ありがとう!ヴィルヘルムくん!
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「あ、あのこれ…ハンカチ使ってごめんなさい。」
先ほどから小さく唸っているヴィルヘルムくんに恐る恐る近づき、ちらりと表情を伺う。
眉を少し寄せて瞳を閉じている姿でさえ女の私が情けなるほど美しいものだ。
まつ毛長っ。
「いいや…むしろその瞬間を写真にっ!?」
「ヒィ!!」
チラリとこちらを振り向いたヴィルヘルムくんが目を限界まで見開き、華麗なるフォームで前方へと転がり私から距離を取った。
あまりの衝撃の展開にフリーズするが、なぜこんなところで前転したのだろう。
おそらく私が近づいたのが良くなかったのだろうが、絶妙な沈黙が身にしみる。
「え、えと」
「カンザキから近づいてきたのが予想外だっただけだ。俺は暇なときは前転する習慣あるから特に深い意味はない。」
「ぜ、前転するんだ…」
「あぁそうだ。カンザキが思ったより近かったから緊張したとかそういう理由ではない。」
汗をダラダラと流しながら話すヴィルヘルムくんを尻目に私は震えた。
やっぱり天才って何を考えてるか分からない。
暇なときに前転するってどんな習慣?
脳みその回転が良くなるとかそんな効果でも隠されてるの?
凡人の私がいくら考えても一生理解できない境地なのだろう。
「へ、へぇ…そうなんだ…」
ゆっくりヴィルヘルムくんから離れようとすると、彼はなぜかモジモジしながら私へと声をかける。
「と、とにかく修行も終わって今日は特段やることもないのだろう?カンザキの暇つぶしに付き合ってやろうかと思ってな。」
「えぇ!?」
「なんだその反応は。」
「いやいや!わざわざサリマンくんに付き合ってもらわなくてもというか、その」
「サリマンくん?俺のことはヴィルヘルムと呼べと言っただろう。」
「そ、そんな…恐れ多いというか」
「恐れ多い……?」
苛立ちからかまるで肉食動物が獲物を追い詰めるように睨みつけてくるヴィルヘルムくんに腰が引ける。
怯えきった私の表情を見て顔を歪めたヴィルヘルムくんは、裏庭の扉の前あたりに手をかざして力を込める。
すると大きな植物が裏庭への扉を隠すように出現した。
「ならこうするか。あの巨大な植物を燃やせたら、俺のことはヴィルヘルムと呼べ。」
「え?燃やせたら?」
「あぁ。」
ギチギチと不気味に蠢く植物を盗み見て、思わず顔がひきつる。
彼は私が火種すら出せないことを知らないのだろう。
(火すら出せない劣等生だと分かったら、興味がなくなって絡んでこないかな。)
伺うようにヴィルヘルムくんの表情を見ると、彼は自信満々に頷いた。
その様子がなぜか可愛らしい相棒と重なって、出来ないと分かっているのに手のひらに魔力を込めてみる。
「よし今か。」
「ファ、ファイア……ってえぇ!?」
腰を落とし気合いを入れようと身体中に力を入れると、一瞬で背後に気配を感じ自分の膝が強制的に折り曲げられるように衝撃を感じて体勢を崩される。
(まさかの膝カックン!?)
