せまる冬休み
「それなら年越し前にウィンドレイクに行って、年を越してから私の屋敷に来るのはどうかしら。元々ジョシュアの所には年越し後に行く予定だったから、その時一緒に行きましょう?」
寮の談話室でそう言った時のエマは、とってもとっても嬉しそうだった。ジョシュアルートでは、彼は今まであまり女性を好きにならなかったという設定があるのでそのせいかも知れない。なんとなく罪悪感を抱いてしまう。
ジョシュアルートのエマが協力的なので、彼のルートはせいぜい身分の差がある程度でストーリー的には元々あまり障害がない。
単純に出会いが遅いせいで好感度が上がりづらく、他のキャラクターの好感度が上がってしまっているせいで、遭遇イベントが起こってしまうとジョシュアが勝手に負けてしまうのだ。
ウィリアムと意図的に出会っていないから、ジョシュアの好感度が上がりやすいのかな。
ゲームではジョシュアはとことんウィリアムと相性が悪い。ウィリアムの粗野な部分が苦手なのだろう。
ゲームでヒロインが走ったり木に登ったりするシーンも、好感度が上がるのは王子達だけで、ジョシュアには窘められることもある。まぁ窘められると言っても、せいぜい優しく注意されるくらいだけど、とにかく好感度は上がらない。
ジョシュアの前では出来るだけワイルドに過ごすのが良いかも知れない。エマにビックリされない程度に、ってことにはなるけど。
それからやっぱり、ウィリアムと出会いイベントを起こすか。
でもなぁ……。
私も正直ウィリアム、と言うか、ウィリアムルートが苦手だ。剣術の得意な彼のイベントはほとんど荒々しい。出会いからして、剣術の授業中に訓練場を通りかかったヒロインの所へ剣がぶっ飛んでくるイベントなのだ。
怖すぎる。自分に向かって剣が飛んでくるとか本当に無理。
いくらウィリアムがキンって守ってくれると分かっていたって、訓練場に近付かなければそもそもそんな事件起きないんだから、行くのやめようってなって当然だと思うね!
まぁ出会いイベントの時期はもう過ぎているから発生するかも分かんないけど。
その上ウィリアムルートでは彼を敵対視する独自のライバルキャラが出てくるのだ。
そいつが、本当に乱暴で性格が悪い。ウィリアムとやりあうだけあって筋肉質で長身の男で、ヒロインに強引に近付き周りを巻き込むようなトラブルも起こすのだ。
一緒にいるセヴァラスが突き飛ばされるイベントもある。力の前に無力なヒロインとセヴァラスを守りに来てくれるのがウィリアム、という訳だ。
ウィリアムがそいつをやっつけてくれるのがある意味スカッとして気持ち良い事もあるんだけど、ウィリアムもかなり盲目的にヒロインを愛してくるから、それはそれで迷惑なのだ。
そもそもセヴァラスが突き飛ばされるのは嫌だし。
やっぱりウィリアムと会うのは最後の手段にしたい。
エマとは仲良くしていたいし、最悪ジョシュアの好感度は上がってもセヴァラスが死ぬことはないのだから、2年生以降に考えたって問題ない。
ゲームは2年目のパーティー、つまり私のデビュタントで終了する。それ以降はある意味自由だ。デビュタントで婚約者が決まらなければ、ゲームの拘束から逃れられるはず。
『エマ、セヴァラスの所に行く前に、どんな洋服が良いか見てもらいたいんだけど……』
「わぁ、素敵ね! 来週末に外出許可を貰って出かけましょう。それかもし去年の物で良ければ、私の服を何着か上げるわ」
『えっ、嬉しいけど、それは申し訳ないよ』
「大丈夫、お父様の仕事のお付き合いで服は山ほどあるの。レナは私より少し背が小さいから、私が着られなくなった物も着られるはずよ」
もう15歳なんだから1年でそんなに大きくならないでしょう!
