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ダブル  作者: 雷然
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4話『イマジナリーフレンド』

 オレとスグルはよく遊んだ。お互い席をかわりばんこにしながら身体を動かした。スグルは自分の意思じゃないのに身体が動くのが楽しかったようだ。公園にある鉄棒でスグルでは出来ない逆上がりをした。オレが手本を披露するとスグルも身体の動かし方を覚えたようで、三度目の挑戦で成功した。

 スグルは表にいるとき、オレとの会話中に声を出していた。直ぐ目の前の友人に話しかけるように「じゃー今度ピーマン食べるとき交代ね」などと勝手なことを言うのだ。

 ご両親や同居の祖父母は変な独り言を言う子だと思ったろう。それでも誰も(とが)めたりしなかった。祖母が「誰かいるのかい?」などと聞くと「いるよー」とスグルはあっけなく答え、その答えに「そうかいそうかい」と祖母も実に柔和な笑顔で答えるのだった。


 スグルが五歳のとき、父親がやっぱり病院に連れて行こうと言い出した。病気だと思ったらしい、精神に働きかける病。確かに間違いじゃない。ここの文明は高度に発展しているし、腕のいい邪法師や呪術師がいればオレは解呪されてしまうかもしれない。オレは呪いではないので解呪という言葉は適切ではないが、この場合に適切な言葉をオレは知らない。

 白衣を着た医師はスグルにいくつもの質問をした。

 オレはスグルに任せた。オレが表に出て、当たり障りない受け答えをする手も合ったが成り行きに任せた。

 オレはこの身体はスグルの物だと思っていたし、スグルが望むなら、あるいはオレが消えるのが世の流れならば従おうと思っていた。

 オレは元々スグルに口止めのようなことをしていなかったので、スグルはあらゆる質問に正直に答えた。

「いつから遊んでいるの?」

「うーんとずっと前から」

「男の子? 女の子?」

「うーん、多分男の子?」

「そうか、お名前はなんていう子なの?」

「わかんない!」

「わかんないんだ?」

 医師はカルテにメモをとる。

「どんなことをして遊んだの?」


 医師の様々な質問に詳細に答えるスグル。まだ若いが利発そうな医師はときおりメモをしながらうんうんと頷いた。

「先生! うちのスグルは大丈夫なんですか? 治るんですか?!」

「まぁ落ち着いてください」

 診察が終わってから焦っていたのは父親だ。スグルが詳細にオレとの思い出を話すのを聞いて、想像より深刻だと焦ったようだ。

 医師は軽く咳払いをすると、ゆっくりと話だした。

「お父さん、まずスグル君は病気ではありません。スグル君には頭の中のお友達と保育園でのお友達、自分やご両親との区別がきちんとついています。名前がないのがやや特徴的ではありますが、典型的なイマジナリーフレンドですよ。ご安心下さい」

「イマジナリーフレンド?」

「ああ私聞いたことあるわよ」

 父は疑問符を浮べ、母は知っているようだ。オレは知らなかったが医師のいう言葉は子供の習性を現すのに信憑性があった。まとめるとこうだ。

 イマジナリーフレンド。学術的にはイマジナリーコンパニオンとか言うらしいがまぁどうでもいい。子供のときに架空の友人を作り出して遊ぶ子がいるそうだ、一人っ子など暇な時間が長い子供が持ちやすく子供の成長と共に消失する。仮に多少長くイマジナリーフレンドが継続する場合でも自分の人格に違和感はなく現実生活の障害なることもまずないため、病気だとは診断されない。子供の特有の()()であるそうだ。


「だからもう大丈夫だって言ったじゃない」

「いや、でも何か変わったことがあればまた来てくださいとも言ってたぞ」

「だからそれはー」

 などと帰りの車の中で言いながら両親は納得したようだ。

 なるほどイマジナリーフレンドね。確かに筋は通っている。

 でもな先生、でもな現代医学よ。そいつには出来ないことがオレには出来るんだぜ?

 オレはいる。確かにここにいる。


 医師に言われたことが影響したのか知らないがスグルに妹が出来た。スグルもスグルで医師や親の言うことを間に受けたのか、俺のことをイマジナリーフレンドという種類の友人だと思うようになった。まあ、オレがオレのことをなんも説明しないのがいけないんだが、オレもまだビビっていた。


『ねぇ。名前つけてもいい?』

 そんなことをスグルが言い出した。声に出してはない。脳内だけの会話。オレとスグル二人だけにしか聞こえない会話だ。この頃スグルはオレを脳内だけで留めようとした。オレが出てるのはスグルの嫌いなごはんの時や怒られているとき。あるいて寝ているときぐらいのものだ。

 スグルが寝ているとき、オレは席に座ってみることがある。別に何もしやしない。あー身体使えるなーと確かめてまた引っ込むだけだ。オレは形成した自室に引きこもり、生前の自分の記憶を閲覧したり、これまでのスグルの成長を保存したアルバムを眺めたりして、スグルに必要とされていない時間を過ごしている。この部屋はスグルには認識できないらしくスグルはこの部屋まで呼びに来ることはない。そもそもそんなことをしなくてもスグルはオレが何処にいようと必要なら席の前までオレを連れ出すことが出来た。そして大抵こう言う「ほら座ってよ」ってな。


 でもその日は違った。

 座席はいくらか立派になったようだ。スグルの大きさに合った回転椅子。その椅子を無邪気に回して言うのだ。名前をつけていいかと。

 やや困ったが肯定する。

 ここに来た時に生まれ変わるハズだった。過去は捨て、新たな人生を歩むはずだった。スグルになるハズだった。

 はずだった。過去形。現在のオレに名前などない。イマジナリーフレンド、邪法師、医師、特務騎士、魔法使い。戦火から国を救った英雄。数多の人々を殺した極悪人。邪悪。

 今は、どれもオレを表す名前になりえない。


「いいよ」

「じゃぁねーイマジナリーフレンドだからイジリーで!」

「やめて! 絶対! やめて!!」

「えー折角考えたのにぃ!」

 スグルは不満そうだが、オレにもセンスやプライドや沽券というものがある。

「あーお腹の中の子女の子らしいな」

「なんかそうらしい。妹が出来るって」

「男だった場合の名前、気の早いじいさんが考えてたんだろ? それ聞いてこいよ」

「しかたねーな」

 オレの真似なのか、まだ可愛い声でぶっきらぼうな物言いをするスグル。そうして聞いたきた名前を拝借することにした。

 秀と書いてシュウ。スグルがどういうつもりかはしらねぇがオレはスグルの弟じゃない。字はいらねぇ。音だけ頂こう。

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