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負けられないよ!ヴィルヘルムくん!

いつもありがとうございます!


そしてブックマーク登録いただきありがとうございます!

大変励みになっております^_^


今後ともよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!


お父さん、お母さん。お元気でしょうか。

頭上を稲妻が走り、龍神が咆哮し、変な黒い球が吐き出され、そして同級生の男の子が空を飛び回っていますが至って私は正気で元気です。


「って、馬鹿なこと言ってる場合じゃない…!」


そんな手紙を書き出したくなるくらいの異様な光景に、思わず現実逃避をしてしまった自分を叱咤する。

涼しい顔して龍神の注意を逸らし続けてくれているヴィルヘルムくんを見ていると何とでもないような感覚に陥るが、龍神が噛み付いた地面は抉れ、叩きつけた尾は荒波を立て、一歩間違えば死の予感を感じさせるほどだ。

長い時間彼に囮になってもらうわけにはいかない。


(なんとかして龍神に触れる方法を考えないと…)


唯一の得意魔法である変換系魔法を駆使し、クロにしたようにあの黒い霧を取り払えるか試すにはどうしても直接龍神に触れる必要があるのだ。

しかし残念なことに…私は浮遊魔法が大の苦手である。

授業で使う箒でさえ光の速さで墜落するというのに、そこらへんに転がっている木の枝で飛ぼうものなら何が起こるか分かったものじゃない。


ならばやはり頭上スレスレを通った瞬間を狙う他ないだろう。

ただ龍神は空を飛びながら超加速することができると読んだことがある。

慎重にしないと腕の一本や二本、簡単に持っていかれるに違いない。


そう結論づけた私はまずこの数ヶ月の学校生活で身につけた隠れ身の術(ただ頭を低くして足早に動くだけ)で最小限まで自分の気配を抹消した。

購買前で集うお姉様方や熱くなりすぎたフレイム先生から逃げる際に利用する優れ技。

いくら龍神といえど勘づくのは難しいはず……そうであってほしい。


そんな私の強い願いが通じたのかこちらに気づく様子もなく再度低空飛行してきた巨体に狙いを定めた。

両手に魔力を込め、恐ろしい頭部が私の頭上を通過したタイミングで大きく手をあげる。


「カンザキ、待て。」


あげられなかった。


両手を中途半端に上にあげた不自然な格好で固まると、背後からパチンッと指を鳴らした音が響く。

その後幾千にも枝分かれした稲妻が頭上の龍神を囲い込むように伸びていった。


「堕ちろ。」


バチバチと火花を散らして唸る巨体に絡みつき、彼のその一言で目の前が真っ白になるほど眩い光を放ち、ついには龍神を地に叩き落とした。

陸にうちあげられた魚よろしく少しばかり痙攣してしまっている龍神を唖然と眺めていると、いつの間にやら私の横に降り立った天才は告げる。


「461ノットで空を舞うと言われている龍神を飛行している状態で触れるのは流石に容認できない。というわけでここに1.21ギガワットで軽く感電させた龍神を用意した。これなら問題あるまい。」


「……………アリガトウ。」


「っ!!ま、まぁこの俺にかかれば準備体操レベルの簡単な仕事だ!……か、簡単な仕事ついでにそうだな、先程モフモフしたいと言っていただろう?よし!!仕方ないからいくらでもするといい!さぁ!!思う存分いつものように好きにしてくれ!」


大変だ。

私が頼んだばっかりにヴィルヘルムくんは疲れが祟って正気を失っている。


頬を赤らめ両手を広げ恥ずかしそうに目を閉じた彼は彫刻並みに美しいが、言っている意味が分からなくてこちらは思わず真顔になった。


「ごめんねヴィルヘルムくん。あとで一緒に病院行こうね。」


「あ、あ、あ、あとで一緒に!?!?」


なにやら叫んでいるヴィルヘルムくんから視線を逸らし、気を失っている様子の龍神に恐る恐る触れて魔力を込める。

そこから微量ながら黒い霧が白い綺麗な塵に姿を変えて空に消えた様子を見て確信した。

これはクロの時と全く同じ、黒い負のオーラだ。

そうなれば本来の姿が隠れてしまうまで溜め込んでいる今のこの状況は……非常にまずい。


「早いところ変換しないと…」


「っ!カンザキ!!」


気持ちが急いて魔力量を増やし思いっきり龍神に触れると、絶叫に近い咆哮が響き渡った。

龍神を取り巻いていた黒い霧の一部は唸りをあげて私の手首に巻きつき一瞬で視界を黒く染め上げ、脳内に強烈な想いが流れ込んできた。














穏やかな我が海、そこに沈みゆく太陽。

オレンジ色に染められた思い出の岬で、淡い水色の髪を持つ愛し子を想う。


例えこの身体が闇に穢れようと。


例え二度と会うことが出来なくとも。


彼女の歌声さえこの胸に残ってくれるなら静かに逝けるというのに。


『返しておくれ。』


忘れてなどいない。


忘れるはずがない。


忘れられるはずがない。


『返シテオクレ。』








あの愛の旋律を、どうか、私に。




















「ワンッ!!!」


何故かクロの鳴き声が頭に響き、一度大きく心臓が脈を打つ。

無我夢中で全身に巻きついていた負のオーラを引き千切り、その反動で大きく身体が傾くとがっしりと私の手を掴んだなにかが真っ暗な世界から引っ張り上げる。


「戻ってきてくれ!!」


紫に光る力強いその瞳に我に返った。


「ヴィルヘルムくん…?」


「あぁ!良かったカンザキ!!」


力の入らない私の身体を支えて暴れ狂う龍神の攻撃を避けていたヴィルヘルムくんは歓喜に声を震わせた。


「変換系魔法による急激な環境変化でカンザキを取り込もうとするなんて…!あぁ本当に無事で良かった…!!」


「わ、私を取り込む!?」


「負のオーラを生のオーラに変換するときに対象は心がかき混ぜられる様な…そんな感覚がするんだ。恐らくそれが龍神にとって耐えられないものだったのだろう……あぁすまないカンザキ!俺は分かっていたはずなのに!この償いは腹を切って必ず!」


「いつの時代なのそれ!?やめて!?…あぁそんなことより分かったことがあるの!」


意外とプニプニしている彼の両頬を挟み、訴えかける。


「一度箱庭から出よう!!セイレーネスの力が必要だよ!!」


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