この世界の貴族って去年と同じ服はあんまり着ないのかな? 村では何年も着ちゃってたから全然ピンとこない。
おさがりって言ったって、エマの家は裕福だから相当な物が渡されそうだ。
村にいる母が驚愕してしまうかもしれない。
『私のお母さんがビックリしちゃうよ、多分何もお礼出来ないし……』
「貴方がいらないなら捨てるしかない物よ? でも、やっぱり私のお古だと気になるかしら? コートくらいならどう? 去年流行りだと言われて暖かいコートを買ったけど、冬は外出しないから全然使わなくて」
『……いや、捨てちゃうなら欲しいです』
もったいないは全国の共通言語です。正直寒い地方に行く洋服もないし助かる。
『お母さんの作るクッキーくらいしかお礼が出来ないけど』
「全く問題ないわ。冬休みに貴方が遊びに来ると言ったら、家族全員で大はしゃぎなの。光の魔法が見たい見たいって」
『いやもうそしたらエマの家のランプみたいにずっと光ってるよ』
エマがクスクスと笑い、さっそく家族に手紙を出すと言って部屋に戻っていったため、私も自分の部屋に戻る。
それにしてもセヴァラスの好感度は全然上がらない。
図書室で一緒に勉強していても、彼は黙々としているし、下手な事を教えて貰おうとすると『そんなことも聞いていなかったのか』みたいな目で見られるので傷付くだけだ。
唯一の例外は魔法学で、セヴァラスは自分のノートを惜しげもなく見せて授業の内容を解説してくれる。
ちゃんと勉強しないとセヴァラスの好感度って上がらないのかなぁ……。
セヴァラスの好みは努力家で賢いスマートなレディなのだろうか。前世で言う委員長タイプが好きなのか? そうなのか?
エマに貰ったリボンをそっとほどく。
やっぱりヒロインのサラサラロングもセヴァラスからの好感度に影響していたのかなぁ?
おしとやかな感じとか? 女性らしい所作でドキッとする、みたいな。そういうのが実はあったのかも。
どうもセヴァラスに恋愛の対象として見られている感じがしない。
ただのクラスメートと言うか、勉強を見てやっている子ども、みたいに思われているようだ。
アレクサンダーやジョシュアはイベントを避けているのにも関わらずこんなに好感度が高いのに、なんでセヴァラスはダメなんだろう。
愛されるよりも愛したい……。
いや、セヴァラスには愛されたいけど。
勉強……するしかないのか……?
いや、してるよ? ほぼ毎日図書室に通ってるし、前世の私よりは勉強してるんですけどね?
それから、この冬に起きるセヴァラスとのイベントもちゃんと対策しないと……。
1年目の冬。ヒロインがウィンドレイクに着くと、ちょうど見回りをしていたセヴァラスの父がロイシュークからの攻撃で負傷し屋敷に戻ってきたところに遭遇する。
それを魔法で癒し、プライス家から感謝されると共に『ここは危険だから早く帰った方が良い』と告げられ、そのまま夕方村へ帰ることになるのだ。
馬車に乗っている間、ヒロインはずっとセヴァラスの心配をし、冬休み後アレクサンダーに何とか彼の領地を助けられないかと相談するのだが……。
いやいやいや、絶対ヒロインセヴァラスの屋敷にいた方が良いよね?
だって負傷した人治せるんだよ?
そりゃあ最前線は危ないかも知れないけど、屋敷にいて負傷した人をそこまで運べば良いじゃん。
そりゃあまぁ、敵がセヴァラスの屋敷まで来ないってことを知っているのは私だけではあるんだけど、今まで何回攻められても一度も屋敷まで来てはいない訳だし……。
私は留まって怪我した人を治癒したいって言ってみよう。
魔法の練習にもなるし、たくさん活躍すればセヴァラスも私に一目置いてくれるかも……なんてちょっと邪な気持ちもありつつね。




