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中間実技試験開始だよ!ヴィルヘルムくん!

いつもありがとうございます!!

そしてお待たせしております…


ブックマーク登録いただきましてありがとうございます^_^

励みになっております!


今後ものんびりと進めていきますが、よろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!


雲一つない青空とはまさにこのこと。

まさしく中間実技試験当日にふさわしい天気である。

学園から少しばかり離れた小さな港街。

キラキラと太陽に照らされる海が綺麗でなんと癒されることか。


「ハァーイ!皆さん揃ってますネ!良き良きデス!」


キラリと光るサングラスをかけ直し、前髪を搔き上げるエルフ先生に多くの男子生徒から幸せなため息が聞こえた。


「トゥデイはいよいよ中間実技試験!!合格するには、ご存知の通り…睡眠妖精セイレーンを捕獲しなければイケマセーン!」


声高らかに宣言したエルフ先生は何処からともなく鳥かごを持ち出し自慢げに指差す。

中では水色に透き通った髪を靡かせ、口をパクパクと動かしながら小さな妖精が動き回っていた。

彼女が動けばシャボン玉がフワフワと浮かび上がり、それを自身の二つに分かれた尾で叩き割っている。


睡眠妖精セイレーン。

図鑑で見るより数倍綺麗だ。


初めて見る魔法生物に胸を高鳴らせていると、エルフ先生が大げさに地面にへたり込み涙を堪えるような仕草をしながら言葉を続けた。


「こぉんなプリティーですケド、油断は禁物ネ!歌声を聞いたらあっという間に夢の中ですヨ?最悪の場合永遠に目覚めまセーン!生きた屍になりたくないのなら、学んだことを活かし悪さする子たちを懲らしめるのデス!アンダスタン?」


生徒たち全員が神妙な顔つきで頷く。

その反応に満足気に微笑んだエルフ先生は、腰に手をあてて高らかに宣言した。


「準備はイイ!?神様にお祈りはオーケー!?制限時間は日没マデ!各グループ1匹以上捕まえるコト!!それではヨーイ……ドゥン!!」


無駄にいい声のスタートの合図に、生徒たちが四方八方に広がっていく。


「ワイパーくん。いよいよ本番だね。頑張ろうね。」


「頑張るのはいいが……!」


隣に立つワイパーくんに声をかけると、彼は耐えきれないとでも言うようにこちらを睨みつけた。


「なんでこんなふざけた格好を俺がしなきゃならねぇんだよ!!」


お人形さんのようなドレスワンピース(ピンク)を着たワイパーくん。

しかもほんのりお化粧済み。

色の三原色を無視しているため目がチカチカするが、女の私よりもよく似合っている。


「可愛いよマルちゃん。」


「誰がマルちゃんだ!!」


私が用意した女装セットを纏ったワイパーくんが顔を真っ赤にして泣き叫んだ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



時は遡り、私がワイパーくんの顔面に拳をめり込ませたその後のこと。

寂しがるクロを1人にしては置けないと、作戦会議は裏庭にて開かれることとなった。


「痛ぇなチクショウ…結構いいパンチ持ってるじゃねぇか。」


「ご、ごめん。クロがこの世の終わりみたいな表情をしたから思わず…それにまさか一発で仕留められるとは思わな」


「仕留めるって言うんじゃねぇ!」


冷静になって考えれば言うことを聞かなかったクロをなんとかしようと、彼なりに考えてくれた方法だったというのが分かる。

肩身が狭い。すみません。

ただクロにあんな表情をさせたと考えるとやはり許されるべきではないので、後悔はしていない。


私の膝の上に身体を乗せてくるクロを撫でながら、ワイパーくんに睡眠妖精セイレーンについて説明する。


「図鑑によると今がちょうど繁殖期でね、一般的には自分好みのオスを歌で眠らせて襲うらしいよ。」


「恐っ…見た目によらず肉食系かよ。あ、まさかお前!俺を餌に…」


「…………。」


「…………うるせぇ!」


「何も言ってないよ。」


いじけたように下を向いてしまったワイパーくんの肩を叩き、一度咳払いをして言い直す。


「ワイパーくん自身が妖精の好みに当てはまるかは別として、私たちの同級生にはサリマンくんとハリベルくんがいるでしょう?」


ピクっ、とクロの筋肉が一瞬で強張る。

何事かと考えたがマッサージが効いているのだと結論付けて、今度は足の付け根あたりを揉みほぐしてあげる。

案の定、身体中から力が抜けて陥落した。


「そういう肉食イケイケ系妖精たちはこぞってあの2人組に物理的にも精神的にも捕獲されちゃうと思うんだよね。男らしさアピールで妖精たちを捕まえるのは悪手だと思うの。」


