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06 食事会

06 食事会


 王城の大広間に移動し、食事会は始まった。

 ぼくとフルバブ姫は、出席者全員を見渡せる、いわゆる新郎新婦席に座った。

 総勢五百人での食事会。彼らは長テーブルに隙間なく座っていた。

 大広間の壁にはいくつもの松明が等間隔でかけられていて、それにより照明効果は抜群だ。しかも照明はそれだけではなく、テーブルにも燭台が乗っていて、それらにももれなく火がともっている。ぼくは視線を遠くに動かした。その先にはぼくの父と母がいるテーブルがあるのだが、かれらは新郎新婦席から一番離れた席に着座しており、この位置からは見えにくい。

 ダークエルフ族は、総勢二百人。彼らは、武具に身を包み、このブダータン王国にやってきた。かれらは武具から軽装に着替え、この食事会に参加している。

 食事会は、それはもうその字の如く食事をして終了だった。

 ぼくは、これまで生きてきた中で、二度、結婚式と言われるものに出席している。

 どれもが母方の親戚のお兄ちゃんの結婚式だったが、それにはお兄ちゃんの勤め先の上司の挨拶、お兄ちゃんの友人のお兄ちゃんとの面白い出来事の話、服装チェンジのお色直し、そして最後には、新婦さんの自分の両親に対して感謝の手紙の朗読と様々な催しものがあった。

 でもこの結婚式にはそんなもの全くなかった。

 みんな食うだけ、食べるだけ。

 ぼくも食べた。

 ぼくとダークエルフの姫君は銀製のフォークとスプーンを使って食べた。

 他の人たちは木製の物を使用している。

 親戚の結婚式では、時間差で色々な食べ物がウェイターによって運ばれてきたが、この結婚式では一気に食べ物がテーブルにならべられた。

 肉、肉、肉。テーブルの上は肉だらけ。

 鳥のような生き物の丸焼き。

 豚肉の足を焼いたもの。

 スープもあったが、その中にも何かの肉の断片。

 でもぼくはそのいずれかの肉の正体を知っている。

 鳥のような生き物とは、スボチョと呼ばれる小型の翼竜で、希少価値が高く高級食材とされている食べ物。

 豚肉の足のようなものは、もちろん豚ではなく、ジンネという小動物の足だ。

 スープにはカタリイという鳥類の肉が入っている。

 スプーンでそのカタリイの肉とスープをすくい上げ口に運ぶ。

 奥歯で噛むと肉汁にくじゅうが口内に広がる。

 スープはポタージュスープぽく、カタリイの肉も柔らかくとても美味しい。

 他の料理も香辛料が効いててぼくは好きだった。

 夢中で食べた。

 ぼくはお腹が減っていた。

 だからがっついて食べた。

 夢中で食べたせいか喉に物が引っかかってぼくはむせた。

 その時、横にいるダークエルフの姫君が視界に入った。


「――王子、大丈夫ですか?」


 ぼくの後方に立っていた従者の一人のオージーが近づいてきて心配げに尋ねてきた。


「大丈夫、大丈夫です」


 むせが落ち着いて、ぼくは答えた。

 喉に何か流し込みたい。

 テーブルのグラスを手にした。

 口元まで近づけたとき、ぼくは手を止めた。


(お酒?)


 これは多分お酒。

 においでわかった。

 グラスをテーブルに置くと


「すみません、お水ありますか?」


 とぼくはオージーに言った。

 彼は、かしこまりましたと返事して、大広間から出て行った。

 水を待つ間、ぼくはダークエルフの姫君に目をやっていた。

 彼女はぼくが横で忙しくむせている間も、こちらに目をやることもなく、ずっと俯いていた。

 水が運ばれてきた。

 ぼくはそれを一気に飲み干した。

 再び姫に顔を向ける。

 彼女は俯いたままだ。

 食事には一度も手を付けていないようだった。

 ぼくもそれからは何も食べなかった。

 食べる気がしなかった。

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