そしてそのまま無様に倒れそうになるその瞬間、自身の手のひらから熱い何かが飛び出しあの植物が激しく燃え上がった。
「え!?も、燃えた!?」
「あぁやはりな。」
無様に倒れこんで行く私の身体を受け止めたヴィルヘルムくんは、呆然とする私の体制を直し口を開く。
「大分体幹は鍛えられてきたからな、あとは不自然な力みを取れば自ずと」
「す、すごい!!燃えたよ!燃えてるよ!!まさか出来るなんて!」
喜びのあまり何か解説をしてくれていたヴィルヘルムくんに詰め寄り、いかに信じられないことか説明しようと口を開こうとすると彼は優しい表情で私を見つめる。
「流石だカンザキ。よくやった。」
彼からの心からの祝福に思わず目を見開く。
私はとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。
てっきり彼は自分以外の生物は下等種族ぐらいの勢いで他人を見下しているのだと思っていた。
(ロクに知らないままそんなことを思い込んでいたなんて、ひどい奴だ。)
実際はうまく魔法を使えない同級生を遠回しに助けてくれる、優しい青年ではないか。
「少し自信が持てたよ!ありがとうサリマンくん……あ、ヴィルヘルムくん!!」
「っ!?す、凄まじい威力っ!!!」
「へ……?」
意味不明な言葉を発して近くの壁に突進していった様子からしてやはり変な人だけど、お姉様方が黄色い声援を送る理由が分かった気がした。
「これでクロに報告できる…!」
「っ!あ、あぁ!そうだな!報告してくるといい!」
「本当にありがとう!このお礼はまた後日に!!」
「ご、ごじっ!後日!?後日っていつだ!?」
なぜか感動したようにキラキラとした熱い視線を向けるヴィルヘルムくんに違和感を感じながらも、尻尾を振るう相棒の元へと足を進めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「クローー!」
嬉しそうに俺を呼ぶ声がする。
さきほどカンザキが裏庭に入ったあと、別の入り口から侵入した俺は見事に泥だらけ。
だがそんなことはどうでもいい。
一刻も早く彼女の元へ。
頬を緩めて感謝を述べる彼女の表情を思い浮かべながら、最短で魔犬へと姿を変え駆け出した。
「あっ!クロ!!」
思いっきり両腕を広げて俺を抱きとめようと準備をする彼女に我慢できず、本能のままに押し倒した。
「きゃあ!久しぶりクロ!!会いたかったよ!全然会いに来れなくてごめんね?」
「クゥゥン!」
実はさっきまでも一緒に居たんだ。
なんてことは腐っても言えないが、全身で会えた喜びを最大限に表現する。
甘い優しいカンザキの匂い。
そしてなにより幸せそうに笑っている彼女の様子が嬉しくて、自身の尻尾が制御不能となって左右に揺れる。
「ねぇ聞いてクロ!私ついに炎魔法が出せたんだよ!!」
「ワンワン!!」
「さっきまで火種すら出なかったのにボボボって燃えてね!それでね!」
身振り手振りを交えて報告するカンザキになんとも言えない感情が湧き上がる。
知っているぞ。よくやったな。
俺もその場に立ち会った。
流石俺のカンザキだ。
「ワフッ!!」
「えへへ信じてたって?待たせちゃってごめんね?」
そう言って俺の顔を撫で回すカンザキはふと違和感に気がついたように、顔を強張らす。
「あれ?クロ…おでこが腫れてない!?何処かぶつけた!?」
「ガウッ!?」
しまった。さっきのカンザキ・インパクト(可愛い相棒による萌えダメージ)に耐え切れず、壁に突進した衝撃が残っていたか。
心配をかけてしまったらどうしようと狼狽える俺の様子に苦笑したカンザキは、とても優しい表情で俺のおでこを数回撫でる。
「あんまり無茶しちゃダメだよ?痛いの痛いのとんでけー!」
あぁ…尊い。
心臓がバクバクと破裂しそうなほど暴れ狂っている俺に気づかず、何度も何度も繰り返す。
今日は間違いなく俺の人生で最良の日だ。
こんなに長い時間カンザキと過ごせて、しかも人間姿の俺にも微笑みかけてくれて。
(明日死ぬかもしれない。)
フワフワと身体が浮かんでいるような感覚で身を委ねているとさらに嬉しそうに彼女は呟く。
「本当に今回はヴィルヘルムくんに感謝しなくちゃね!」
あ、そうだ。結婚しよう。
割と真剣にプロポーズの言葉を考えながら、ヴィルヘルムはしばらく会えなかった時間を埋めるように身体を寄せた。