なんで上手くならないんだろうね!ヴィルヘルムくん!
いつもありがとうございます!!
今回はヴィルヘルムくんパートとなります。
最近気付いたんですが、私自身が馬鹿なのでヴィルヘルムくんが頭良さそうに書けない笑笑
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走り去って行くターキーガールを横目で見ながら、連写した写真の選別を行なっているアホなヴィルヘルムに声をかける。
「ねーヴィル、よくこんな人目のつくところで写真の選別なんてできるね。ファンクラブの子が見たら号泣して大河が完成するんじゃない?」
「クソッ!ブレてしまった!!俺の馬鹿!」
「ダサっ。それよりさ、あんなに全力でサポートするとか豪語してたくせに盗撮しかやってなくない?いいのそれで?」
「聞き捨てならないな。まさかカンザキをただ眺めるためだけに写真を撮っているとでも思っているのか?」
「え、違うの?」
「馬鹿かシオン。」
そう言っておもむろに立ち上がったヴィルヘルムに周りの女子生徒から歓声が上がる。
鬱陶しそうに顔を歪めたあと、僕を指差しドヤ顔をかます。
「このヴィルヘルム、カンザキを全面的にサポートするために様々な布石を敷いてある!!!」
「恥ずかしいから座って。」
自分に都合の悪いことは耳を塞ぎ、写真を並べたヴィルヘルムは得意げに語り出した。
「ここ数週間観察をした結果で確信したが、カンザキの課題は体幹と経験のなさにあると踏んでいる。そもそも彼女は変換系魔法を得意としているのだから、魔力の流れをどう操ればいいかの先天性のセンスはあるはずだ。」
「……へぇ。」
「母国ではあまり魔法を使ってこなかったのだろうな。俺たちと比べて明らかに身体の鍛え方が足りていない。この写真を見てみろ。」
思った以上にちゃんと考察しているヴィルヘルムに感心して写真を覗くと、ターキーガールが幸せそうな表情でおにぎりを頬張る姿がでかでかと写っていた。
………なにこれ。
「違った。観賞用だった。こっちの写真だ。」
「観賞用ってなに?結構ヴィルの今後が不安になってきたんだけど。」
僕の質問に答えようとせず無言で再度突き出してきた写真には、炎を打ち出そうと出した手が変に強張っている様子が写し出されていた。
「あー……不器用だねこれは。炎魔人先生に変な格好をさせられていたせいもありそうだけど、間違いなく不器用だね。」
「これではいくらセンスがあっても火種すら出ない。」
「まぁ確かにね。すごい角度だねこれ。よく腕折れないな。」
僕の言葉に大きく頷いたヴィルヘルムは、脚を組みながら自身のカバンからノートをとりだした。
テキトーにページを開いて雑に人型の絵を描くと、おもむろに計算式を書き始める。
「カンザキの身体の魔力のベクトルは基本的に内側に向かっていると見ていいだろう。前に言っていた『変換系魔法』しか使えないということ、逆に言えば対象物に直接触れる必要のある魔法は使えるということだ。」
「なるほど。触れているから体内の魔力を放出しなくても問題ないってことだね。うんいいね、面白くなってきた。」
「カンザキの場合厄介なのは魔力放出に極端に慣れていないこと。このままだと通常の魔法使いの1.35倍は体幹を鍛えてかつ、体内魔力量を一定のリズムで調整していかねばならない。本来ならば幼い頃に外側にベクトルが向くように調整するのが一番いいが、ある程度身体が大人に近づいている今の段階では魔法を打ちまくって感覚で覚えるしかないだろう。」
「ふーんなるほど。あの炎魔人先生がターキーガールにやらせている、時代遅れの笑劇!体幹のポーズ!!……は的を得ているのか。だから邪魔しないんだね。」
「よく燃えるハゲ猿だが、一応戦闘魔法演習の第一人者なだけはある。あの訓練はカンザキには必要なものだ。……あんなに大勢の前でやる必要はないとは思うが、俺も恩恵にあずかれているから良しとしよう。」
「あーあ、途中までいい感じだったのに今ので台無しだわ。」
遠目からヴィルを眺めて頬を赤らめている女子達に、コイツは馬鹿で変態であることを教えてやりたい。
僕の言葉に不服そうに眉をひそめたヴィルヘルムは、長い脚を組んで踏ん反り返る。
「自分で言うのもなんだがなかなかサポートに回っていると思うぞ。炎魔人の仕事量を減らすために授業が円滑に進むようにしたり、練習場所を確保できるようにあそこ一帯で屯していた雑魚猿どもを駆除したり。その練習場所をそれとなく伝えたりといろいろとな!!」
「あー確かに、最近授業真面目に受けてるなって思った。結構地味なサポートをしてたんだね。でもなんであんな人目につくところを選んだわけ?ターキーガール、もう大分有名人だよ?面白い意味で。」
「そんなもの決まってるだろう。…………ここからのアングルが一番良く写真が撮れる!!」
「パパラッチか。」
「だが自らカンザキから距離を置いてみて……気付いたことがある。」
悲しそうに眉をひそめたヴィルヘルムは、そのまま机に突っ伏し極端に落ち込む。
「俺自身の姿だとあの満面の笑みは見せてくれない。自然体ではない気がする。炎上猿にさえ可愛らしい笑顔を見せているというのに………。」
「お、やっと気付いたんだ。」
「クロには数日に一回ぐらい会いにきてくれるんだが、特訓で疲れ果てているから早く帰ってしまう。俺だって男だ。頑張っている姿を(後ろから)応援している立場なのにもっと一緒にいたいなんてそんな女々しい強要はできん。せいぜいカンザキがゆっくり休めるよう安らぎの呪文を日がな練習して少しずつ魔法をかけてやることぐらいしかできないこの歯がゆさが理解できるか?あのハゲ魔人は毎日カンザキに会えているというのに、俺はこうやって」
「長い長い。簡潔にまとめて。」
「深刻なカンザキ不足により生きる気力が低下中だ。」
「……もう自分にかけなよやすらぎの呪文。」
「…………そうだな。」
無言で人差し指を一振りすると、ヴィルヘルムの身体がオレンジ色の光に包まれた。
ちゃんと習得してて面白いが、項垂れる姿を見て流石に可哀想になってきた。
この男は天才だが、恋愛に関してはウブな素人である。
そこで一つ、ある提案をしてみることにした。
「ねぇ、さっきターキーガールがクロに会いに行くって言ってたでしょ?」
「あぁ、俺もすぐに行くつもりだ。」
背筋を正して見えない尻尾をブンブン振るヴィルヘルムにニヤリと笑い、言葉を続ける。
「今日はあの子も元気な訳だし、クロの姿じゃなくヴィルのまま裏庭に行ったらどう?」
「な、なんだと…!?」
思いっきり立ち上がったヴィルは周りの視線を気にすることなく僕に詰め寄った。
「このままだとクロとの仲は深まっても、ヴィル自身との仲は変わらないと思うからさ。たまたま裏庭にいることを装って、お話しでもしてくるといいんじゃない?」
緊張したように唾を飲み込むヴィルヘルムに吹き出しそうになるが、なんとか堪えて返答を待つ。
すると彼はとんでもなく小さい声でぽつりと呟いた。
「洋服……何着て行けばいいんだ?」
「校内だから制服一択。」
それでも久方に浮き足立って歩き出すヴィルヘルムに、なんとなく微笑ましい気持ちになった。