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いとしのマリー

土曜の昼下がり……。

とても良い天気で、本当だったらエマと外庭を散歩したりお茶したり、とにかく楽しく過ごすはずの日。

私はスミス先生に連れられて王城に来ていた。


―――色々やりすぎたのか……?


ゲームのヒロインは個人的に国王陛下と話す機会なんてなかった。

入学の前に傷を治す魔法を披露したのも王宮の魔導士が確認に来ただけだったし……。


明かりの魔法を開発したって言っても、光魔法において光るのは基本じゃん。

傷を治す時にもパァって少し明るくなるし、それを少し応用しただけだよね?


傷を治す魔法は見ないで何で明かりの魔法なんかが見たいんだろう。


火の魔法で言ったら、火をつけられますって言うのと手の平に火を維持できますって言うのと同じようなものだよね?

さして違わないと思うんですけど!?


光魔法に未来予知があるのではないかと言う話は、魔法学の時にスミス先生には黙っていてもらうように話した。


『知っている気がするというだけで未来予知なんて大袈裟だし、まだ確定ではない。可能性の話を国王陛下に報告するのはどう考えても行き過ぎだ』とお願いしたら、承知してくれた。


スミス先生も私が戸惑っている事は見て取れただろうし、未来予知については何か分かったらすぐに相談するようにと優しく声をかけてくれた。


私からしてみれば、分かるのは学園内の二年間の話だけなので、すぐになくなることが分かっている訳だし。とにかく国王に報告する理由なんてない。


思わず特大の溜息をついた。


「緊張しているのですか?」

『……そうですね、本当、どうしたら良いのか』

「大丈夫ですよ。国王陛下はお優しい方で、身分の低い者を無下にすることもありません」


あまり無下にされるのも嫌だけど、無下にされなさすぎるのも困る。

臣民として大切にはしてほしいけど、平民が自分の子どもと結婚するなんてとんでもない! と思っていて欲しい。


いや、まぁストーリーの進行は国王陛下の意思に関係ないけど。


大きな門をくぐり、庭をぽてぽてと歩く。スミス先生は慣れた様子で歩き、すれ違う人々に挨拶をしていた。


宮廷魔導士だからここが仕事場なんだよね。

私、この広さは絶対迷う自信がある。上下関係とかも無理そうだし、明らかモブっぽい顔してる人達の顔覚えられないよ……。


前世の方がずっと各々顔立ちに差があったような気がする。

あれか? 西洋風だから日本人ベースの私には差が分かりにくいのかな。


庭を渡り切りようやく城まで辿り着くと、そこには国王陛下とジェームズが立っていた。


え? どういうこと? まさかお出迎え?


と言うか何でジェームズ?

出会いイベントどうなっちゃうのこれ。


「国王陛下、一体どうされたのですか?」


しかもスミス先生、国王陛下に普通に話しかけてるんですけど?

宮廷魔導士ってそんなに偉いの?

スミス先生は火魔法の使い手だから、宮廷魔導士の中でも立場は上なんだろうけど……。


「あぁ、マリー、ブラウン嬢。よく来てくれたね」


……マリーって言いましたかね、今。


「マリー、少し良いだろうか。宮廷の方で所要が出来てしまってね。ブラウン嬢、中庭に席を用意したから、少々お待ちいただけるかな。ジェームズ、その前に城を案内してあげなさい」

『……お忙しいようでしたら日を改めますが』

「いや、すぐに済む用件だ、申し訳ないが、先に中庭で待っていてくれ」


国王陛下は何か急いでいるのか、スミス先生と連れ立って城の奥に行ってしまった。


えぇ……私一人ジェームズと残して何でそんな……。

ろくに紹介もされてないのに……。


「ブラウン嬢、私はジェームズ・カーライル。突然の事で、驚いているだろう」


ジェームズは私より1つ年下だが、既に私よりずっと背が高かった。ゲームでも入学時、アレクサンダーより高い設定のはずだ。


黒髪にやや吊り上がった黒い目。とてもハンサムで勝気な俺様王子だ。目をつけられてはいけない。


『レナ・ブラウンです。ジェームズ殿下。忙しい時に来てしまったようで』


深く深く頭を下げる。

ジェームズは、アレクサンダーが気にかけているというヒロインが、王太子である彼と対等に話す様子を気に入ったはずだ。ジェームズに頭を下げれば、第一印象では興味を引かないはず。


「関係ない。いとしのマリーと2人で話がしたいのさ」

『えっ!?』


国王陛下とスミス先生って親しかったの?

ゲームではそんな設定なかった……って、知らなくて当然か。


「彼女と父さんは学生時代の同期だ。彼女が厳格で規則にうるさいのもそのせいだ。やましいことがあると疑われないように、真面目に見えるよう努めている」


スミス先生と国王陛下は同期!

私とアレクサンダーみたいなものか。確かに二人の年頃は近いだろう。


学生時代に同期だったら名前で呼び合うのもありえない話じゃないけど、それでも人前では控えてくれないと勘違いされても仕方ない……と言うか、いとしのマリーってことは、実際そうなのかな?


「城を案内する。こちらへ」

『……はい』


いや、今案内されても全然頭に入らないんですけど!?


「余程驚いたようだが、宮廷では知らない奴はいない。だからこそ王位争いも苛烈だったのさ。第一王妃も第二王妃も、どちらも王の寵愛がある訳じゃない。その上生まれた子供はどちらも男児、年の差も学年こそ違うが数字で見れば数か月の差だ」

『……そうなんですか』


王位争いは後ろ盾の貴族とかが絡んでいるだろうから分からないけど、国王陛下は二人の王妃のどちらとも愛し合っていた訳ではなかったのか。


もしかして、そのせいで王はアレクサンダーやジェームズが平民である私と親しくなることにも寛大なのかな?


