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貴方がヒロインなのでは?

二話にしてタイトル回収

ブラインドカーテン越しの柔らかな光に包まれる、穏やかな空間。入学前試験の問題を見直すためセヴァラス・プライスが図書館に訪れると、そこには今年の注目株である光の魔法を扱う平民が既に勉学に励んでいた……。

ゲームではそんな感じでセヴァラスからヒロインに話しかける。ナレーションで話しかけてきた事が分かるため、何と声をかけたかは分からない。

分からなかったが、多分、今分かったかもしれない。


きっとセヴァラスはこんな風に声をかけたのではないだろうか。


「迷惑じゃなければ、この問題、教えてくれないか」


何故ならもういるんだよ、セヴァラスがこの図書館に。それなのに全然話かけてくる気配がない!

こちらは天使をチラッチラ見ているにも関わらず、向こうは微塵も気にかけてくれる気配がない。

思うにこれは彼より試験の順位が低いからなのではないだろうか。そりゃそうだよね。自分の分からない問題、自分より順位の低い平民が分かると思わないよね。


もう! 私はゲームのおかげでセヴァラスの分からなかった問題だけは問題文から暗唱できるくらい把握しているって言うのに!


机にかじりつく様にしている彼をジッと見つめる。黒く重い髪にカサついた色の悪い肌、サイズの合わない服、睨むようなギョロリとした目、若干16歳で眉間には皺まで。

 

セヴァラス・プライスの生い立ちは不遇だ。彼の父親はいわゆる辺境伯で、隣国との国境線を覆うように広大な土地を任されていたが、彼が生まれた頃から隣国との関係は悪化し、情勢は思わしくない。


王国の最北に位置する彼の土地は、元々冷害に遭いやすいのだ。より北部の隣国はさらに厳しい環境のようでこの王国を攻めようという声が収まらない。小競り合いが起こる度に領土は荒れていた。


その上5年前の戦争では、領土のあまりの悲惨さに彼の父親は隣国の軍からの金を受け取り、裏道を教えてしまったのだ。結果的に南に隣接する領土を戦場に挟み撃ちにして撃破したのだから、作戦と言っても過言ではなかったのだが、臆病な裏切り者との汚名を着せられてしまっている。


そもそも国王が日常的に国境線を守っているプライス家をもっとケアしていれば、何の問題も起こらなかったのだが。報奨金だけの問題ではなく、荒れた領土の復興を手助けするとか、税を軽くするとか、木材や武具などの援助をするとか。何せ王国の兵士はずっとお休み中なのだ。ちょっとくらい出張で手伝いに来てくれたって罰は当たらないだろう。


王国自体も懲りずに何度も攻めてくる隣国に辟易しているだろうに、もっと踏み込んだ対策をしなければ、北方の土地は荒れ果ててしまう。いや、恋愛ゲームにそんな事言っても仕方ないのだろうけど。


要するに彼の領土は常に争いと隣り合わせで、必死に働いているにも関わらず貧しているのだ。そしてセヴァラスはこの時代の兵士としては致命的なことに、視力が低下してきている事を両親に隠している。身なりが悪いのも貧しさや多忙さで手が行き届かない故の事で、常に睨むような目つきをしているのも単純に目が悪いからだ。


ゲームの後半でヒロインへの好感度が上がると、ヒロインがセヴァラスの目が悪いことに気付き眼鏡を勧めるイベントがあり、その眼鏡イベントの有無がアレクサンダーやジェームズを攻略出来るかに関わってくる。


あのイベントを回避するためにはセヴァラスが眼鏡をかけない方が良い訳だし、今彼の好感度を上げる必要はないけど……でも推しが目の前にいるのに話しかけないのは……。

それにもしゲームの影響があるとしたら、ここで出会いイベントを起こさないと、もう彼と親しくなれないかも知れない。


セヴァラスは自分が王族や貴族に良く思われていないことを重々承知しているため、ヒロインが誰かと行動している時や人が大勢いる場所では基本的に話しかけてこない。

もう一人の友人キャラであるエマと一緒に行動するようになると、セヴァラスと話す機会はなくなってしまうのだ。寮で同じ部屋になるエマと親しくなる前に、セヴァラスと話すタイミングはここしかない。


ゲームでも最初に図書館に行く選択肢を選ばないと彼との出会いイベントがなくなり、アレクサンダーとジェームズが実質攻略不可になる初見殺しな設定なのだ。


イベントで死亡しない限りセヴァラスは卒業したら領地に帰るし、光の魔法を持つ私が王国の中枢で雇われる事になるのはもう覆らないだろう。いくら中身が凡人でも、光の魔法が使えるというだけで価値が高いのだ。そうなれば、ゲームの影響を受けない時期に親しくなる、というのも難しい。


ええい、ままよ!


