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見つけちゃったよ!ヴィルヘルムくん!

あけましておめでとうございます!!


今年もゆっくりと更新していきますがよろしくお願いいたします^_^


同級生とはいえ気を失った男の子を抱えて全力で走ると、流石に呼吸が乱れる。


「はぁ、はぁ!!と、いうか…!!よく!逃げ切れたな私!!」


人間ピンチになると限界突破できるって聞いてたけど本当だったわ。

今日の夜ご褒美のアイス買って帰ろう。


汗を拭いながらワイパーくんを見れば、白目を向いたまま足を開いて気絶している。

なんとも情けないその姿に思わずため息を吐いた。


とりあえず一見は可愛いドレスワンピースを着た美少女なので、なんとなく裾を直してあげていると周辺が騒がしいことに気がつく。


「いたぞ!セイレーンだ!」


「そっち行ったわよー!」


「よっしゃ!つかまえた!」


「「いえーい!」」


お、置いてかれている!!


同級生たちが順調に課題をクリアしている姿を見て頬が引きつった。


「っ回し蹴りってなんでだよ!!」


「あ、起きた。」


髪の毛をボッサボサにさせて飛び起きたワイパーくんは、恐怖で表情を歪ませながら急いで辺りを見回す。


「もうヴィルヘルムくんたちはいないよ。」


「!!はぁー!そうかよ!!残念だな!俺が追い払ってやろうと思ったのによ!」


嘘つけ。


嬉しそうに髪型を整えるワイパーくんを冷たく見つめながら、気合いを入れ直す。


こうしちゃいられない。

めでたくワイパーくんも意識を取り戻したわけだし、睡眠妖精セイレーンを探さなければ。


「じゃあワイパーくん、セイレーンを探しに行こうよ。そろそろちゃんと動かないと。」


「それはいいけどよ、目星はついてんのか?」


ワンピースなのに胡座をかいているワイパーくんを無言で注意しながら、思考を巡らせる。

図鑑で読んだ通りならば、睡眠妖精セイレーンは綺麗な水辺を好む性質がある。

この港町は世界一澄んだ海岸とも呼ばれる観光名所であり、海に沈んで行く太陽を好きな人と見れたら結ばれるというちょっとしたパワースポットでもあるのだ。


そこで考えてみてほしい。

現在進行形で恋愛脳であるセイレーンたちがこのパワースポットに飛びつかないことがあるだろうか。


「いや、ない!!」


「うおっ!?びっくりさせんなよ!」


「海岸に行こう!好きな男の子にアピールできなくて黄昏ている内気系清楚女子を慰めて捕まえる!!」


「…妖精の話だよな?」


「もちろん!」


側から見ればナンパを宣言しているように見えるかもしれないが断じて違う。

互いに頷き裾を捲り上げ、鬼気迫る顔で全力疾走。

そして海岸へたどり着き目にしたものはあまりにも衝撃だった。


水のように流れる淡い蒼の髪。

耳はエルフのように尖り、その右耳には水の雫をモチーフにしたピアス。

哀愁漂う表情は不思議な魅力があり、思わず魅入ってしまうほど。

人魚のような尾ひれを動かして、海に向かって小さなハープを演奏するその姿はなんとも美しい。


「よしいたぜ!アイツを捕まえるか!!」


そう言って一歩踏み出した馬鹿丸出しワイパーくんを引き止め、物陰に隠れる。


「なんで止めんだよ!」


「ばっかおま!ばか!」


「はぁ!?んだよ馬鹿馬鹿って!!」


「確かにあれは睡眠妖精といえばそうだけど……!!













セイレーンの親玉、()()()セイレーネスだって!!」


なんでこのタイミングで激レア妖精と遭遇するんだよ!!

今じゃねーよ!!と頭を抱える私をワイパーくんは可哀想なものを見る目で見つめていた。












◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇









「ははーん?親玉ねぇ?」


顎をさすりながらニヤニヤとセイレーネスを影から見つめるワイパーくんは、とんでもない言葉を呟いた。


「じゃ、アイツを言うこと聞かせれば俺たちの勝ちだな。」


「ぬぁに言ってるんですか!?」


「だってそうだろ?俺たちがあの大妖精を唆してセイレーンを誘き出してもらえりゃ……おお!がっぽがっぽ捕まえられるじゃねーか!!」


「甘く考えすぎて片腹痛いわ!!」


「ぐっは!!」


膝の部分に足蹴りを喰らわせると、生まれたての子鹿のように身体を震わせて片膝をつく。


「いいですかワイパーくん!セイレーネスはね、セイレーンの厳しい生存競争を生き残って進化した大妖精なんだよ!蜂でいえば女王蜂のようなものなの!」


「じゃ、じゃあやっぱり」


「歌声は男女問わず魅了するチート性能。普通は荒れ果てた海流の底でしか出会えないと言われている、超超超超超超超超激レア魔法生物に万年留年候補の私とワイパーくんでなんとかなるとお思いで?」


「うっ…」


半泣きで地面に落ちていた枝で文字を書き始めたワイパーくんは放っておいて、再度セイレーネスを観察する。


圧倒的強者の余裕オーラがハンパない。

絶対に敵うわけない。

ここはバレないように逃げるしかないと決意したその時、ハープを演奏していたセイレーネスの瞳から一滴の涙が零れ落ちた。

その姿がまるで恋に破れた乙女のようで思わず瞬きをする。


セイレーネスへ進化するには大海原の果てにあると言われる音階の泉で身を清め、数十年とただ1人の想い人のために歌を歌い続ける必要がある。

身が遠くなるような長い年月をかけて進化したセイレーネスはセイレーンにとって憧れの存在であり、厳しく気の遠くなる月日を過ごしたセイレーネスは未来永劫幸せを約束される。


なのにあのセイレーネスはなぜ、悲しそうに泣いているのだろう。

涙がまた一つ零れ落ちるたびにこちらまで泣きそうになってしまう。


「ワイパーくん。」


「グスッ……なんだよ…」


「やっぱりやろう。」


「別に泣いてねーし……ってなにを?」


「返り討ちにあうかもしれないけど、それでも。」


両頬を叩き気合いを入れて、ワイパーくんの手を握って共に高く空へと掲げた。


「あのセイレーネスを元気にしてあげよう!当初の目的とは違うけど、練習通りやればきっとできる!やろう!!私たち()()の名にかけて!」


「は?え?そもそも俺、男なんだけど。」


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