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ジョシュア参戦

個人的にはジョシュアが一番書いてて楽しいです

魔法学の授業が終わりに近づくにつれ、私は中庭をどう抜けるか考えながら魔法の練習をして回った。


光の魔法は場所が特定されないから、一番良いコースを通って寮に戻りたい。

アレクサンダーのいる湖から一番遠い出口を通って……。あの木陰を抜ければ早いかな?


風の魔法を練習しているところだ。ジョシュアがいる。


―――やっぱ美少年だな。


アレクサンダーはハンサムと言う感じだけれど、ジョシュアは美しい。

精巧に作られた人形か、前世で見た吸血鬼映画の主人公のようだ。


プラチナブロンドの髪に白い肌、青い目。華奢な体で所作も品がある。もはや美少女と言っても良い。


少し見つめすぎていたのか、ふいにジョシュアが振り向いた。


そしてこちらを見て、クスリと笑う。


―――っその流し目は反則でしょう!


何だあの魔性の笑みは! 吸血鬼か? 本当に吸血鬼なのか!?


やばいやばいやばい。

まだヒロインはジョシュアの顔を知らないはずだから……どどどどうしよう!


いや、たまたま! たまたま目が合っただけだから! 偶然!

全然意識なんてしてませんけど? え、見つめてた? そっちの自意識過剰なんじゃないですか? みたいな感じで行くしかない。


と言うか、別に誰かに咎められた訳でもないし、本当にたまたま目が合っただけで……。


違うんだセヴァラス。今のは違う。私が好きなのはセヴァラスだけなんです。あまりの美少年さにドキッとしただけで……。それは恋愛とかじゃなくてこう、高級な物を手に取る時緊張するみたいな……。それだけなんです……。


心の中でブツブツ言い訳しつつも、授業が終わったらジョシュア達のいる方向にダッシュするしかない。


それもこれもアレクサンダーのせいだ。いや、今日は話しかけて来ないかもしれないけど。

万が一話しかけられたら嫌だもん!


スミス先生が生徒全員に声掛けし、皆で一礼をする。

顔を上げながらチラリと横を見ると、アレクサンダーは別の出口が近いのにこちらに向かってきている。


やっぱ来るんじゃん!? 逃げなきゃ!


もう一方の出口に小走りで向かうと、ジョシュアが笑顔でこちらを見ていた。


あれ? これ何て言うんだっけ? 前世の本で読んだことあるよ?


分かった。『前門の虎、後門の狼』だ。


「ブラウン嬢。初めまして。僕はジョシュア・フローレス。エマから君の話は聞いているよ」

『初めまして。レナ・ブラウンです。エマからフローレス様の事はよく聞いております。……ずっとお話したいなと思っていました』

「それは嬉しいな。是非ともその理由を知りたいね」

『……理由、ですか?』


ジョシュアが私の後ろに目をやる。そちらを振り向くと、アレクサンダーとドリスが立っていた。


うわ……。


申し訳ないなと思いつつ、私は少しジョシュアとの距離を詰めた。


「ブラウン嬢、ジョシュア」

『アレクサンダー殿下、アンダーソン様。ごきげんよう』

「……」


いや何か言えよ、ドリス。無視か。

と言うか、なんか、怒ってる?


「先日は君を傷つけたようで……二人で謝罪をしなければと話していたんだ」


いや絶対嘘でしょ! ドリスの方絶対に謝る気ゼロじゃん!


『いつの事でしょうか? 心当たりがなくて……ですので謝罪などいりません』

「私は君達の暮らしについて無知だった。もっと話をする必要があると考えている。これからドリスやエリザベスと王都でお茶をする予定なんだが、一緒にどうだ?」


いや無理。王都って言うのがまず無理。そんでドリスも一緒なのもっと無理。

と言うかアレクサンダーは女三人とお茶して楽しいのか?


