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背中を押してね!ヴィルヘルムくん!

お待たせしております!

そしてブックマーク登録ありがとうございます!!


今後もゆっくり更新とはなりますが…よろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!


死んだ、絶対死んだ。

クロは今でも裏庭で私の帰りを待っているというのに、私はなんてダメな相棒なのだろう。

あの子の純粋な瞳とプニプニの肉球、そして黒艶な毛並みを撫でる感覚を思い返して自然と涙が溢れた。

なんでこういう時ってスローモーションになるんだろう。

こんなに思い出がぶり返すと恐怖が増すじゃないか。


「あのモフモフをもう一度この手で味わいたいのに…!!」


「あぁ、もちろん。望むのならいくらでも準備しよう。」


思わぬ回答が真下から返ってきて硬直する。

その後控えめに数回腕を突かれたので確認すると、私に押さえつけられたまま神妙な顔つきでヴィルヘルムくんが告げた。


「俺としては是非このままの状態をお願いしたいところだが、少々相手が悪いが故に長時間抑え込むのは難しい。というわけですまないが起き上がってもいいだろうか。そして後日改めてさっきの続きを聞いてくれないだろうか。まだ100分の1も伝え切れてないんだ。」


何一つ言っていることが分からないのは私だけだろうか。


「相手が悪いって?抑え込むって?」


「?あぁ、後ろのソレだ。」


恐る恐る確認してみれば私を噛み砕こうと襲ってきた生物の牙があと一歩というすぐ近くのところで一時停止していた。

凶悪な口元にはバチバチと火花が発生しており、まともな状態じゃないのは明らかである。


「な、なにこれ…やだこれ…。」


「体に大きな渦巻き模様……ということは龍神だな。とにかく滅多にお目にかかれない魔法生物だ。やったな、会いたがっていただろう?」


「そうじゃなぁあああああい!!!!」


呑気に微笑むヴィルヘルムくんを起こし、慌てて手を掴んで距離を取る。


「て、手、手、手……!!!」


「はよこっち来んかい!!!」


「もちろんだカンザキ!!!」


元気良すぎる返事とともに真後ろからバキバキと異様な破壊音が響く。

恐る恐る振り返れば凶悪な顔つきで見えない何かを噛み砕き、苛立ちに任せてその長い尾を海原へと叩きつけている。


『ーーーーーーッ!!!』


私たちを再度認識すると瞳孔がさらに縦に割れ、怒りに任せた咆哮が響き渡った。


「おっと。」


「ぎゃあ!?」


繋いでいた手をグッと引き寄せたヴィルヘルムくんは、まるでダンスを踊るかのように私とともに龍神の突撃を華麗に避ける。


「俺の防御壁でもって5分。……カンザキ大丈夫か?」


「な、なんとか…。でも防御壁って?」


「突然襲われた場合に備えて俺たちの周りには防御壁を作っておいたんだ。」


「いつのまに……でもそれで時間が稼げたんだね…ありがとう…」


「っ!!!!!!そんな礼を言われるほどの大したことでは……!だが、まぁ、そうだな、もし可能であれば、ご、ご褒美とか!!いや本当可能であればで!!」


一応感謝の言葉を告げると、またもやあるはずもない尻尾が左右にブンブン揺れる様が見えた。

なんかもう大型犬にしか見えなくなってきたのはこの極限状態のせいなのか。


「…それはともかく、ヴィルヘルムくん。」


「そ、それはともかく……」


しょんぼりしてしまったヴィルヘルムくんの腕を叩き、どんどんと縦に伸びていく大きな影に沿ってともに上を見上げる。

するとガチギレ状態の龍神の口元に赤黒い球体が浮かび上がった。


「あれはなんだと思う?厨二病?最強技?」