「聞き捨てならねぇな!俺があの2人組に負けると思ってんのか!?」


「え、勝てるの?」


「……………。」


「勝てるの?」


「もう一回聞くな!別に妖精になんてモテても……そうだ、仕方ねぇ。アイツらに譲ってるさ!!俺は優しいからな!!」


何言ってんのこの人。


若干哀れに思えてきたがここで慰めても煽るだけなので、とりあえず話を進める。


「あーうん。だから私たちは比較的温厚な妖精を狙ってみない?言ってみれば男の子に慣れてない、内気系清楚女子。」


「…妖精の話をしてるんだよな?」


「そうだよ。だから繊細な妖精たちとお話しできるように、ワイパーくんのその荒っぽさをなんとかしてほしいんだけど…」


「あ"!?やっぱお前喧嘩売ってんだろ!」


「ガルルルっ!」


「う"っ!」


私が悲鳴をあげると即座にクロが立ち上がりワイパーくんの腹へ頭突きをかました。

無言で蹲るワイパーくんは可哀想だが、得意気にこちらを見るクロが鼻血案件で可愛いので良しとする。


「でも本当にどうしようか…」


どうすれば怖がらせずに妖精たちを捕まえられるのだろう。

こんな派手髪な男の子と一緒だと確実に警戒されると思う。


頭を悩ましていると、なにかを思いついたようにクロが一度大きく吠える。

その後駆け足でどこかに行ったかと思えば、口に本を咥えて戻ってきた。


「なぁにクロ。どこで拾ってきたの?」


「ワフッ。」


何気なしに受け取り表紙を見ると衝撃を受けた。


「ロ、ロリータ雑誌!?」


「ガウガウ。」


「え?」


お人形さんのような可愛い女の子が写っている雑誌がなぜ裏庭にあるのか。

そんな疑問を解決するまもなくクロが肉球で服の写真に触れた後、鼻先でワイパーくんを指し示す。

それを数回繰り返す相棒の様子を見て、私はこの子の意図を察して感激した。


「それだよクロ……!さすが私の相棒!ワイパーくん!大丈夫!私がお金を出すから!」


「………はい?」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「……って了承してくれたよね。」


「してねーよそれ!聞き返してたんだよ俺は!あんときお前の馬鹿犬に頭突きくらわせられてそれどころじゃなかったっつの!!見事にこの俺をハメやがって……!!」


「痛い痛い!!」


「もうキレたぞ!ぜってぇに許さねぇからなぁだだだだだ!?」


私の髪を掴んで苛立ちげに頬を引っ張ってくるワイパーくんに抗議をしていると、彼の手を掴み捻りあげる人の影が見えた。

頬をさすりながらお礼を言おうと顔を上げると、もう引っ張られていないはずなのに頬が痙攣した。


「気安く触るな。」


「ヴィ、ヴィルヘルム・サリマン!?なんでお前がこんなとこにって痛えよ!なげぇよ!離せよ!」


捻りあげられた手に息を吹きかけて半泣きになりながら睨みつける。

すごい、話さなければただの女の子に見えるわ。


そんなどうでもいいことを考えてしまうほど私の脳は大混乱に陥っていた。

ワイパーくんの言う通り、なぜ彼がここにいる。


「サ、サリマンくん…」


「っ!!き、奇遇だなカンザキ。今日も一段と、そ、その……かわ…かわ……変わらない黒髪だな…。」


君も黒髪なのに何言ってんだ。


何故か奇声を上げながらワイパーくんに回し蹴りを繰り出したヴィルヘルムくんに恐怖を覚えると、さらに場を混乱させる人物が近づいてきた。


「あーもーヴィル、置いてかないでよ…ってあれ?ターキーガールじゃん。」


シオン・ハリベルくん参戦。

なるほど、これがカオスか。


しかも手に持っている網の中には既に目がハートになっている妖精が何匹も捕らえられていた。

早いわ。もう課題クリアしてるじゃないか。

1匹寄越しやがれください。


「わ、私のことをご存知で…?」


「購買のおじさん振り回してたよね。よく覚えてるよ。僕はシオン・ハリベル、よろしくね。」


そんなこともありましたね。

乾いた笑みを浮かべて全てを諦めた私は、大人しくこの場を収めることを選択した。


「あ、はい…えと…ナギサ・カンザキです…恐縮です…。」


ヒィイイ!!にこやかなイケメン怖い!

シミひとつない白い肌が眩しい!

周りの女子の視線が痛い!!今すぐこの場から去りたい!


なんとか逃げ道はないかと視線を右往左往させると、ブスッとした顔つきのヴィルヘルムくんと目があった。

大股でこちらに近づいてくると、シオンくんと私の間に入るように身体を割り込ませてくる。


「おいシオン、呑気に挨拶するな。」


「ククっ!…うんうんそうだね。僕が悪かったよ。ライバルだもんね。」


「ルァイバルゥ!?」


とんでもない単語を聞いて思わず巻き舌になるが、当のヴィルヘルムくんは大きく頷きシオンくんに注意を促した。


「そうだライバルだ。だからそんなに近づくんじゃない。いいな。」


「じゃあヴィルもカンザキさんのライバルなんだから離れなよ。」


「………………。」


動きを止めたヴィルヘルムくんはブリキのおもちゃのように錆びついた首をゆっくり回して私と向かい合う。

意味が分からなくてとりあえず引きつった笑みを浮かべてみると、胸元を押さえたヴィルヘルムくんが静かにしゃがみ込んだ。


やばい。私の愛想笑いを見たヴィルヘルムくんが不快感から体調を崩した。


「くっ無理だ!耐えられん!!反則だ!!」


「反則級の不細工かましてすみませんでしたぁあ!!」


これ以上ここにいるのは危険だと判断し、伸びてしまっているワイパーくんを担いで脱兎のごとく逃げ出した。



















「あぁ!!俺の相棒が可愛い!!離れるなんて無理だ!!抱きしめたい!!愛でたい!!抱きしめたい!!」


「へーいいじゃん。もういないけどね。」


「えっ。」


彼の足元を悲しく木枯らしが吹いた。

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