パートナーを見つけないと!ヴィルヘルムくん!
いつもありがとうございます!
ブックマーク登録いただきありがとうございます^_^
のんびりとではありますが、物語は進んでいきますよー。
今後ともよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしてます!
思い出してよかったのやらよくないのやら。
炎魔法を特訓するのに夢中になっていて、中間実技試験という存在を頭の中から消してしまっていた。
この学園、普段は学生の自由が保障されており校則はとても緩い。
それでも魔法使いたちが通う名門と言われる理由はなにかといえば、それは3ヶ月に1度訪れる実技試験だろう。
この試験は卒業後即戦力として活躍できるよう、かなりハイレベルに設定されていると聞く。
詠唱試験であれば本当に使い魔を召喚しないとならないし、戦闘試験であれば戦場に放り出されるのだ。
つまり事と次第によっては油断していると、死ぬ。
(そして今の私では間違いなく死ぬ!!)
一瞬で冷静さを取り戻した私は再度椅子に座り、机の上に肘をついて指を組む。
その私の早変わりにいち早く反応したヴィルヘルムくんは、咳払いをして近づいてくる。
「確かに実技試験は近いが1年生の内容などたかが知れている。そんなに焦る必要は…いやもちろんその真剣な表情もまたクるものがあるが」
「それでどうするんだカンザキ!!」
頬を赤らめ私の前に座ろうとしたヴィルヘルムくんを奥に押し込むフレイム先生。
すごい音を立てて隅へと追いやられたヴィルヘルムくんの隣に座り込んだ先生は身を乗り出して私へと問いかける。
「まさか炎魔法を特訓している間にそんなにも月日が経っていたとは予想外です……。」
「相棒がいると言っていただろう!?一緒に特訓しているのかと思っていたのだが違うのか!?」
「その手があった……!!」
「わ、私の相棒は…その…諸事情がありまして…」
後悔したように頭を抱えて唸るヴィルヘルムくんは放っておいて、今回の試験内容を思い出す。
確か今回は巷で悪さをしている睡眠妖精セイレーンの捕獲だったはず。
しかも1年生ということもあって今回は2人1組、クラスメイトとタッグを組むというものだった。
その試験になんにも関係がない魔犬のクロを連れて行くわけにはいくまい。
「そうか!もしや違うクラスか!!」
「そ、そんなところです。なので早いところパートナーを見つけないと!!」
「なっ!!う、浮気するつもりかカンザキ!!」
「そ、そんな!私は…ってなんでヴィルヘルムくんがそんなに過敏に反応するの?」
「諸事情だ!!」
諸事情かなんだか知らないが、今は彼に付き合っている時間はない。
急いでお茶代(あんまり飲めなかったけど)のお金を机の上に出してヴィルヘルムくんへと声をかける。
「ヴィルヘルムくんハンカチありがとう!!今後お話しすることなんてないと思うけどお互い試験頑張ろうね!フレイム先生も大事なことを思い出させてくれてありがとうございます!じゃ!」
「っ!待ってくれ!!」
「おう!!頑張れよカンザキィイイイ!!ファイア・カモーーーーーンヌ!サリマンも一緒にどうだ!?」
「誰がやるかハゲ猿!!貴様が退かないとここから出れないだろう!?とっとと退け!!」
後ろで2人のじゃれあいを聞きながら野次馬の間をすり抜ける。
そしてともに試験を乗り越えてくれる短期間のパートナーを探しに繰り出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「え?パートナー?…ごめんなさい、もう決まってるの。」
「わ、私なんかじゃ貴方には相応しくないと思うわ。」
「僕も既に決まっているのでね。すまない。」
あえなく撃沈。
もうほとんどのクラスメイトに声をかけたがことごとく断れる始末。
それでも必ずクラスメイトと組めるように人数振り分けがされているはずなので、私と同じように波に乗り遅れた人物を必死に探す。
その中で教室の隅に縮こまったある少年の姿が目に入った。
うな垂れるように下を向いているため、オレンジと緑という派手な髪色は力をなくしたように萎れている。
完全に何かに敗北したような雰囲気を醸し出すこの少年に実に見覚えがある。
(同じクラスだったんだ……。授業受けてるところ見たことないな……。)
すこし迷った私はゆっくりとその少年に近づき声をかけた。
「あ、あの……」
「んだよ!!ほっとけよ!どうせ俺はダサい男だっ!!」
「まだなにも言ってないよ…。」
勢いよく顔を上げた少年の顔は鼻水と涙でボロボロで、派手なメイクも涙で取れてパンダのようになってしまっている。
そのまま私の顔を数秒凝視した少年は、瞳に怒りを滲ませこちらに詰め寄った。
その拳は固く握られ、今にも殴りかかってきそうな雰囲気である。
「お・ま・えぇぇぇぇええええ!!」
「ヒィィ!!ま、待って!落ち着いて話し合おう!」
「落ち着けるか!!いろんな奴に殺意剥き出しで追いかけられて散々なんだよこっちは!!めっちゃ怖ぇよ!!意味分からんねぇよ!!俺が何したってんだ!?お前ヴィルヘルム・サリマンと仲良いだろ!?なんとかしてくれよ!!」
「な、何を勘違いしてるの!?私とヴィルヘルムくんが仲良いとか天地がひっくり返ってもないから!やめてよ心臓に悪い!!そんなことよりも!」
気を取り直して少年の両肩に手を置き、負けじと私もじっと見つめる。
「なんだよ!見てんじゃねぇーよ!!」
「……つかぬ事をお伺いしますが、中間実技試験なにか対策してる?」
「…チューカンジツギシケン?」
よし、なにもしてないな。
呆けたように首を傾げるその様子に密かにガッツポーズをして、同志を見つけた喜びを噛み締める。
「中間実技試験っていうのは入学してからの実力試しのことでね、これちゃんと受けないと卒業できないんだよ。」
「あー…そういえばそんなのあるって言ってたな。」
「でも結構大変らしくって。下手したら死んじゃうんだって。」
「え"。」
「ね?しかも今回2人1組で組まないとそもそも受けられないんだけど、もうこのクラスで組んでない人ほとんどいないんだよ。」
「は、はぁ!?なんだよそれ!俺聞いてねぇ!」
「うんうん。気持ちわかる。でね?私も取り残されててね…その…」
「つまり、お前と組めって言いたいのかよ。」
すごく嫌そうに顔を歪める派手髪くんだが、私だって君とあんまり組みたくない。
けれどもう互いに他に人がいないのだ。
どれだけ嫌がられてもこのチャンス、逃がすつもりは毛頭ない。
「すっごい不本意だと思うけど…ここは妥協して私と組んでくれると助かります…。」
「…………。」
盛大に顔をしかめて数分唸った少年は、勢いよく人差し指を私に突き出した。
「友達1人いない可哀想なお前と組んでやってもいい……が!条件がひとつ!!」
「な、なんでしょう。」
「絶対に俺にヴィルヘルム・サリマンを近づけさせるな!!」
思った以上にヴィルヘルムくんにトラウマ植え付けられていて可哀想だが、この条件は守ろうとしなくても守れる。
私だって好き好んであんなに目立つ人と一緒にいようとは思わない。(というよりそもそも絡んで来ることがもうないと思う。)
大きく頷いて手を差し出した私は、短期間のパートナーに微笑んだ。
「私死ぬほど役に立たないけどよろしくね。」
「え。」