「言ってやるなカンザキ。きっと気にしてる。それとあれは体内の魔力を口元に溜めて一気に光線状で相手を溶かす攻撃魔法なんだ。」


『ーーーーーーーーッ!!!!』


「ちなみに俺も出来る。」


ドォンと一直線、真っ直ぐに光線が走る。

同じくヴィルヘルムくんも対抗するように手のひらから青白い光線を放ち、龍神の攻撃を押し返した。


苦しみながら海へと巨体を沈ませる龍神を尻目に、彼はにこやかに笑う。


「……流石に乱用はできないが、まぁこんな具合だ。」


半端ないって。


ジュワッと煙があがる手のひらを握りしめつつ天才ぶりを発揮した彼に言葉が出ない。

ちなみにで反撃できる程度じゃないだろう。


「さて、今ので頭は冷えただろうし…奴が俺たちが探している海の声かどうかを」


『ーーーーーーーーッ!!!』


ヴィルヘルムくんの言葉をかき消すように盛大に水飛沫を上げて姿を現した龍神は、怒りに声を震わせながら空高く昇っていく。

そして再度口元に赤黒い球体を浮かべ、こちらに向かって吐き出した。

負けじとヴィルヘルムくんも魔法を放って威力を相殺する。


「だ、大丈夫…?」


「あぁ…だが威力が上がっている……何故だ…どこから魔力を……。」


右手を摩りながら龍神を見つめるヴィルヘルムくんに習って私も視線を向けると、黒い霧が龍神の身体に巻きついていた。

霧の色合いが濃くなるにつれて龍神も苦しげな咆哮をあげる。

その様子から出会ったばかりのクロの様子を思い出した。

この嫌な感じ…あの負のオーラによく似ている。


「ねぇヴィルヘルムくん、あの黒い霧どう思う?」


「黒い霧?」


「ほら、まるで龍神の首を絞めてるみたいに纏わりついてるあれ。あれをなんとかすれば話を聞いてくれるんじゃないかな。」


「……言われてみれば確かに、うっすらと感じるが…。まさか……。」


「あのね、教科書知識だけど、本来龍神って温厚で優しい魔法生物のはずなの。海のように寛大で、寂しい心を慰めてくれるような……だからこんな、こんな苦しげな、悲しい存在じゃない。」


「カンザキ…」


どうしてか分からないが、このままでは取り返しのつかないことになる。

そう思った私は気がつけば紫の瞳に訴えかけていた。


「ヴィルヘルムくん、力を貸してくれないかな。」


「え、」


「先生をここに呼んできてほしいの。あの負のオーラの量はどう考えてもおかしいよ。このまま2人で相手をするのは危ないと思う。」


「……それだとカンザキはどうするんだ。」


「私は試したいことがあるの。もしかしたらあの黒いオーラを追っ払えるかもしれない。」


『ーーーーーーーーッ!!!』


ダメかもしれないけど。


また一段と霧が濃くなり先ほどまで見えていた美しい赤い渦巻き模様は完全に隠れてしまった。

雷雲のような黒い龍となった龍神は荒波を巻き上げ竜巻を生み出し、竜巻を引き連れるように空を舞う。

おっかなくて涙が出そうだが、どうにも放っておけない。


「そうか。」


ふっと柔らかく笑ったヴィルヘルムくんは納得したように大きく頷いた。


「応援については既に手は打ってある。俺が呼びに行くまでもない。」


「え?」


「さて、試したいことがあるんだろう?奴の気を逸らし続ければやりやすいか?」


「え、え、いや、えと、」


「あぁ、宙に浮かれたままではやり辛いというのなら引き摺り下ろしてみせよう。任せてくれ。」


「で、でも成功するかどうか…」


「大丈夫だ。必ず上手くいく。」


腕をまくった彼は髪を掻きあげた後に右手に青白い光を纏わせる。


「俺が保証する。それでも不安か?」


『ワンッ!!』


絶大な信頼を寄せた紫の瞳に励まされ、いつのまにか手の震えは止まっていた。

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