目があったね!ヴィルヘルムくん!
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口の中にパンを詰め込んで飲み込む。
ここ魔法学園は、ある話題で持ちきりになっていた。
「ねぇ?そろそろここにも来るんじゃない?」
「きゃあ!前髪整えておかないと!」
浮き足立つ女子がチラチラと教室の扉を確認する理由は1つ。
どうやら、あのヴィルヘルム・サリマンくんが人探しをしているらしい。
時間があれば先輩のクラスから順番に訪れ、ざっと全員の顔を確認し無言で帰っていくのだそうだ。
いつもは目を合わせようともせず、可愛らしいお姉様方を猿呼ばわりして蹴散らしている姿を遠目から見ていたのだが……。
クールな様子であしらう彼に似合わず、目を血走らせて必死に探しているようである。
その探し人は彼に一体なにをやらかしたのか。
しかも困ったことに、彼の友人シオン・ハリベルくんが協力してあの裏庭の前で聞き込みを行なっているのだ。
そのため彼のファンである女子生徒が蔓延り、裏庭の中に入ることができない。
(あの子にまた遊ぼうと約束したのに…。とんだいい迷惑だな。)
早くこの騒動が収まるのを祈るばかりだったが、あの日から1週間。
いよいよ私としてもあの子がどうしているのか、我慢ができなくなってきたころである。
牛乳を飲みながら魔犬のページを図鑑にて確認していると、後ろから穏やかな声が聞こえてきた。
「おお、カンザキさん。熱心じゃのぉ。」
「アダム先生!」
お隣いいかい?と尋ねてくる先生に急いで横のスペースを空ける。
ゆっくりと腰をかけた先生は私が見ていたページを見て、驚きの声を上げる。
「ん?どうして魔犬のページを?」
「あ、えっと……。」
「魔犬は非常に凶暴な生き物じゃ。関わろうとするのは利口とは思えんのぉ。」
先生が困ったような顔で私に注意をしてくる。
確かにどの本を読んでも、魔犬に対する説明文はどれも同じである。
危険、凶暴。遭遇時、注意されたし。
けれどあの裏庭で出会ったあの子は、そんな風には見えなかった。
私にお腹を見せて甘えた声を出した姿は、普通の犬……いやかなりの甘えん坊にしか思えない。
先生ならあの魔犬について、何か知っているかもしれない。
そう思った私は先生に尋ねてみることにした。
「先生、教えてもらった裏庭で魔犬に出会ったんです。」
「………っ!?あの裏庭でか!?なんということだ……。怪我はしとらんか?」
「は、はい。」
「それはよかった…。でもあの裏庭で魔犬が出るなど聞いたことない。一体どういうことじゃ…。」
頭を抱え考え込む先生の姿に、あの魔犬は最近住み着いた子なのだと確信する。
そしてあの子はなんらかの事件に巻き込まれ、死にかけていたのだ。
「あの子に出会った時、体内の魔力が滞っていて真っ黒な負のオーラがあの子の身体に巻きついていたんです。」
「ん?」
「身体を撫でていたら生のオーラに変換されてなんとかなったんですけど……。」
「っ!身体を撫でられたのか…。しかも魔犬は闇属性じゃ。負のオーラが巻きついていても死にかけることはないんじゃが……。」
「え!?そうなんですか!?」
でも具合悪そうだったし、それに生のオーラに変換した後は元気そうだったが…。
余計なお世話だったのかもしれない。
アダム先生は一度眉をしかめると、私にいくつか質問をしてきた。
「その魔犬はどんな個体だったのか覚えてるかのぉ?」
「はい。真っ黒な毛並みで艶があって……あ、あときれいな紫色の瞳が」
「紫の……瞳?」
「は、はい?」
「まさか……あのバカタレ……。」
私の言葉に温厚なアダム先生のこめかみに青筋が見えた。
なんだ?一体どうしたんだ?
「私がベタベタと触って…可哀想なことをしてしまったんでしょうか。」
「そんなことはない。その魔犬を助けてくれてありがとう。」
私の言葉に表情を緩め、深くお辞儀をしてくるアダム先生。
「心配せんでも大丈夫じゃ。ワシが今度見に行こう。」
とは聞いたものの。
気になる。やっぱり気になる。
授業が終わったので急いで机の上を片付けて裏庭へ向かうことにした。
この時間ならまだ人も集まってないだろう。
そう思ってカバンを肩にかけた時だった。
スパーンッ!!
「「きゃあああああ!!ヴィルヘルム様ぁああああああああ!!!」」
盛大な黄色い声援に思わず耳を塞いで後ろを振り返る。
すると凄まじい眼差しでクラス内を睨みつける、イケメンの姿があった。
ただ遠くから見ても分かるぐらいに大分髪の毛はボサボサで、苛立っていることが明らかである。
本当に探し人は彼に何をしたんだろう。
(早く見つかるといいですね。)
その思いを込めていつもより長く、荒れた様子のヴィルヘルム・サリマンくんを見つめる。
いや見つめてしまった。
私の視線に勘付いたのか彼がゆっくりと私に視線を向け……目と目があった。
その瞬間脳内で早く立ち去れという警告が鳴り響く。
彼の紫の瞳は見開かれ、口は惚けたよう半開きである。
ん?なんか…こっちガン見してない?
いやいやまさか、そんなねぇ?
頭を振ってそんな思考を取り消し、彼の目線から外れようと試みる。
あれれー?おかしいぞー?
なんかどこに移動しても目線が合うんですが?
ダラダラと冷や汗が止まらない。
私を探してたなんてそんなこと……多分、絶対なにかの勘違いだろう。
だって話したことなんてないし、目があったのも今が初めてだ。
そうだ、きっとそうだ。
だが彼が一歩こちらに踏み出してきそうな雰囲気を感じ、先手をとって勢いよく姿勢を正して大きくお辞儀する。
「さようならっ!」
「……え?」
そのまま決して後ろを振り返らず、全速力で教室を抜け出した。