力になりたいよ!セイレーネス!
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今月はヴィルヘルムくんもいっぱい更新できるといいな…。
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心が折れそうになりながらも必死でハープを演奏し続けるセイレーネスのもとに、1人の少女が声をかけた。
「どうしたんですか…?」
驚いたセイレーネスはすぐに海へと飛び込もうとするが、警戒されていることに気がついた少女は利口にもすぐに距離を置いた。
「ご、ごめんなさい!貴方を怖がらせるつもりはなかったんです!」
敵意はないこと示すため頭を下げて、慎重にゆっくりと自身の学校のブレザーを地面に引いてあるものを置く。
人間世界ではハンカチと呼ばれるものだが、セイレーネスには何のために使うものなのか分からない。
首を傾げて視線を少女に向けると、彼女は目元を拭う仕草を見せた。
意味が分からず試しにその布を目元に当ててみると、なんだか暖かいお日様のにおいがする。
何故か涙腺がさらに緩み、堪えきれなかった涙がポロポロと零れ落ちた。
少女も泣きそうになりながらセイレーネスへと近づき、怯えさせないようにゆっくりと手を伸ばし頭を撫でる。
水を象徴するセイレーネスの髪は冷たいはずなのに、少女は怯む様子もなく撫で続けた。
「キュウ……」
イルカのような鳴き声を出したセイレーネスは少女の行動に感動したように瞳を潤ませ、ついにはハープを投げ出して大きな声で泣き出した。
「キュウウウウ!!」
「え、あ、ちょ、」
「おい号泣じゃねぇか!どうすんだよ!」
木陰で作戦通り待機していた別の少女が堪らず顔を出す。
驚いたセイレーネスはしゃくりあげながら頭を撫でてくれていた少女へと縋り付いた。
「だ、大丈夫!彼…じゃなくて彼女はマルちゃんです!貴方の味方です!」
「キュウゥ…?」
「…ん"ん"!!そ、そうよ!俺…じゃないわ、私がマルちゃんだ…わよ。」
葉っぱを全身にくっつけた可愛い少女が立ち上がり自信満々に腰に手を当てる。
不自然な声色でどこか嘘くさい少女を観察していると、再度優しく少女がセイレーネスの頭を撫でる。
「彼女は正義の恋愛マスターなんです。女の子の味方です!」
「おま、いや貴方の悩みを聞いてや…らないこともない…わ。安心しやが…ってくれてもよくってよ!」
「すごいツンデレになってる…。」
横の少女は頭を抱えていたが、セイレーネスにとっては目の前の少女から満ち溢れる自信がその言葉に説得力を持たせた。
種族は違うが長生きしているセイレーネスは、少女たちが自身を心配してくれているのがよく分かった。
「キュウウウウ!!!」
子供のように泣き出したものの、悲しみの涙は嬉し涙に変わっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「キュウキュウ!キュキュキュウ!キュゥウウウウウ!キュキキュッキュ!」
私のハンカチで目元を拭いながら悲痛な叫びを繰り返すセイレーネス。
その迫力に頷きながらもワイパーくんことマルちゃんに目配せをする。
彼も必死に頷いて話を聞いているようだが、私の目配せに気がつくと目元を痙攣させた。
やっぱりそうだよね。
成功しているようでマズイ状況をどう打開すべきかと思考を巡らせる。
涙ながらに私たちに説明してくれてるセイレーネスには悪いのだが。
((何言ってるのかさっぱり分からない/ねぇ!!))
内気系清楚女子を励ます「私たちは貴方の味方よ大作戦」は、恋に悩むセイレーンの悩みを解決してあげることで信頼を育み、最終的には捕縛などという荒っぽいことを避け、平和的にエルフ先生がいる場所まで連れて行くというものだった。
言葉は通じなくとも魔法生物であるクロと上手くコミュニケーションが取れていたからタカをくくっていたのだが。
(こんなにも分からないなんて!!)
だがセイレーネスは私たちの言葉が分かっているようだし、なんとかして助けになりたい。
必死でセイレーネスの言葉を読み取ろうと耳を傾けていると、隣から予想外の人物の声が聞こえてきた。
「なるほど、それは辛かっただろう。」
「…………え。」
「キュキュッ!?」
「キュキュキューキュ、キュウキュ。」
「キュキュウ?」
「キュウキュウ。」
「キュウウウウ!」
一通りなにかを話した後、互いに握手し合う天才ヴィルヘルムくんとセイレーネス。
なんで普通に会話が成立しているの。
顔面蒼白になったワイパーくんは震える手でヴィルヘルムくんを指差す。
「な、なんでまたヴィルヘルム・サリマンが…!!」
「なんだ、俺がいてマズイことでもあるのか?」
「もう勘弁してくれよ!あっち行け!」
「試験中に女装するような哀れな奴を手伝ってやろうとしているのに…はぁ、失礼な猿め。」
「なっ!!」
絶句しているワイパーくんは放っておいて、私の横に座って話を聞いているヴィルヘルムくんに思わず詰め寄る。
するとヴィルヘルムくんはなぜか頬を少し赤らめた。
「ヴィルヘルムくん…もしかしてセイレーネスの話が分かるの?」
「ま、まぁそうだな。その、カンザキ、ちょ、ちょっと近…」
「はぁ!?なんで分かるんだよ!」
「ッチ!!まぁ貴様には永遠に理解できないから諦めろ。」
「そっか……やっぱり私には無理か。」
やはり天才にしか分からない世界があるのかと少し落ち込むと、ギョッとしたヴィルヘルムくんがどこからともなく分厚い本を取り出して顔を覗き込んでくる。
「あ、安心してくれカンザキ!!この生物言語をまとめた本を目が充血するほど読んだだけだ!!」
「俺との扱いの差が凄くね!?…まさか。」
慌てふためくヴィルヘルムくんの様子を目を細めて見るワイパーくんを尻目に、私は普通に感動していた。
「そんな本があるのもすごいけど読むだけで話せるようになるって…すごいねヴィルヘルムくん。」
「そ、そ、そんなこと……ない……。」
褒められるのは弱いのか、赤らめた頬を掻きながら視線をそらすその姿は普通に可愛らしかった。
これはお姉様方がいたらヴィルヘルム・パニックになるところだったな。
なぜか褒めると飛び跳ねて喜ぶクロを思い浮かべてしまったが頭を振ってリセットし、再度ヴィルヘルムくんにお願いをする。
「ヴィルヘルムくん、その…申し訳ないんだけど通訳してもらえないかな。できればこのセイレーネスの力になってあげたいの。」
「っ!!もちろんだカンザキ!!」
キラキラと紫の瞳を輝かせたヴィルヘルムくんは、力強く頷いた。