はじめましてだよ!ヴィルヘルムくん!
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授業終了後、意気揚々とアダム先生に教えてもらった裏庭へと向かった。
入り口の近くにいる購買のおじさんに頭を軽く下げ、ゆっくりと扉を開ける。
あーなるほど、確かになかなかの匂いだ。
だがそれよりも周りの魔法生物たちに目を奪われる。
「わぁ……すごい!」
お馴染みのナメクジスライムに幸せのブルーバード、悪戯妖精ジャックジャックも楽しそうに水浴びをしている光景はなんとも言えないほど神秘的である。
本当に中庭なの?広すぎじゃない?
「カメラ持って来ればよかったな…今度持ってこよう。」
悪戯妖精の絵を描きながら小さく呟く。
静かに水が流れる音が響き渡りなんとなく思いっきり転がりたい気分だ。
「誰も見てないし、別にいいか!」
後方、前方オーケー!いざダイブ!
制服に土が付くのもお構いなしで、思いっきり横になる。
天井には青空の景色を投影する魔法が使われているのか、なんとも気持ちいい。
もうここで暮らしたい。
ふと目を凝らすと幸せを呼ぶブルーバードが私の上を旋回している。
きっと私が幸せな気分だからつられて寄ってきたのだろう。
教科書に書いてあったがこの鳥は極めて珍しい魔法生物で、野生のブルーバードに着いて行くとその人が幸せになれるなにかを手に入れることが出来るだとか。
(幸せな人や動物に寄ってくるんだから、そりゃ嫌なことなんて起こらないよね。)
グルグルと旋回しているブルーバードを見て思わず笑っていると、後ろから枝を踏んだ音が聞こえた。
お、なんだなんだ?
魔法生物であれば万々歳。
人間であれば挨拶してコミュニケーションを取ってみよう。
先ほどのアダム先生の激励を受けて少し気持ちが軽くなっていた私は、少し胸を高鳴らせながら振り向く。
だが私の目に映った姿はとんでもないものだった。
「グルルルル……!」
黒い毛並みに狼くらいの体格。
爪や牙は鋭く尖り、紫色の瞳は私を威嚇するように睨みつけている。
この外見に気性の荒さとなれば思いつくのはひとつ。
(ま、ま、ま、魔犬!?)
説明しよう!
魔犬とは魔物討伐の対象に指定されることもある肉食生物。
縄張り意識が極めて強く、侵入してきた魔法生物が自分より大きな体格であっても狩ってしまうこともある凶暴な犬のことだ!
個体によってはドラゴンでさえ噛み殺すもんだから、ただの人間が遭遇すればひとたまりもない。
しかも私は愚かにも横たわっている状況である。ただ餌が転がっているに等しい。
(お、終わった……。)
襲ってくる死への恐怖に思わず目をギュッと閉じるが、数秒待っても襲われる気配はない。
あれ?図鑑には姿を現したら狩モードだって書いてあったけど…実際はそんなこともない?
すぐに襲いかかってこないことをいいことに少し態勢を整えて魔犬を観察することにした。
その1、こちらを鋭く見つめているがなぜか呼吸はすごく荒い。
その2、毛は逆立っておりせっかくの毛並みに艶がない。
その3、両脚は震えており立っているのがやっとのような印象だ。
ん?んん?
よくよく見てみると何故か黒い負のオーラが魔犬に巻きついているではないか。
黒い負のオーラは体内の魔力が何かしらの影響で滞っており、命の危険が迫っていることを示しているのだとか。
あくまで教科書知識だが…へぇ確かに嫌な感じがするな。
……………………。
「いやダメじゃん!!」
「ガルルルルル!」
「あ、ああ、ごめん!ごめんね!ちょ、ちょっと待って!」
私の突然の叫びに警戒してしまい、ヨタヨタながら姿を隠そうとしてしまう。
どうしよう。どうしよう。
アダム先生を呼んでこようか?ああでもどこにいらっしゃるか分からないし。
頭をフル回転させて考えていると、目の前で大幅に負のオーラが増加した。
それと同時に大きな身体がグラリと傾く。
「ちょちょちょ!!!」
地面に打ちつけられないよう自分の身体を滑り込ませて全身で受け止める。
重っ!こんな重いの魔犬って!?
「グゥウウウウ……」
私を威嚇し続けているが先ほどより明らかに元気がない。
「大丈夫?いや大丈夫じゃないよね?」
魔犬に触れて一度撫でると黒い負のオーラの一部がふわりと浄化されるように生のオーラへと変換された。
不思議に思ってもう一度撫でると比例するように生のオーラに変換される。
「く、空気清浄機!!」
そうだ!私の得意分野じゃん!
仕組みは知らないが撫でればなんとかなるのかもしれない!
そう思った私は全力で魔犬の巨体を撫でまくった。
「ガウッ!」
驚いたのか私の手に噛み付いてくる。
だが血が出るほどの威力ではないからそのまま無視して撫で続ける。
「ご、ごめん!意味分かんないと思うけどそのままでお願い!お願いします!!」
「キャイン!!」
くすぐったそうに身をよじる魔犬の様子に変換魔法がうまく作用していることを確信し、そのまま撫で続けて撫で続けて。
気がつけば青空だった天井が夕焼けに変わっていた。
「はぁ、はぁ、ど、どうだ……。」
「ガウッ…」
お互い息を切らしている姿がなんと滑稽なことか。
先ほどの負のオーラは全く見られず、これでとにかく大丈夫だろう。
へたり込むように座ると横になっていた魔犬からグギュルルルルとお腹が鳴る音が聞こえた。
「お腹空いたってことは元気になったんだよね…?よし…ちょっとここで待っててね。」
両手を魔犬の前に広げて待つように伝え、駆け足で購買へと駆け出す。
「おじさん!なにかお肉ありませんか?」
「?なんだいお嬢ちゃん?」
あ、興奮してたから地元の言葉で話していたようだ。
一度大きく咳払いをして脳内で言語切り替えを行う。
「あの、なにかお肉ありませんか?」
「あ、ああスモークターキーがあるが……」
「それください!」
「こ、この時間から食べるのかい?」
「お腹減ってるので!」
不思議がるおじいさんに微笑みで誤魔化し、スモークターキーを入手した後速攻で裏庭へと戻った。