『あの、1年生ですよね? この問題なんだけど、よく分からなくて……良ければ教えて貰えますか?』

「……どれ」


私は思い切ってセヴァラスに話しかけてみた。

ゲームより素っ気ない。だけど教えてはくれるんだな。


『この問題なんだけど』

「あぁ、これは……」


入学前試験は自然学、国学、語学、理学、貴学の五単元。

指定したのは自然学の難問だ。正直言ってこの問題はゲーム内で解説があったため知っていたが、彼と親しくなるためにわざと間違えた。彼は特に自然学が得意なのだ。彼の領土が気候的に厳しいことや、父親が地形や天候を利用して小競り合いを制していることに起因しているのだろう。


入学して魔法学が入ると私の点数は相対的に跳ね上がってしまうので、彼を立てるなら入学前試験の自然学が一番だ。


そもそもこの入学前試験はクラス分けを加味して王族と上流貴族にかなり有利なものになっている。家庭教師を雇えることももちろんだが、国学はこの国にまつわる歴史が主だし、貴学は立ち振る舞いやダンス、マナーの知識を問われるのだ。


王族や貴族となれば国の歴史は、自分の家系や知人たちの家系の歴史という事になる。


国学の「三国戦争で燃えるような赤毛で紅炎の騎士と呼ばれた人物と、その戦果を上げた土地はどこか」という問題。答えとなる人物はエリザベスの曽祖父、戦果をあげた土地も飛び地として彼女の父親が所有している。

もちろん、未来の王妃である彼女の出自を理解している事は王族貴族として当然の事とも言えるが。


ただエリザベスは妃教育の賜物で元々国学と語学は得意なのだ。彼女をAクラスに入れるためにフォローをするならば自然学や理学の問題を工夫する必要がある。

国学でどんなにサービス問題を出したところで彼女の点数には影響しないし、恥をかくだけだ。国学の教師も、今回の試験でそれに気付いたはずだ。


『すごい! とっても分かりやすくて助かりました!』

「そう、良かった。他は大丈夫?」


声質は素っ気ないしニコリともしてくれないけれど、彼が照れているのが分かる。彼が口元に手をやるのは、照れている証なのだ。


『ありがとう! あ、私はレナ・ブラウン。貴方は?』

「……」


しまった……名前を聞くんじゃなかった。彼が自分の名前に劣等感を抱いているのは知っていたのに。先に名乗ったのも失敗だった。彼は私がヒロインだと知らなかったかもしれない。


「セヴァラス」


彼は目を伏せて答えた。前髪に隠れて表情は分からない。分からないけれど、彼は答えてくれた。


『……セヴァラス』


その名前を、本人を目の前に呼べるなんて、考えたこともなかった。

前世のお父さんお母さん。18歳で死んでしまって、ごめんね。

いやでも悪いのはあの真っ赤なスポーツカー野郎なんですけど、あの人は逮捕してもらうとして。

とにかく、私もしかしたら、この瞬間のためにここに来たのかも。


『貴方に会えて良かった』

「大袈裟だな」

『……誰も知っている人がいなくて、皆お知り合いのようだから心細く感じていたの』


ゲームでもヒロインはセヴァラスにそう打ち明ける。セヴァラスは、自分はいつでも一人だから、良ければ気軽に話しかけて欲しいと……。


「あまり僕に話しかけない方が良い」


―――うそ。そんな、どうして?


『……どうして』


ゲームと何が違うの? 試験の順位がここでも影響している?

それとも私の見た目のせい? セヴァラスもやっぱり美人が好きだとか……。


「僕は、好かれていないから。一緒にいると悪目立ちしてしまう」

『でも……でも、貴方はとても親切なのに』


悪目立ち。

そうか、ゲームのヒロインは試験3位でAクラス、王子とその婚約者に話しかけられて、しかも美人。何もしなくても目立っていたけど、この世界の私は地味だから。目を付けられないように考えてくれている?


Bクラスなのも影響しているかも知れない。ゲームではセヴァラスは別のクラスだから話しかけると言ったら図書館に限られていたからだろう。


それにAクラスは王族や上流貴族ばかりで皆ある意味マナーが良かったが、Bクラス以下はそうではない。ゲームでも寮や食堂といった共同スペースではヒソヒソと噂され陰口を言われているようだった。


「僕の家の問題だ。良く思われていない」

『それなら、図書館ではどう? ここは静かであまり人がいないし、これからも図書館で会ったら、一緒に勉強を?』


彼がゆっくりとこちらに顔を向ける。

驚いた表情から、照れたように少し笑みを浮かべる。


「それは、とても嬉しい。ありがとう」


天使。

生い立ちが不遇だけど努力家で優しくて、入学を期に光魔法を扱う異性の親友になり、その親友だけが彼の本当の美しさを知っている。

もしかして、貴方がヒロインなのでは?


よし、毎日図書館に来よう。

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