リボンに誓う
「実を言うと、貴方の髪型は私も気になってたの……」
『……まぁ、ですよね』
寮に戻ってからアルバート先生に髪型について指摘されたことを相談すると、エマはおずおずと言った。
確かに自分のような髪型をしている生徒はこの学校にはほぼいない。ポニーテールのように結んでいる子がいない訳ではないが、髪飾りをつけたり髪を巻いたりとお洒落に決まっている。
だけど髪飾りには宝石がついていたり、リボンもシルクやレースが使われていたりして高価だ。この世界にはヘアアイロンがないので、巻くとなるとかなり時間がかかる。もちろん、整髪料のお値段も馬鹿にならない。
火の魔法を上手く使ったらカールに出来ないのかな……。
どちらにしろ私には出来ないから意味ないか、光の魔法は熱を持っている訳じゃないし。
「普通に降ろしたら良いんじゃない? そういう子はいるわよ」
『……邪魔だから』
勉強をするのに邪魔なのはもちろんだし、長い髪を垂らしているとアレクサンダーが触ってくるかも知れない。
それに降ろすとなったらきちんとヘアケアをしないとただのボサボサになりかねない。
いくら私でも、流石にそれはどうかと思う……。だけどヘアケアをする時間と労力は惜しい。
『あ、切っちゃうのは?』
「ダメダメダメ! 髪が短いなんて余計目立つわよ!」
『うーん……それじゃあ巻こうかな……』
朝起きる時間一時間近く早くなるかな……。
「仕方ないわね、私のリボンを一本あげるわ。お近付きの印ね」
『えっ、良いの?』
「良いわよ。一目ぼれして買ったのだけど、私の髪色には合わないと思っていたの。ジェーン、あのリボンを持ってきてくれる?」
侍女は一礼をしてエマの部屋に向かった。
『今のやり取りでどのリボンの事か分かるなんてすごいわね。一心同体って感じ』
「彼女は私が三歳の時から一緒なの、年の離れたお姉さんって感じね。洋服やリボンの合わせはいつも彼女と相談しながら決めているわ」
『私にもまたアドバイスをくれて嬉しいわ。今度一緒に買い物に行ってくれる?』
「ぜひ行きましょう」
ジェーンの持ってきたリボンは深い赤茶のリボンで、品の良いベージュのレースがあしらわれていた。
確かにエマの茶色の髪では馴染みすぎてしまうかもしれない。私の髪色には合うだろう。
「きっと貴方に似合うわ! 明日の朝つけてあげるから、部屋に行っても良い?」
『もちろん! よろしくお願いします!』
エマに何かあげないといけないな。現実問題お金はあまりないから、何か考えよう。
ヒロインって言ったら手作りのお菓子とかなんだろうけど、私は作れないしここには設備がないしなぁ。
『エマにも何かしてあげたいって思うんだけど、難しいわね』
「私? それじゃあ、今度家に遊びに来ない? 私の家族に手紙を出したのだけど、皆光魔法を見たがっているの」
『良いの? ぜひ行きたいわ! 光魔法ならいくらでも披露しちゃう!』
って、あれ? これってジョシュア出会いイベントかな?
違うよね、ジョシュアと会うのは今年の夏のはずだし。あのイベントは暑い時期じゃないと発生しないはずだ。
ジョシュアとの出会いは、夏休みに起こる。レイブン夫人が療養のために海に行くため、エマと一緒にお邪魔させてもらうのだ。
体調が優れないレイブン夫人に光の魔法をという事だったが、ヒロインは傷を癒すことは出来ても体調不良を治す事は出来ない。それでもレイブン夫人は最後に光魔法の美しさと、エマとヒロインの友情を称え、この世を去る。
自分の母を亡くしたジョシュアは、落ち込むエマを支えて励ましの言葉をかけるヒロインに心を動かされる。そしてレイブン夫人の最後の言葉に背中を押されるように、ヒロインを愛していくのだ。
このゲーム、意外と脇役が死ぬ。
魔法と戦争が関わるゲームだから仕方ないと言えば仕方ないのかも知れないけど、別に殺すことなくない?
でも何で体調悪いからって夏に海なんだろ。避暑地に行けば良いのに。
セヴァラスの領地は北部だから涼しいし、大きな湖もあるし避暑地に良さそうなんだけどな。小競り合いがあるのは冬だって言うなら、夏は稼ぎ時なのでは……。
冬にセヴァラスに領地に行くだろうから確認しておこう。
そして出来る事なら夏にも少しお邪魔しちゃおう。
「弟が貴方に会いたがっているのよ。弟は私と違って魔法の才能があるの」
『エマの家族に早く会いたいわ』
多分今回の家族って言うのは、エマの両親と弟の事かな。
エマの弟も夏のイベントの時にいたはずだけど、名前もスチルも出てなかったな。
『弟さんの名前は何て言うの? 私たちが学園にいる間に入学するのかしら』
「ヘンリーよ。5つ離れているから学園では一緒にならないわね」
5つしか離れていないんだ。ゲームでは年の離れた弟って出ていたから、もっと小さいのかと思った。
でもナイトリー家が安泰って言われるくらい利発って設定だからそのくらいなのかも。6~7歳で利発とか言われても限度があるもんね。
「それにしてもアンダーソン様には困ったわね」
『ほんと腹立ったよ、エマがあの人の親戚にならなくて本当に良かった』
「魔法学じゃあ私が一緒にいる訳にもいかないし……アレクサンダー殿下がわざわざ食堂まで来て貴方に声をかけたのでしょう?」
そうなんだよね、わざわざ探しに来てあの嫌みってことだもんね……。いやドリスはアレクサンダーにくっついて来ただけなんだろうけど……。
『そうだ、魔法学のある日のランチはバスケットセットを買って中庭で食べない?』
「良いわね! そうしましょう!」
『エマ、本当にありがとう』
本当になんて良い子なんだ。今やヒロインよりもヒロインだよ。
このゲームヒロインの素質ある人多くない!?
私はエマに貰ったリボンを握りしめて誓った。
やっぱりレイブン夫人も助けられるように努力しよう! 癒しの魔法の特訓だ!




