得意魔法はなんですか?ヴィルヘルムくん!
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その後、私と赤シューズくんことマルクス・ワイパーくんは期限ギリギリだったパートナー申請用紙を提出して一息吐いた。
「ワァオ!ギリギリ!このまま提出してなかったら、2人ともアウト!留年確定でしたヨ!間に合ってよかったデース!」
早く言ってくれよ。
サラサラな銀髪を掻きあげてお茶目にウィンクしてきたエルフ先生に、顔が引きつってしまったのは仕方がないことだと思う。
それに比べてワイパーくんは退屈そうに大あくびをかます程の余裕ぶり。
授業は全て終了しているためクラスには私たち以外誰もおらず、思いっきり身体を伸ばして机へと倒れ込んだ。
「本当に無事書類を提出できてよかった…。」
「くくっ、あのまま提出してなかったらお前!留年確定って面白すぎるだろ!!ぎゃははは!だっせぇ!ざまーみろ!」
留年のくだりについては、君にも当てはまるからね。
馬鹿にしたように笑い飛ばしてくるが、彼も私と同じ穴の狢なので哀れに見えてくる。
「あ"?なんだよその目。」
「ヒィ!!すみません!!」
全力の謝罪を受けたワイパーくんは理解ができないように顔をしかめて身を乗り出す。
「お前さぁ、そのビビり癖なんとかなんねーのかよ。よくそんなんでこの学園に入学したよな。あの炎魔人のコネとかか?」
「ち、違うよ……カルラ・ウィッチ学園長から入学許可証もらったもん…一応。」
「ふーん…。」
訝しげに数秒見つめたワイパーくんは気合を入れて立ち上がると、挑戦的に言い放った。
「よし、ならお前の実力を見せてもらおうじゃねぇか!!」
「え!?」
「俺だってコネでここは入れねぇことぐらい知ってる。それにあのヴィルヘルム・サリマンがお前を気にかけてるんだ。役に立たないとか言っといて実はなんかすげぇ特技があんだろ?」
「っないない!!勘違いだよ!」
「…ははーん?知ってるぜそれ、謙遜が美徳ってやつだ。」
楽しそうにニヤリと笑ったワイパーくんは私の首根っこを掴んで連れて行ったのはゴミ収集場。
裏庭とはまた違った意味で強烈な匂いなため、普通の人は余程のことがない限り寄り付かない。
「おーし、ここならいいんじゃねぇの?どんな強力魔法をぶっ放しても人は通らねぇから大丈夫!」
「い、いや、あの…」
「なんだよ。あ、俺の実力を先に知りてぇってか?俺は雷撃魔法が得意でよ!」
完全に勘違いしているワイパーくんに訂正をしようと言葉をかけたが、どもったことが災いしてさらに深読みをしてしまいどんどんと話を続けていく。
そして彼が右手に力を込めるとバチバチと青白い光が弾けた。
確かに得意魔法と言うだけあって迫力があり、彼の実力の高さを感じる。
「どうだ!こんだけ雷撃を溜められるなんて珍しいんだぜ?特訓を積めば自在に雷を操ることができるって話だ!」
「へぇ。すごいね。」
「そうだろ!でもその境地にたどり着くには数十年かかるらしくってよ」
得意げに話すワイパーくんの姿に離れて暮らす弟の姿と被せながら微笑ましく見つめていると、ふと思い出す。
あれ?そういえばクロって、すごい雷撃魔法をぶっ放してなかった?
私が悪戯妖精ジャックジャックに裏庭に閉じ込められた際、私に褒められようとあの子は容易く雷を落としていた。
しかしワイパーくんのお話ではあの境地まで行くのに数十年かかると言っていたではないか。
(まさかクロってかなり長生き?もしくは……やっぱりかなりの天才児?)
「………じゃあ次はお前の番な。」
「はぇっ!?」
クロへ思考を持っていかれていると、ある程度の説明を終えたワイパーくんが私を指差してこちらを見つめていた。
「俺が兄貴と呼ばれる理由はこの雷撃魔法にあんだよ。これを見てひっくり返る奴が多いのに、お前は冷静。つまりは……こういう魔法を見慣れてるってことだろ!」
正確には超優秀なワンコが身近にいるだけです。
期待した彼の眼差しにそんなことを言えるはずもなく、仕方なしに腹をくくった。
「わ、わかった…」
半ば投げやりになってワイパーくんへと手を伸ばす。
そして彼の両肩に手をかけていつも通り魔力を込めれば、ワイパーくんは不思議そうに首を傾げた。
「どう?」
「なんか肩が軽くなったような…?」
「よし。」
久しぶりにやってみたが、どうやら鈍ってはいないらしい。
無事に彼の魔力の流れをケア出来たことに満足気に頷く私の様子にさらにはてなマークを浮かべる。
「で?」
だがその先を求めるような顔をされても無駄だ。
だってこの変換系魔法は肩こりを治すものだから、ここが終着点である。
伝えた後のことを考えたくもないが、震える声を押さえながら私は話を切り出した。
「つ、つまり、ワイパーくんの肩に手を置くとね?」
「ぐべっ!!」
「え。」
気がつけば目の前にいたワイパーくんが後方へ綺麗なカーブを描き、宙を舞っていた。
そのまま頭からゴミ置き場へと突っ込み、数回痙攣したのち動かなくなる。
そのまましばらく前ならえの状態で放心していると、足元に感じる生き物特有の暖かさに恐る恐ると下を向いた。
「ワン!」
なんでここにいるの、クロ。
私と目があったことに嬉しそうに吠えた相棒に頭を抱えながらも、ゴミ箱に埋まったクラスメイトを掘り返すため早急に行動を開始した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「いてーよ!!」
「ご、ごめなさい。」
ツンと生ゴミ特有の嫌な匂いを全身から漂わせるワイパーくんに、鼻をつまみたくなるのを耐えながら謝罪する。
「ほ、ほらクロ、ごめんなさいして?」
そしてワイパーくんをダストシュートした元凶に声をかけると、私に身体を擦り付けながらチラリとワイパーくんを一目見る。
「………ッハ、ガウ。」
「あぁちゃんと謝れるなんて!なんて賢い子なの!」
「嘘つけ!!今ソイツ絶対鼻で笑っただろ!」
まさかそんな訳ない。
その言葉を聞いてクロの顔を見ると、うるうると紫色の瞳を揺れさせて反省したように耳をペタリと垂らし私を見つめる。
ああ賢い子だ。自分がいけないことをしてしまったと分かっているのだろう。
ここは相棒である私が謝らなくては決意を固めて、再度ワイパーくんへ頭を下げる。
「クロはあんまり人に慣れてないからびっくりしちゃったんだと思うの。本当にごめんなさい。私を守ってくれる優しい子なんです。」
「………クゥン。」
「うう、この愛くるしい表情!悪意なんてあるわけがない!ワイパーくんもクロを撫でてくれれば分かるはず!!はっ!そうだよ!ぜひこのフワフワな毛並みを体感して!!!モフッと!モフッと行きましょう!!」
「いや落ち着けよ!」
溢れるクロへの愛情を持ってワイパーくんに近づけば、彼はドン引きしたように両手を突き出し後退する。
我に返って数回咳払いして気持ちを落ち着かせると、呆れたように溜息を吐いたワイパーくんが言葉を続ける。
「でもちょっと見直したぜ。」
「え?」
ゴミ箱に埋められたのに見直したとはどういうことなんだろう。
……まさかワイパーくん、ドMか?
軽く引いている私の様子に気がつかないワイパーくんは、興奮気味に言葉を続けた。
「魔法生物を使役するなんてやるじゃねぇか!!」