『寮生活の生徒が外出をするのは許可が必要ですので……』

「あぁ、そうなのか。学長の所へ行けば良いのか? 私が一緒に行けばすぐに許可が下りるだろう」


お願い、行かないでジョシュア。三人は無理。本当に無理です。


ジョシュアの方をそっと振り向くと、思っていた以上に顔が近くにあった。


「失礼ながら、殿下。彼女は、私の従妹のエマと約束があるのです。私も同席する予定です」

「それなら仕方ありませんわね。殿下、エリザベス様がお待ちですわよ。それでなくとも、お昼から特別クラスが終わるまで一時間以上もお待ちなのですから、急ぎませんと」


食い気味にドリスが口を挟んだ。

私の事はともかく、エリザベスにまで嫌みかよ。


「そういうことなら仕方ない。ブラウン嬢、また改めて謝罪の場を」

『必要ありませんわ、殿下。傷付いてなどおりません。私は当然、自分が平民の出身だという事をよく理解しておりますので』

「……もう行きましょう、殿下。気にしすぎですわ」


アレクサンダーはまだ何か言いたげで、と言うよりも、もしかしたらさっきの私の発言に傷付いたのかも知れなかった。


「それでは、我々は失礼いたします。エマが待っておりますので。アレクサンダー殿下、アンダーソン嬢、ごきげんよう」


さぁ、行きましょうとジョシュアが腕を出してくれる。

エスコートしてくれるのかな、よく分かんないけど、多分こうだった気がする。


そっと腕に手を添え、2人に礼をしてその場を立ち去った。


「求められた役割は果たせたかな?」

『ありがとうございます、フローレス様。察してくださって、本当に助かりました』


中庭が見えないほどに離れたためジョシュアから距離を取ろうとしたが、ぐっと脇を締められ、その上もう一方の手も添えられた。


「以前何と言われて傷付いたのか、エマから聞いている。私たちは君が思っている以上に親しい。もちろん、従兄妹同士としてね。それに、アレクサンダーは幼少の頃から君に執着している」

『執着、ですか?』

「身体の弱い自分と同じ年に生まれた光の魔法を使う少女。君を自分の天使だと」


何だそりゃ! 初耳なんですけど!

ゲームでそんな事……いや、君は僕の天使だとか言ってるイベントはあったか!?


いやでもあれは好感度がかなり上がってからのはずで……。よくある口説き文句だと思ってたけど、最初からそんな風に思ってたのか。


だけどジョシュアは何で今話しかけてきたんだ?

ジョシュアと特別クラスで一緒なのはゲームでも同じだし……。


「あれ程あからさまに避けられてなおもドリスをくっつけたまま君をおいかけるなんて、周りにどう見えているか分からないのかな。言っておくけど、君がダン先生やミラー先生と話している時から穴が開くほど見ていたよ」


……そうか。ゲームのヒロインは私ほどアレクサンダーを避けていなかったからか。と言うか、クラスが同じだから避けようがなかったのかもしれない。クラスが同じなのにあんな風に避けたら流石に態度悪すぎる。


「……そのリボン、似合っているね。僕がエマに買ったものだけど」

『えっ!? そうだったんですか!? すみません!』

「構わないよ、エマからも一筆貰った。彼女と街に出かけた時に、随分見ていたからプレゼントしたんだが、自分の髪色に合わなくて悩んでいたらしい。女心は難しいね」


ドリスの事もその時の手紙に書かれていたんだよ、とジョシュアが笑う。


それじゃあ助けて貰ったのは、このリボンのおかげもあったのか!

ありがとうエマ! 本当に君は天使だよ、やっぱりエマがヒロインだよ!


『それでは、エマに感謝しなくては……彼女のおかげで何度助けられたか。本当に、彼女以上の親友はいません』

「そう言ってもらえると嬉しいな。私もエマの事は大好きだ、実の妹のように大切に思っている」


ジョシュアとエマは従妹とはいえ身分の差がある。レイブン夫人がどのようにしてフローレス家に嫁いだのかは分からないが、身分の差による問題は多かっただろう。


現にドリスとジョシュアの婚約は、伯爵家であるエマの家族と親しいことで中止になったのだから。


「それより、もし君が望むなら魔法学の授業は私が一緒にいることも出来るよ」

『え? 良いんですか?』

「もちろん、エマと君が中庭でランチをすると聞いて羨ましかったんだ。そこに混ぜてくれるね?」


そこから!?


「私が君を助けるのはエマの友人だからだ、そのリボンに免じてだよ。まさか都合の良い時だけ、僕と一緒にいようと? 殿下を避けるために私以上に相応しい役者はいないと思うけど」

『……そうですよね』


おかしいな。ゲームのジョシュアはもっと優しかったんだけど……。

まだ決定的な事が起こってないから? これがジョシュアの素なのかな。


「もしくは……君が私の友人になるなら、エマは関係ないね」

『友人、ですか?』


あれ、と言うかこれ、どこに向かってるんだろう。

もしかして食堂?


食堂は寮を使っている生徒がよく集まって人が多いし、このまま腕を組んで行く訳にはいかないよね……?


