国王陛下とのお茶会
日差しは少し傾いて、中庭に用意されたテーブルは木陰になっており心地良い。
一緒にいるのがジェームズでなかったらもっと楽しめていただろう。
用意されたサンドイッチはキュウリが入っており、それがこの世界では珍しかったので聞いてみたら、貴族のサンドイッチには大抵入っているのだそうだ。
新鮮な野菜が手に入ることが名誉な事なのかな。平民のサンドイッチは大体味付きポテトとか肉が入っていた。その方が美味しい気がするけど。
「平民の舌には合わないようだな」
不機嫌そうな顔でジェームズが言った。
『ポテトのサンドイッチは美味しいですよ?』
「付け合わせ程度にしか食べた事がない。芋など戦争中の食い物だろう」
ポテトのサンドイッチは前世にもあったし美味しいんだぞ!
『……名誉のために美味しいものを食べられないのは貴族の辛いところですね』
飲み始めた紅茶の一杯目が空になる頃、国王陛下はキラキラの笑顔で戻ってきた。
付き添っている護衛は明らかに腕に怪我をしている様子で包帯を巻いている。
明かりの魔法だけじゃなく傷を治す魔法も見たいってところかな。そりゃそうか。
「楽しんでいるかな」
貴方の都合で時間つぶししてた私達になんだそのセリフ。お見合いか?
……お見合いじゃないよね?
「お待たせしてごめんなさいね、ブラウン嬢」
『こちらこそお忙しいでしょうに、お時間を取らせてしまいまして……』
チラリと負傷している男性に目をやると、国王は一層笑みを深めた。
「お察しの通り、席を外したのは彼の負傷と関わっている。どうかな、この傷が治せるかね?」
『見せていただけますか?』
傷はかなり大きく深い様子だった。これほどの傷を治したことはない。
『怪我をしたのはいつ?』
「先程です」
切り傷のようだ。清潔な布で覆っていたようだし、それなら感染症の可能性はないだろう。
両手を合わせて、祈る。
私には傷が治せる。この傷も、きっと。どうか治りますように……。
手の平をかざすと、傷は見る見るうちに治っていく。
治って……。
あれ……なんか……。
「ブラウン嬢!」
目がまわ……
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「ほらほら、外で遊ぶならちゃんと帽子かぶって! 水筒持ったの?」
「えー、やだー! 自販機で飲み物買うから」
「ジュースばっかり飲んじゃダメよ!」
……お母さん?
これ、小学校の時……。友達と家の近くの大きな公園でずっと遊んでいた時の……。
子どもが遊べる小さな噴水と人工の川があって、そこでずっと遊んでて……。
「熱中症や脱水になったら大変なんだからね! 脳みそがゆで卵みたいに固まるわよ!」
「嘘だぁ」
「本当よ、ちゃんと木陰の涼しい所で休んで、水分補給しなさいよ。そういう時はね……」
それで、友達が……。
~~~~~~~~~~~~~
「ブラウン嬢!」
『…………スミス先生』
気が付くと木陰でスミス先生に膝枕されていた。額には濡れたハンカチが置かれている。
『すみません……あの方は?』
「あの方?」
『腕の傷は治ったのですか?』
周りを見渡すと、その付き添いの方は傍に控えており、腕を見せてくれた。
綺麗に治っている様だ。
『良かった。途中で意識が無くなってしまいましたし、あんなに大きな傷を治すのは初めてだったので、魔法が暴発してしまったかと……』
「何故先に言わなかったの、魔法はあまり使いすぎると気力が失われて倒れてしまう事があると知っているでしょう?」
『……どのくらいが限界か分からず』
ジェームズも国王もそばにいてくれたようだ。日もそれほど落ちてはいないし、気絶していたのはあまり長い間ではないのだろう。
「……貴方はまだ学生です。私が気にかけるべきことでした」
『そんな! スミス先生のせいではありません!』
「無理をさせたようですまなかったね。しかしあれ程の傷を治せるとは、既に戦場に出ても立派に」
「父さん」
―――今、何て?
「学校は明日も休みだろう。今日は城で休んでいくと良い」
い!?
『だ、大丈夫です! その、そちらの美味しそうなケーキの1つでも食べれば元気になれます』
自分の座っていた席に戻ろうと立ち上がったが、クラクラと貧血の様にフラついてバランスを崩してしまった。
『うゎ、っ!』
強い力でグッと身体を引かれる。ジェームズが私を引き寄せて支えてくれたようだ。
そう頭では分かったけど、身体は全然動かず、彼の胸に寄りかかるようにして硬直してしまった。
「まだ無理だ」
う、うわぁぁぁぁぁぁ!
なにこれ、知らないイベントなんですけど!?
顔近っ!
