お茶でもしようよ!ヴィルヘルムくん!
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ここは学園内のカフェスペース。
そこで他人とお食事をするとなると、普通なら友人か恋人か。
とにかく無言で向かい合うようなことは起こらないはずだ。
周辺にいる生徒たちも固唾を飲んで状況を把握しようと、必死に頭を働かせていることだろう。
「し、静かだ……」
「一体何が起こるんだ…」
私もよく分かっていないので、こちらに視線を寄越すのはやめてください。
恐縮の余り体を縮こませている私とは打って変わり、お相手は大きな紫色の瞳をこれでもかと見開きながらお茶をがぶ飲みしている。
勢いそのままコップを机に叩きつけた音にビクつきながら恐る恐る顔を確認するが、やっぱり間違いない。
なんでヴィルヘルムくんとお茶をすることになってるんだろう。
確かに彼に声をかけたのは私だ。
無論それは不可抗力で借りてしまったハンカチの返却と、手助けをしてくれたお礼を口頭で伝えたかっただけ。
しかも彼に声をかけた時点でヴィルヘルムくんファンクラブのお姉様方は警戒をしたように唸っていたから、早々に退散するつもりだった。
「え、えと…そのハンカチ……」
3回くらい洗った黒いハンカチと購買で買ったお菓子を詰めたお礼を、おずおずと彼に差し出す。
呆然とした様子で袋を受け取ったかと思えば、すぐに真剣な表情に変わってそのまま私の手を握り一言。
「付き合ってくれ。」
「え?」
「っ!す、すぐそこのカフェスペースまで!」
(意味が分からん!!)
そして気づけばあれよあれよと相席することになってしまった。
何故。本当に何故。
それに私もヴィルヘルムくんも会話を広げられないタイプだから、この沈黙を打破できるきっかけすら見つけられない。
こんなの急遽決まったお見合いより気まずいではないか。
いやお見合いしたことないし、するつもりもないけども。
「……ザキ、カンザキ!!」
「え?は、はい!」
「どうした?具合でも悪いのか?」
「大丈夫大丈夫!なんでもない!」
いけない、あまりのあり得ない状況に現実逃避して反応が遅れた。
彼は卓上に置いてあったお茶のポットをコップに注ぎながら一度首を傾げたが、その後覚悟を決めたように口を開いた。
「確かカンザキは東の島国出身だろう?」
「う、うん。そうだけど…」
「実はその東の島国に前から興味があってな……く、詳しく話を聞かせて欲しいんだ。」
「そうなんだ…な、なんでまた?」
「ふ、深い意味はない!!独自の文化に言語、そしてなにより魔法に頼り切らないように過ごしていると聞いてな!どんなものなのかと!そう!!決してやましい意味ではなくただの興味本位だ!」
「え、えっとヴィルヘルムくん。手元、お茶が溢れてる。」
熱く語るヴィルヘルムくんには悪いが、彼の手元が大洪水のため全然話に集中できない。
すごい湯気だけど熱くないの?
そういう修行なの?
思わず指摘すると感動したように瞳を潤ませてながら彼がこちらに身体を傾けたせいで、さらにポットの注入口が荒ぶって中の液体が滞りなく溢れ出る。
「俺の名前を……!!」
「うん?いやあのねポット」
「も、もう一回呼んでくれても構わないぞ。それはもう気がすむまで何度でも…!」
「あのポッ」
「いや待て、何度も不意打ちで来られると寿命が縮まる。カンザキ、俺の名を呼ぶときは合図をしてくれ。挙手制にしよう。」
手に熱湯ぶっかけながら真剣な顔して何言ってんだこの人。
変人ぶりに全力で引いていると、視界の端に映ったのはこの状況を打開できるであろう強力な助っ人。
私の悲痛な視線を受けて慌てて近づいてきたその人は、全力で拳に炎を纏いヴィルヘルムくんをぶん殴りにかかる。
「ってぶん殴り!?先生ストップ!」
「ファイア・カモーーーンヌ!!」
「甘い。」
先ほどまでの変人らしさとは打って変わり、即座に水魔法で防壁を作ってフレイム先生の拳を捉えゼリー状に固める。
そしてようやくポットを机の上に置きながら先生に声をかけた。
「生徒同士の微笑ましい団欒を邪魔するとは教師の風上にも置けないな。仲間の野猿坊どもから温泉を追い出されて気が立っているのか?」
苛立ちげに睨みつけるヴィルヘルムくんの様子に周囲から黄色い声援があがる。
確かに先生の不意打ちを軽く躱したのはカッコいいと思うのかもしれない……もちろん、お茶でずぶ濡れの状態でなければ。
私から見るとビッチャビチャな状態で、どちらかといえばヴィルヘルムくんが温泉に浸かっていたような感じだ。
死んでもそんなこと言えないけれど。
「むむ!!なぜ風呂から追い出されたと分かった!?」
「あ、追い出されたんだ……」
「先ほど生徒たちと親睦を深めようと男子風呂に突入したんだがな、全員の魔法を喰らって追い出されたところだ!あいつらも強くなった!!」
手を拘束するように絡みついているゼリーを食べながら満足気に呟く先生に胸が痛む。
炎魔法が少し出せるようにはなったものの、未だに先生と特訓をしている私としては早く他の生徒たちと打ち解けてもらいたいと思っているのだが……道のりは長そうだ。
………というよりそのゼリー食べられるんだ。
「それよりもサリマン!あの状況からよく俺の攻撃を見切ったな!お前がお湯を浴びている様子を見て、気絶させてから保健室に連れて行こうとしていたのだが…これは失敗だな!!」
「えぇ!?なんで気絶させる必要があるんですか!?考え方が野蛮です先生!!」
「なにを言うカンザキ!!目覚めて保健室の方がサプライズ感があっていいだろう!?俺はいつもそうしている!」
「だから生徒から怖がられるんですよ!」
「な、なんだと!?」
「そこまでだ。」
私と先生の掛け合いを無言で見ていたヴィルヘルムくんは、絶対零度よろしくの冷たい眼差しでこちらを睨みつけ低く呟く。
「炎魔人だがなんだか知らないが…俺相手に喧嘩を売るとは調子に乗りすぎだ。まぁいい…そんなに風呂が好きならお望み通り嫌という程沈めて」
「ひっ!!」
彼の人を殺しそうな勢いに完全にビビった私は若干涙目になって、フレイム先生の背中へとゆっくり後退する。
その私の動きに気がついたヴィルヘルムくんは、顔面蒼白になりながら慌てて言葉を紡ぐ。
「っじょ、冗談だ!!しししし沈めたりなんか出来るわけないだろう!?俺もこの猿、じゃなくて屑…う"う"ん!こ、この先生を一応尊敬をしている……気がするからな!これはじゃれ合いだ!」
「なに!そうなのかサリマン!!先生は嬉しいぞ!!」
「あ、あぁそうだ。……だからひとまずカンザキから離れろ。さっきから距離が」
「ところでカンザキ!来月から始まる中間実技試験の準備はどうだ?パートナーとの練習は捗っているか?」
「え、な、何ですかそ……あ"。」
ビビりながらも先生の言葉に耳を傾けると、とんでもないことを思い出した。
中間実技試験。
そういえば全く準備してない。
サァァ…っと血の気が引いていくが実感できるほど青ざめ先生を見つめると、フレイム先生も驚いたように目を見開く。
「っ、なにを見つめあって」
「やばい先生ぃいいいい!!何にもしてないですぅううううう!!」
「カンザキィイイイ!!!」
号泣し出した私と盛大に頭を抱えたフレイム先生を、ヴィルヘルムくんは呆然と見つめた。