懐かれたよ!ヴィルヘルムくん!
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すれ違う人々がこぞって口にする話題は、今はたった1つ。
どうやら私の知らないところで、大事件が起こっているようだ。
「みんな大変よ!!ヴィルヘルム様の姿が見えないわ!!今日の登校チェック係は何してるの!?」
「どこにもいらっしゃらないわ!シオン様とのツーショットも拝めていないというのに!」
「ああ!あの麗しき姿を見られないなんて……!!息ができない!!くっ!いっそ殺して!」
あー、うん。お疲れ。
綺麗にカールされた髪をグシャグシャに掻き乱す乙女たちの間を切り抜けて、ただひたすら裏庭を目指す。
あの魔犬に出会って1日経ったけれど、果たしてちゃんと歩けるようになっただろうか。
スモークターキーを葉っぱの上に置いた後、私がいては食べてくれないと思って早々に退散してしまったが………案の定気になって眠れなかった。
もしかしたら若干目の下にクマが出来てるかもしれない。
ついに耐えられなくなって昼休みになった今、図書室から借りてきた魔法生物図鑑を片手に駆け足で向かっているところである。
扉を開ける目前で、昨日と同じ購買のおじさんと目があう。
財布の中にあるお金、そして周りに人がいないかどうかも確認した私は早急にスモークターキーを買って裏庭へと侵入する。
昨日はいなかった魔法生物がいくつか見られるが、それよりもまず大きな黒い犬がどこかにいないか辺りを見回す。
そして昨日私が寝っ転がっていた場所まで進むと、同じ場所にあの魔犬が横になっていた。
よかった、いた。
近くにはスモークターキーの骨が転がっている。
あの大きさを食べられるならば問題ないだろう。
ほっと胸を撫で下ろし、昨日の変換魔法がうまくいったことに安堵する。
…とりあえず今は眠ってるようだし退散しよう。
幾分か心が軽くなり静かに後ろを振り向くと、さっきまであっちで横になっていた魔犬がおすわりをした状態で私をじっと見つめていた。
「え!?あれ!?いつのまに!?」
「ワンッ!!」
「ヒィッ!ごめんなさい!」
私が話しかけずに帰ろうとしたのを咎めているかのように一度大きく吠える。
その声に驚いて腰を抜かすと同時に勢いよくこちらに走ってきた。
いよいよ年貢の納め時かと覚悟を決めて力一杯目を閉じると同時に、控えめに目元を舐められる感触がした。
「……ん?」
「クゥゥン……」
目を開けると紫色の瞳をゆるゆると揺らし、私を心配そうに見つめている(ように見える)魔犬の顔が視界いっぱいに映る。
私の顔を覗き込み、反応を伺っているようだ。
「心配してくれてるの…?はは…ちょっとびっくりして腰抜かしただけだから、大丈夫だよ…。」
そうは言っても犬に言葉など伝わるはずもなく、さらに体を寄せて私を暖めようとしてくる。
「わぁ…こんなに人間に慣れている魔犬なんているんだ…教科書が全てじゃないんだね…」
持ってきた魔法生物図鑑を開き、魔犬のページを見ながら感動していると前足を図鑑の上に置いてページをめくるのを邪魔してくる。
「よ、読めないっ!」
「ガウッ」
「構ってってことかな……?」
図鑑から目を離し魔犬を見つめると、期待した眼差しで熱く視線を送られる。
少し勇気を出して頭を撫でてみると、こちらの動きにあわせて振り切れるほど尻尾が激しく揺れた。
どうやらあっていたらしい。
さらに眉の間をそっと撫でてみると瞳を閉じてそのまま大人しく撫でられている。
「か、かわいい……!」
そうだ、せっかくだし買ったスモークターキーを今日もあげよう。
そう思い包んでもらったスモークターキーを取り出し、目の前にゆっくりと差し出す。
魔犬は何度か瞬きをすると、そのままとても上品に食べ始めた。
もっとヨダレをダラダラに垂れ流してがっついて食べるかと思ったのに、この子は音を立てずに一口一口大事に食べている。
「えへへ、どう?美味しい?」
一生懸命食べる姿に癒されて思わず顔が綻び、声をかけてしまう。
私の言葉に反応した魔犬はちらりと私の表情を見て、そしてその綺麗な紫色の瞳を大きく見開いた。
食べていたお肉を落としてしまうほどに口を大きく開いて、ピタリと動きを止める。
「あ、あれ?どうしたの?もういらない?」
吠えるわけでもなく噛み付くわけでもなく、ただ一心に私を見つめてくる。
そしてなにを思ったか、その場で勢いよくお腹を見せてきた。
「んんん!?」
「ワンワンッ!!」
撫でて撫でて!
言葉にすればそんな感じだろうか。
熱烈な視線に耐えきれず恐る恐るお腹を撫でると、幸せそうな表情でクネクネと激しく体を動かしている。
「嬉しいの?」
「ワオン!」
「えへへ!そっかそっか!私も嬉しい!」
笑みを堪えきれず大きな声を出して笑っていると、鳴り響くチャイムの音。
数秒考えて次の授業はあの魔法詠唱授業だったことを思い出した。
ただでさえピンチなのに欠席したらとんでもないことになる。
「ごめんね…もう行かなきゃ。」
私が手を離すとびっくりしたように飛び起きて、甘えるような声を出す。
(後ろ髪引かれるとはこのことかっ!)
「元気になって本当によかった。また一緒に遊ぼうね。元気でね。」
一度魔犬の頭をゆっくり撫でると持ってきた荷物を回収して出口に向かう。
「ワウ……」
(ごめんね…)
悲痛な声で鳴く魔犬に心が引き裂かれそうになりながら、私はゆっくりと扉を閉めた。
誰もいなくなった空間にて、彼女と自分を分断した扉を恨めしく見る犬が1匹。
一度大きく遠吠えをすると、メキメキと音を立てて変幻が解けていく。
狼のような体格は見る影もなく、そこには腕を組んで思案顔をする細身の青年の姿があった。
「ふん!この俺を散々撫でておきながら逃げるとはいい度胸だな。いいだろう!そっちがその気なら地の果てまで追いか……け……て……」
特徴的な紫色の瞳は、獲物を見つけた肉食動物のようにギラギラと輝いている。
しかし一瞬の沈黙の後、彼の表情は絶望に染まることとなった。
「しまったぁぁあ!!どこの誰なのかさっぱり分からん!!!!!」
彼は全速力で裏庭を飛び出し、友人の元へと駆け出した。
ようやくここまで来ました笑笑
題名の割に出番の少なかったヴィルヘルムくんですが、次回から頑張ります!