間近で見るとイケメン過ぎないかこの人!
『も、申し訳ありません……ジェームズ殿下』
スミス先生もあらあらみたいな顔で見ないで!
これは吊り橋効果なので!
いやいや落ち着いて私。それはそれで置いといて、さっき戦争云々言われたのは何なんだ。
戦争には絶対に巻き込まれたくない。セヴァラスが死んでしまうのは、ロイシュークとの諍いが原因なのだ。
『もう大丈夫です』
「大事を取った方が……」
『学園で友人が待っていますので……それに王城は慣れない場所ですので、正直ゆっくり休めるとは思えません』
自分の座っていた席に戻る。このケーキだけは絶対に食べたいと思っていたんだ……。やっぱお城で出るケーキは格が違うよ。
「それもそうだな」
ジェームズが席に座って紅茶を飲みだし、皆もそれに倣ってくれた。良かった、助かった。
「そうだな、明かりの魔法はまた次回にしよう」
えぇ……。出来れば一回で済ませたかった。次回もスミス先生が付き添うのかな。二人が会う理由にされてる?
光魔法と言うより、スミス先生との好感度を上げすぎたのか。
「先程は少し口を滑らせたね」
全て悟ったような表情で陛下が口を開いた。
「私は出来る限り戦争を避けるつもりでいる。だが、北の地では諍いが絶えず、民は苦しんでいるのだろう。ブラウン嬢の村はウィンドレイクに近いと聞いた。村では皆どのように現状を受け止めているか聞かせて欲しい」
ほぉ、知ったような口を聞いてくれるじゃないですか。
私がセヴァラスと親しい事は認識しているのかな?
『皆、プライス家を慮っています。戦争を良しとする民はいませんが、ロイシュークに対する不安と不満はまずばかりで……もしも戦争が始まれば我こそはと名乗りを上げて戦いに参加する平民もいるでしょう』
「プライス家にも困ったものだ……」
そこ? 平民の考えが聞きたかったんじゃないの?
今の流れでどうしてプライス家が困ったって話になるのさ。
そもそも平民がどう思おうと国王陛下には関係なさそうだけど。この世界は選挙とかないもんね。魔法の使えない平民が貴族や王族に反乱、とか出来そうにもないし。
『……陛下はプライス家をどうするおつもりですか?』
何でもないことの様に聞いてみる。
現状プライス家への対応は明らかに中途半端だ。
「随分はっきり物を言う。そして痛いところをついて来るね……決めかねているというのが正直なところだ」
『申し訳ありません。ですが、プライス家が領土ごと寝返ろうとすれば私の村を含め、近隣の村は為す術がないかと』
「……君をロイシュークの手に渡すことだけは絶対に避けたい」
ですよね?
それがやられちゃうんですよ。来年の冬、私はロイシュークの奴らにさらわれてしまうんですよね! セヴァラスの領土で!
そしてセヴァラスは単独私を追いかけ、死んでしまうのだよ!
ヒロインのピンチに後から来たアレクサンダーとジェームズは、セヴァラスが残した痕跡を辿り私が囚われている小屋を探し出し救出、プライス家は嫡男の命がけの行動のおかげで今までの事は水に流してもらう……。
けどよく考えるとセヴァラスは一人っ子なので結局、と言う話なのである。
『私はプライス家の嫡男と友人です』
「そのようだね」
『村にいる頃からプライス家はいつも盾になってくる存在として認識していますし、恩があると考えています。村では感謝の気持ちとして、収穫した野菜や果物などを贈ることもあります』
セヴァラスと親しい事はやっぱり知っていたか。それなら下手に隠さなくて良かった。
国としては私を敵に回したくはないはずだし、ここまで言えば流石にプライス家への処遇を考えてくれるかな?
私もまとめて処分されちゃう、みたいな事はないよね……?
「平民の考えることは分からないな」
ジェームズがフォークを指先で弄びながら言う。
まぁ、会って一ヵ月程度の男を私が溺愛しているとは分かるまい。
それでも、今日はこれ以上踏み込まない方が良いかな。国王相手に喋りすぎた。
『言葉が過ぎました。愚かな平民の考える事ですので……どうかお許しください』
「いや、私は君が気に入った」
いや、気に入らなくて良いから!
ヒロインの特性ここで発揮しなくて良いから!
後日明かりの魔法を披露しに来るという約束をして、その日はお開きになった。
その日もジェームズがいるんだろうか。あまり会いたくないけど、アレクサンダーよりはマシなのかな……。
そうだ、今日は休日だからアレクサンダーもいるはずだよね?
時間つぶしならジェームズより同期のアレクサンダーを寄こしそうなものだけど……どうしてジェームズだったんだろう。
私がアレクサンダーを避けている事が伝わっているとか?




