その声は反則だよ!ヴィルヘルムくん!
いつもありがとうございます^_^
ゆっくりとストーリーが進んでいきますが、やっぱりキレキャラがいると話が進みやすいですね。笑
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思わず口を開いたままワイパーくんを凝視する。
彼はそんな私を気にする様子はなく、私の足元に擦り寄るクロに顔を近づけて興味深そうに言葉を続けた。
「俺は使役魔法には詳しくねぇからよく知らねぇけどなかなか難しいって聞くぜ。で、なんて犬種?つか犬?まさか狼?」
「ま、魔犬だけど…驚かないの?」
「マケン?ってことは犬コロか。」
「グルルルル……」
「なーんか誰かに似てる気がするけど。」
ワイパーくんが顔を近づけたことで低く唸り凶暴な牙をチラつかせるクロにふと思い返る。
魔犬であるクロが誰かに見られれば(ワイパーくんに見られてしまったが彼は魔犬を知らないようなのでノーカンとする)、大騒ぎになること間違いない。
今更ながら警戒した私はさりげなくクロを隠すように抱きしめ、あたりを見回す。
「っ!ワン!?」
「ごめんねクロ、苦しかった?」
「クゥン?ワンワン!!」
嬉しそうに尻尾を振って私の顔を舐めるクロに思わず頬が緩む。
その様子を見ていたワイパーくんは意外そうに声を漏らした。
「へぇ?お前その犬コロがいるといい顔するんだな。」
「クロは私の…大切な相棒なの。」
「ふーん相棒ねぇ。くくっ!友達がいねぇからってただの犬コロが相棒かよ!!可哀想なやつ!」
ぶん殴ってやろうかコイツ。
そしてこの天才最強犬クロを勝手にただの犬コロ呼ばわりするワイパーくんに血管3本分くらいブチギレた私は、キツく彼を睨みつける。
「確かに私はウジ虫以下のクソ使えないエセ魔法使いだけど」
「いやそこまで言ってねぇよ。」
「クロは史上最強の天才犬なんだからそこんところ敬意を払ってもらわないとこちらとしても色々と腑に落ちない部分があるですよね。」
「息吸え息!!」
ワイパーくんに近寄り両肩を力強く掴むと、彼は若干怯えたように返事をする。
分かってない、この様子だとクロの素晴らしさが全く分かってない。
チラリとクロの様子を伺うと私と目があった事に喜んで再度尻尾を揺らすものの、少し不満そうに視線を逸らす。
その落ち込んだ様子を見て、雷に打たれたかのように全身に衝撃が走った。
すかさずワイパーくんを突き飛ばし、全力でクロを抱きしめる。
「大丈夫だよクロ!あなたの凄さは私が一番よく分かってる!!だから自信持って!そんな悲しい顔しちゃダメ!」
「クゥン!」
「やりやがったなターキー女!!またゴミ箱に俺を突っ込みやがって!!それにその犬はただお前とくっついてたいだけだろ!深読みしすぎだっての!」
「え!?本当に!?なにそれ激かわ!ええい!もう頼まれたって一生離してあげないんだから!!」
「アオーン!!……フッ。」
「俺は一体なにを見せられてんの!?しかもその犬のドヤ顔がマジで意味分かんねぇ!もうやだコイツら怖い!」
半泣きになって後退していくその姿が若干哀れになって冷静さを取り戻す。
数回咳払いをして呼吸を落ち着かせ、私はワイパーくんへと手を差し出した。
「と、とにかく雷撃魔法を使えるワイパーくんと組めて心強いよ。よろしくね。」
「俺はもう不安しか感じねぇよ…。」
そんな言葉を返しながらしっかりと私の手を握り返してくれるワイパーくんへ微笑むと、今後の方針を立てるため彼に提案をする。
「私はクロを住処まで送っていくから、その後に中間実技試験に向けて対策しない?睡眠妖精セイレーンは攻撃的ではないけど魔法が強力だから、ちゃんと作戦を練らないと。」
「うわめんどくせー。…つうかソイツ放っておいても勝手に帰れんじゃねぇの?」
「え?悪い人に連れ去られたら大変でしょう?なに言ってんの?」
「突然スイッチ入るのやめてくれよ…サイコパスかお前は。まぁいいや、俺も暇だし付き合うわ。」
「あ、ありがとう。よし、じゃあ一緒に戻ろ……クロ?」
意外と理解力のある(本人に言ったら怒られそうだから黙っておく)ワイパーくんを少し見直してクロへと視線を向けると、彼は横になってなんともシラけた目線をこちらに向けていた。
「クロ?どうしたの?」
「ガウガウ。」
「え?嫌なの?どうして?」
「ガルル。」
「ここにいたら知らない人に見つかっちゃうかもしれないよ。いつもの所に行こう。ほら立ってクロ。」
「…ワンッ!!」
「ど、どうしよう。」
「おい通訳。」
全く立ち上がる気配を見せないクロに焦っていると、ワイパーくんが苛立ちげに声をかけてくる。
慌てて事情を説明するため彼に目線を向けた。
「クロが移動したくないってすごく嫌がってるの。いつもならこんなことないんだけど……。」
ツンとあさっての方向を見るクロに心が痛む。
何か気に触ることをしてしまったのだろうか。
もし嫌われたらどうしよう。
愛想を尽かして私に背を向けるクロの姿がリアルに想像できてしまって、サァッと顔面から血の気が引いて行く。
そんな私を呆れたように見ていたワイパーくんは深く深くため息を吐くと、クロに向かって声をかけた。
「そんなに俺が気に入らねぇのか犬コロ。」
「ガウッ。」
「即答かよ。犬のくせに一丁前に嫉妬とはな。だけどよ、大好きなご主人様はお前の横柄な態度で傷ついて今にも泣きそうだぜ?このままだとワガママなお前に愛想を尽かして俺に惚れちまうかもな!」
「え、それはない。」
「手伝ってやってんのに台無しにすんのやめろよ!」
気味の悪いワイパーくんの冗談のどこか手助けだというのだろうか。
疑わしげな視線を彼に向けていると、普段より数段か細い鳴き声が私の耳に聞こえてきた。
「クゥゥン………。」
悲痛な面持ちでこちらを見つめるクロ。
長い尻尾は生気を失ったように脱力しており、特徴的な紫の瞳はまるで涙を堪えているかのように軽く滲んでいる。
「クロ?」
私の声かけに全身を震わせたクロはヨロヨロと近寄ってきて、耳を平らにして仰向けに横たわる。
尻尾まで後ろ足の間に巻き込んでしまっているこれは、間違いなく服従のポーズだ。
「思った以上に効果があるな。どんだけお前にゾッコンなんだよコイツ。趣味悪りぃ。」
嫌わないで。置いていかないで。
そんなクロの悲痛な叫びが聞こえてくるようで、堪らずワイパーくんの顔面に拳をめり込ませた。