『あの、腕を……』

「君の都合で腕を組んだ。離す時は私の都合だ」

『えっと、フローレス様……?』

「友人としての助けが必要なら、私の事はジョシュアと呼ぶように」


え?


……え? どうなってるのこれ。ジョシュアの好感度……。


―――! 待って、これってランダム遭遇からの連れ去りが発生したってこと!?


私がアレクサンダーよりジョシュアを選んだからジョシュアの好感度が急激に上がったんだ。


ジョシュアは普通だったら出会いイベントからいくつかイベントをこなすまでずっと夏休みだから、ジョシュア呼びをするのは夏休みの間のはず。

それをいきなり連れ去りが発生して好感度が上がっちゃって、よく分かんないことになってるんだ。


でも、そしたらアレクサンダーの好感度は下がった?


目論見成功じゃん……。

だとしたらやっぱり、ジョシュアに一緒にいてもらうのが良い。


あんまりジョシュアの好感度上がりすぎるのも怖いけど、他のイベントを全部回避したら可能かも……。


『分かりました、ジョシュア様。ですが、あまり長く腕を組んで歩いてはあらぬ疑いをかけられてしまいます』

「もうかなりの生徒に見られたよ」

『……ジョシュア様。私は平民の身の上。お困りになるのはジョシュア様かと。良い女性との婚約が難しくなってしまうのでは?』


ジョシュアはまだ婚約者のいない身だ。

この世界では学園の二年目が成人の歳で、学園内でも盛大に祝う。いわゆるデビュタントだ。

学園の生徒はもちろん、家族や園外の関係者も出席が許されるパーティーで、そこで婚約が決まることも多い。


学プリのラストを締めるパーティーだ。アレクサンダーを攻略すると、彼はそこでエリザベスとの婚約を解消し、ヒロインとの婚約を宣言する。そして幸せなキスをしてめでたしめでたしだ。


―――いや、どこがめでたいんだ?


エリザベスはゲームの中でも、せいぜいヒロインを自分のグループに入れなかったり、アレクサンダーとの親し気なふるまいを咎めたりするくらいなもので、大きな問題となるような嫌がらせをする訳ではない。


エリザベスにどんな罪があるって言うんだ。


そもそも、王太子が婚約破棄を宣言しただけで、まだ陛下からの返事がない時点でキスして終了って。多分その後絶対トラブルになるよね?

周りの貴族が納得しないでしょう。根回しは済んでいるのか?


「アレクサンダーや僕とこのまま親しい素振りをしていれば君が婚約者になれる可能性があるとは考えなかったのかい? 君は美人だし、光魔法の使い手だ。将来は王宮魔導士になれる、十分婚約者になりえると思うけどね」


へぇ、そんな風に見えるんだ。

実際のヒロインは今の私なんかより身なりを気にして、所作も気を遣っていたから、もっとずっと美人だったはずだ。


そう考えると貴族の令嬢から見ればヒロインは気にいらなくて当然だったろう。

美しさと魔法の才能だけで、自分達が望んでいたものを手に入れようとしていたんだから。


『アレクサンダー殿下には既にリッチ様という素晴らしいお相手がいますし、私は貴学が苦手です。それに、想っている人がいるので』


ジョシュアに好きな人がいると言うのを打ち明けるのはかなりの賭けだけど、協力してくれる可能性はないかなぁ。

エマの友達だからってことで協力してくれるのが私としては一番ありがたいんだけど……。


「へぇ……それほど想っている相手が誰なのか興味があるね。まさか、君が毎日図書室で一緒に勉強している相手かい?」

『……何故図書室で彼と会っていることをご存知なのです?』

「気付いていなかったのか。噂になっているよ。彼は問題児だからね。一緒に行動すれば目立つし品格を疑われる」


は? なにそれ……。


私はジョシュアの腕を振りほどいた。


『買い被りすぎたようですね、フローレス様』

「……ブラウン嬢」


しかもこっちにはジョシュア呼びさせといて、そっちはブラウン呼びですか。


『セヴァラスは、確かに彼の家は大変な状態にありますが、決して彼が問題児という訳ではありません。私が彼と友人なのは、エマも承知済みです。貴方にどうこう言われる筋合いはありません』


失礼しますと言って、早足で立ち去る。

追っては来ないようだ。

エマに謝るべきかな? どちらにしろ、私がセヴァラスが好きな事をエマに伝えた方が良さそうだ。

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