謝罪
ジョシュアの目が青かったり緑だったりしたので青で統一します
ジョシュアと別れて真っすぐに女子寮に向かったはずだが、何故か女子寮の前に彼がいる。
そしてめちゃくちゃ女生徒に囲まれている。
あそこを突き進むのは無理だな。
「ブラウン嬢」
うーん。
ジョシュアがこちらを見つけて声をかけると、女子生徒が一斉にこちらを振り向く。
「少し話が」
『私にはありません』
「謝罪させてくれ」
ナニコレ、デジャブ?
ほんの少し前にアレクサンダーと同じような会話したんだけど。
『アレクサンダー殿下が憑依されました?』
近付いてきたジョシュアに小声で囁く。
「あの男と同じ状況に自分が陥ったのは苦々しいが、弁解させて欲しい」
『後ろに女性がひっついているのも同じですが……』
ジョシュアは後ろをチラリと見ると、少し歩こうと提案してきた。
まぁ……ジョシュアとは和解できた方が良いか。
「食堂近くからこの女子寮には外庭を回った方が早い」
『そうだったんですね』
女子寮の裏は確かに外庭と隣接していた。良く見ると木々や花壇、東屋の向こうに確かに学校が見える。建物が見えるなら道に迷う事もないだろう。
「……先程はすまなかった。君を他の女性と同じだと決めてかかって後悔している。幼い頃からエマには何度も友人を紹介されたが、そのほとんどが僕と親しくなるための手段として彼女を利用していたんだ」
ジョシュアがグッと身体を寄せる。キラキラと美しい髪が肩を流れ、青い瞳が真っすぐにこちらを見ていた。
彼の言う事を何でも聞いてしまいそうなほどの美しさだ。
「君が、新学期早々にアレクサンダーやエリザベス、セヴァラス・プライスと親しくしているという噂を耳にしていてね。プライス家は評判こそ悪く孤立しているが、家柄は立派な辺境伯だ。家柄だけを重要視すれば好条件とも言えるし、君が悪評を知っているとも思わず。そんな君がエマのような平凡な伯爵令嬢と親しくする理由は、一つしか思いつかなかった」
めっちゃ嫌な女と思われてるじゃん。
アレクサンダーから逃げていたのは気が付いたのに、なんでそんな風に思われてるの。
『殿下を避けていたのを貴方の目で見たはずでは?』
「確かに君の言うとおりだが、彼は王族だし既に婚約している。彼にあまり親しくされては他の男性が近付かないだろう」
それは確かにそうかもしれない。ジョシュアはエマをとても大切に思っている設定だから、自分のためにエマが悲しい思いをしたり利用されたりするのを苦々しく思っていたんだろう。
当のエマはあれだけ純粋で真っすぐな子だし、不安な気持ちは分かる。
『分かりました。そういったことなら謝罪を受け入れます。もちろん、エマにも今回の事は黙っています。殿下から助けていただいた事は事実ですから、その感謝を忘れるつもりもありません』
「ありがとう。今後も協力しよう。アレクサンダーのあの態度は私も気になる。エリザベスの立場も考えず……」
いや本当ですよ。
『リッチ様や他の先生方にも本当によくしていただいています。ですが私は、セヴァラスとエマの事は特別に思っています。私に何の下心もなく親切にしていただいていると感じるのです』
ゲームの中で彼女が素晴らしい女性であることは十分知っているが、今の自分からはこの程度しか言えない。
まだ出会って一ヵ月程度なのだから、これで十分に信じて貰えるかどうか。
「……エマに君のような友人が出来ることを夢見ていた。それなのに私が失礼な態度を取ってしまうとは」
『買いかぶりすぎでは? プライス様の事でNOと言っただけです。彼も辺境伯ですから、私が成り上がろうとしている事に変わりないのでは?』
「君は私の忠告に怒りを露わにし、はっきり断った。その上彼を想っていると告げたのだから、私のためにエマを利用している訳でないのは明らかだろう。それで十分だ」
植えられている薔薇の棘を確認するように指でなぞりながらジョシュアが言った。
私がエマを傷付けなければそれで良いと思っているのかな?
『私がプライス様と親しくしていることで、エマにも何か悪影響があるのではと、そういった意味の警告かと受け取ったのですが……』
「もちろんその可能性もある。だがエマは気にしないだろうし、そんな相手は彼女の結婚相手に相応しくない。下らない相手と結婚するくらいなら家にいれば良い。ヘンリーは優秀だし、エマはヘンリーの子どもたちの家庭教師としても十分やっていける」
個人的には全面的に同意するけど、この時代、と言うかこの国の文化で、変な男と結婚するくらいなら独身で良いってすごいなぁ。
前世の中世ヨーロッパと似た貴族社会ではあるが、この世界では女性も魔法が使えれば魔法関係の仕事にはつける。
それでも高貴な身分の女性は仕事につかないのが一般的だ。
より素晴らしい相手と結婚することこそ、この世界の女性の幸せとも言える。
ある意味ロマンティックだけど、残酷な世界だよね。
『エマは面倒見が良いですし、教え方も上手です。私も彼女なら良い家庭教師になれると思います。ですが、彼女が独身のままでいるとしたら、周りの男は見る目がなさすぎでしょう。クラスでも人気ですよ』
「……」
『……ジョシュア様! 血が!』
ジョシュアが片手間に弄んでいた薔薇で肌を傷つけたのか、白い指に真っ赤な血が垂れていった。
「あぁ、すまない、ぼんやりとしてしまった……」
『指をお貸しください』
ジョシュアの中指には小さな傷があった。魔法を使う程でもなさそうだけど、魔法を使う時、何を考えているのか意識してみよう。
いつもどうやっていたっけ。
深呼吸をして……手を合わせて……。
自分の手の平が熱くなるのを感じたら、相手の傷にかざす。
私には傷が治せる、きっと出来る。お願い、治って……
「……素晴らしい」
ジョシュアはしげしげと指を見つめ、親指でこすってみたり舐めたりした。
確かに不思議だよね。治って、と祈る感じなのかな。
他の魔法を使う時も、火が出る様に念じている感じなのだろうか。
光だけが、傷や病を癒すことと直接結びついていない気がするんだけど……。
『自然の傷は感染症を起こすことがありますから、しばらくはお身体に気を付けてください』
まぁ本当なら洗ってから治した方が良いのかもしれない。今まで感染症になったのは一回だけで、負ってから大分時間が経ってから治したものだから、多分すぐに治せば問題ないとは思うけど。
「迷惑をかけた。寮まで送ろう」
『いえ、それは遠慮させてください。ジョシュア様が言ったように、これ以上高貴な身分の方と親しくなったら皆に誤解されます』
「……そうか、それではエマによろしく」
あぁ……確かに先程の寮の前での騒ぎはエマの耳に届いているかも知れない。
アレクサンダーとドリスに参っていることは話してあるし、ジョシュアが助けてくれたことを話せばエマに誤解をされるということはないだろう。
とにかく早くエマと話をしようと来た道を戻り女子寮に帰ると、寮の入り口の前でご本人が仁王立ちしてこちらを真っすぐに見ていた。
「レナ、女子寮はとんでもないことになってたのよ?」
『ご、ごめん……でも事情があるんです!』
「全部話してもらうからね!」
皆が遠巻きにこちらを見る中、エマの部屋まで連行されてしまった。




