋敷を訪ねる事になるとは思わなかったけど、レイブン夫人に会っておけば夏の体調不良について少しは分かるかもしれない。もし毎日ワイン飲んだくれているとかだったら止めないと……。
『エマの屋敷の方は暖かいと聞いていたけれど、レイブンフォレストには雪は降らないの?』
ジョシュアの領地はレイブンフォレストという大きな森がある。国を代表するとても有名な土地で、その土地の領主は代々レイブン公、レイブン公夫人と呼ばれているのだ。レイブンフォレストは、実はウィンドレイクからはそう遠くない。
「降らないわ。それに最近は森って程じゃないの。木炭にするために木がどんどん減っているのよ。おかげで豊かなんだけど、限りあるものだから色々考えているみたい」
『大変なのね』
木炭か。確かに、木炭を資源にしていたら森なんていくらあっても足りないよね。この世界にはまだ石油が使われていない。石炭は他国では使われている様だが、アルベドではほとんど採れないようだ。
ゲームでは分からないけど、皆色々問題を抱えているんだな……。
「私の領地は木炭を取りつくして年々苦しくなっているわ。この冬は新しい服を買うのを控えようと思って」
ロレインは侯爵令嬢だが、ここ数年領土で災害が続き家計はくるしいようだ。彼女には2人の姉がいて、その支度金も馬鹿にならなかったらしい。彼女には弟もいるため、もう結婚は半分諦めていると話している。
この時代、やっぱり娘って難しい存在だよね。土地を継げるのは男児だけ、結婚するにも支度金、魔法が使えなければろくに就職も出来ない。兄弟がいなかったら、父親が亡くなった後は肩身が狭いだろうな……。
「ロレインの領地では最近よく土砂崩れや洪水が起きているんでしょう? 怖いわよね」
「そうなの、昔森だった場所でよく起きるから、神がお怒りだと言う民まで現れて……今年も雨季が心配だわ」
森だったところから土砂崩れや洪水?
あー……なんかそれ、聞いたことある。社会の授業でやったことある。
『それは多分、今まで森の木が水を沢山吸ったり、葉っぱに雨が溜まって土に流れなかったりしていた分の水が土に流れているからじゃないかしら』
「え、そうなの?」
『よくは分からないけど、ほら、植物って水がないと生きていけないでしょ? 大きな木は生きるのに沢山の水が必要だと思うの。今まで木が水を吸いあげてくれていたのがなくなると、水の量が多くなって川から溢れたり、土が流れちゃうんじゃないかなって』
こういう説明で良いのかな? しかも、だからどうしろっていう対策とか分からないけど……。もう木は切っちゃってるんだよね。
「単純に昔より水の量が増えているということね……何か対策がないかお父様に聞いてみるわ。治水の知識はお父様の方があるはずだから」
「それで災害が収まるなら、土の魔導士を雇うのも良いと思うわ」
あ、そうか。魔法があるのか。ってことは、水害と言っても前世の水害よりはマシなのかな? 水の魔導士とかいる訳でしょ?
『水と土の魔法で木をグングン育てるとか出来ないんですか?』
こう、某アニメみたいに、背伸びして手を伸ばせば伸ばすほど木がぐんぐん伸びていくとか。無理か。いや本当に無理なのか? 怪我を一瞬で治したり、指から火を出す方が無理じゃないか?
「……考えた事もなかったわ。だけど新しい魔法を考えるのは、王宮魔導士でも難しいと思うけれど……」
そういうもんなのか。確かに私は前世の記憶があるからイメージしやすいけど、この世界の人にはそれはないもんね。
「光魔法の使い手は未来予知をしたり、不思議な力があるという話ですが、発想力が素晴らしい、という話なのかも知れませんね。閃く、というのは光が差すという意味でも使われますから、もしかしたら光魔法特有の能力なのかしら」
『買いかぶりすぎです、リッチ様。私なんて、思ったことをすぐ口に出してしまうだけです』
確かに、ピンと閃く時によく明かりがつくような記号が使われたりする。だけどやっぱり歴史上の光魔法の使い手も、光魔法を使った瞬間に前世の記憶を思い出しているって説がしっくりくるように思う。確かめようがないけど。後世の光魔法の使い手の子に伝えるすべもないし。
ジェームズは母方の家系に光魔法の使い手がいたって話だけど、何か知らないのかな。知ってたらゲームの中で聞いているか。
今はそんなことよりも、明日からの冬休みが楽しみだ。セヴァラスと仲良くなれる様に、頑張ろう!