最終的な婚約云々は置いといても、アレクサンダーがヒロインと親しくして婚約者であるエリザベスを蔑ろにしている話は届いていてもおかしくない。


だけど、エリザベスを王妃の立場から降ろす必要ある?

国王陛下もアレクサンダーもこの国の王様になる人なんだよね?


『愛妾として召し抱えても良かったのでは? ……っと』


喋りすぎたと思い慌てて口を押さえたが、ジェームズはニヤリと笑った。


あ、スチルの表情だ。意地悪な顔。一部のファンから絶賛され、グッズでも必ず登場する表情だ。


「アレクサンダーの母親が許さないだろうよ。第二王妃を迎えた時も、俺が産まれた時も結構な騒ぎだったらしい」


うーん。アレクサンダーのお母さんって嫌われているのかな?

国学で勉強した限りではアレクサンダーの母親もジェームズの母親も侯爵家の令嬢で、文面上の差はないのに、第一王妃にも関わらずどうも冷遇されている気がする。


ジェームズのお母さんはスミス先生を受け入れたけど、アレクサンダーのお母さんは拒否した、とか?


「あの宮廷魔導士を見れば、父がどんな女が好みか分かりそうなものを。それの真逆を行くようなバカな女さ」

『……聞かなかったことにします』


遠巻きに付いてきている護衛の兵士達を横目にそう答える。


「君、頭は悪くないみたいだな。だが誰かに言ったところで君の立場が悪くなるだけだ。頭が良いとまでは言えないな」


ゲームより三割増しで性格悪いな。


ヒロインのことを気に入ってないからだろう。ジェームズは初対面のイベントで勝手に好感度がグッと上がる。

本来会うのは来年の入学後のはずなんだけど。


いいや、話題変えよう。


『ジェームズ殿下は剣術や馬術がお得意だそうですね』

「間違っているな。俺は全て得意だ。俺の評価で、剣術や馬術が得意と聞いたのなら、それはアレクサンダーと比べているからに過ぎない」


ジェームズは険しい表情で吐き捨てる様に言った。


まずい、怒らせた?

あんまり嫌われるのはありがたくない。来年彼が入学すると、アレクサンダー派とジェームズ派で学園が分裂してしまうのだ。


『……確かに、アレクサンダー殿下はその二つは苦手なようですね』

「分かれば良い」


単純!

そうだよね。いくら賢いとは言え、まだ15歳なんだもんね!?


『城にもジェームズ殿下の馬が?』

「あぁ。僕のフルフルは、世界一美しく強い白馬だよ。中庭に行く前に見せよう」


あっという間に機嫌は良くなったようだ。

ジェームズは馬が好きだ。イベントでも彼の愛馬であるフルフルの話が出る。

ジェームズルートは攻略しきったとは言えないけれど、フルフルという名前が可愛くてそこはよく覚えている。


ただこのフルフルちょっと気を付けなければいけなくて、ジェームズルートでフルフルに会うとちょっとしたトラブルが起こる。それでジェームズとヒロインの仲は発展するけど、今は気を付けなければならない。


まぁ、乗馬しなければ良いだけの話だから大丈夫だとは思うけど。

今日は学園の制服だから、とてもじゃないが乗馬は出来ないし。


「馬が好きなのか?」

『動物全般大好きです』

「……ふん、田舎者の言いそうなことだ」


この好感度で『フルフルに乗せてあげよう』ってこともないだろうしな。


城の一階を一回りして、広間や食堂、なんだか高そうな絵画や彫刻、ピアノなんかを見せてもらい、その後馬屋に連れてきてもらった。


『綺麗……』


フルフルはゲームで見るよりもずっと可愛い。

驚かれないようにそっと近付く。馬はかなり神経質だってゲームでジェームズが言っていた。


「……よくそれがフルフルだと分かったな」

『え? それは……ここにいる馬の中で一番綺麗で、体格も素晴らしいですし、よく手入れされているのが分かりますから』


危ない。ゲームで見ていたからこれがフルフルだと分かったけど、馬屋には他にも白っぽい馬はいる。だけど改めて見回しても、フルフルが一番美しかった。


「手入れは俺がしている」

『えっ、殿下がご自分で!?』

「学園に行けば手入れが行き届かなくなるだろう。今は日々の躾やブラッシングはもちろん、タテガミや尾も俺がトリミングしている。アレクサンダーはやろうとしないんだ。馬屋が臭くて不衛生だから、身体に悪いとあの母親が言っているらしい」


アレクサンダー親子のこと大っ嫌いじゃん。

でもアレクサンダーは小さい頃から身体が弱かったから、過保護になっちゃうのも分かるけど。

この時代は落馬での死亡だってバカにならないだろうし。


『一から十まで比べられるのは大変な事でしょうね。お二人共、ご自分の好きな事に打ち込める環境ならどんなに良かったか』

「……」


少し足が疲れたあたりでようやく中庭に案内されると、そこには侍女が数名待機しており、テーブルに食事の用意がしてあった。


国王陛下遅くない!?

これじゃあジェームズに会いに来たのか国王陛下に会いに来たのか分からないんだけど!


「いとしのマリーはまだのようだな」

『……ジェームズ殿下、あの人は私の教師ですし、来年は殿下も同じ学園に入学します』


良く考えたらアレクサンダーはよくもまぁ普通にスミス先生と話してたな……。


溜息をつきながら注がれた紅茶に口をつける。

もうクタクタなのに本番はこれからだとは信じられない。長い一日になりそうだ。

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