熱くなれよ!ヴィルヘルムくん!
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チャイムと同時に席を立ち走り出す。
その様子にクラスメイトは慣れた様子で道を開けてくれる。
向かった先では燃え盛る炎に身を包んだ長身男性が仁王立ちして私を待ち構えていた。
「来たな!カンザキ!!」
「はいっ!」
両足を肩幅以上に開き、腰を据える。
そのまま勢いよく息を吸って叫んで、その繰り返し。
そんな私の姿を見て目を擦る人が多く見受けられますが、貴方の目は正常ですのでご安心ください。
「違うぞカンザキィイイイ!もっと腰を落とすんだァア!!気合を入れろォオオオオオ!!」
「はいぃいいいいい!!!」
そして私の横で(物理的に)燃えていらっしゃるのが、炎魔人のフレイム先生。
頭は赤く燃え上がっており、興奮するとすぐに噴火する。
身長は2メートルほどあり、担当科目は戦闘魔法演習である。
「カンザキィイイイ!!その程度では太陽ほどの炎を燃え上がらせることは出来ないぞ!?お前はもっとやれば出来るはずだァア!!頑張れ頑張れ!!もっと出来るやれば出来る!気合いだこの野郎ォオオオオオ!!ウォオオオオ!燃えてきたァア!!!」
「キャアア!火事よ!火を消して!!」
その台詞の勢いのまま服を脱いで上半身裸になり、さっきからずっと雄叫びをあげている。
周りの生徒や先生は消火しようと水魔法を繰り出すが、全て蒸発してしまう。
「甘い!甘いぞ君たち!!その程度では俺たちを止めることなど出来るはずがないィイイイ!!!ベストを尽くせェェエエエ!ファイア・カモーーーーーンヌ!!!」
「「「いやぁああ!!!」」」
頭から火炎放射器のように炎が吹き出し、辺り一帯を火の海にしてしまう。
へへ、軽く災害レベルでヤバい。
周りから凄まじい視線を浴びながら、何故こんなことになったのかぼんやりと振り返る。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
クロに助けてもらった後、私は不可抗力でサボってしまった授業の先生に謝りに行った。
自分の時間割を見てなんという偶然かと驚いたものである。
「そうか……裏庭で悪戯妖精ジャックジャックに悪戯をされてしまったのか。災難だったな。少女よ、怪我はしていないか?」
坊主頭に目がいってしまうが、この人こそ戦闘魔法演習のフレイム先生である。
一度スイッチが入ると手がつけられなくなる暴れん坊らしいが、入学してから一ヶ月特にそう言った様子は見られない。
(炎魔人とか言われるぐらいだから、もっとおっかない人かと思ってたけど。)
私個人としては、フレイム先生は優しい人という認識だった。
昔なにがあったのか知らないが、上級生達からは敬遠されてしまっている様子に少しばかり親近感を覚えていたほど。
「はい。大丈夫です。すみませんでした。」
だから、なのかもしれない。
「………先生、一つお願いがあるんですけど。」
「俺にお願い?」
「私に修行をつけてくださいませんかっ!?」
私はこの先生に炎魔法を習いたいと考えていた。
頭を勢いよく下げ、想いをぶつける。
「私ダメダメな劣等生ですが、守ってあげたい相棒が出来たんです!!それなのに悪戯魔法すら解くことが出来ないなんて……!悔しくて!!……無理なお願いなのは百も承知です。アドバイスだけでも!!」
数秒の沈黙。
静まり返った空気に冷や汗が額から流れ落ちた。
(やっぱり図々しいか……)
クラスを持ってもらっているとはいえ、全く親しくない生徒からそんなお願いをされても困ってしまうだろう。
それに戦闘魔法演習の第一人者であるフレイム先生はかなり忙しい。
そんな時間もないのかもしれない。
そう思い落ち込むと、両肩に凄まじい圧力がかかった。
しかもなんか熱い気がする。
(いや熱い!!絶対なんか燃えてる!)
思わず顔を見上げると、私の肩に手を置いた先生の坊主頭にメラメラと輝く炎が立ち昇っている様子が目に映った。
なにこれ、燃えてる。
「……感動したっ!!!」
「…はい?」
「少女よ!相棒と共に生きて行かんとする君の想い!決意!!そして自身がまだその境地に辿り着けていない歯痒さ!!悔しさ!痛いほど伝わってきたぞ!!」
「うおお!?熱い熱い!!燃えちゃいます先生!」
「あぁそうだ!!その燃え上がる気持ち!その気持ちこそ向上心というものだ!!」
「いやそうじゃなくて先生が燃えてるんですよ!?」
「こんな感覚は久しぶりだ!!少女よ!!君のような生徒を俺は待っていたのだ!!」
「先生!?人の話聞きましょう!?」
そしてそのまま着ていたポロシャツを脱ぎ、隆起した筋肉を見せつけながら私に親指を立てる。
「共に行こう!!あの太陽の向こうへ!ファイア・カモーーーーーンヌ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなこんなで授業前、昼休み、授業後の空いている時間に冒頭のような特訓を受け続けること数週間。
すっかり私はフレイム先生に毒された。
私の清楚なイメージ(異論は認める)を失った代償に体幹は鍛えられ、魔力量はたしかに上がった気がする。
気がするのだが。
「さぁ叫べカンザキィイイイ!己の望みを高らかにィイイイ!!」
「ファイア・カモーーーーーンヌ!!!」
一向に燃えない。
面白いくらい火種すらできない。
「なんでだ……。」
絶望感に打ちひしがれ、膝から崩れ落ちる。
若干炎の勢いを弱めたフレイム先生が私の背中に手を当て、励ましてくれる。
「何を言うんだカンザキ!数週間前と比べるととてつもなく進歩している!声の張りが全然違うぞ!!やれる!君ならやれる!!自分を信じるんだ!!」
「先生……!」
フレイム先生の熱気に当てられて思わず涙ぐむ。
暑苦しいけど悪い人ではない。
こんな私のために空き時間を使って指導(正確には応援)をしてくれているのだから。
感動してフレイム先生の手を握り力強く頷くと、突然鋭い視線を感じた。
(ま、また!?)
最近頻繁に感じる身の危険に思わず背筋を正し、辺りを見回す。
すると何かを察した先生が心配したのか赤子を高い高いするように私を持ち上げる。
「どうした!!疲れたのか!?確かに最近よく頑張っているからな…詰め込みすぎるのもよくない!!今日はゆっくり休むといい!!」
「…そうですね。相棒に癒されてきます!」
「いい案だカンザキ!今度俺にも紹介してくれ!!」
「もちろんです!」
途端に鋭い視線を感じなくなり解放されたと同時に地面から降ろされる。
今日の特訓は終わりだ。
最近あまり構ってあげられていないあの子に会いにいって、思いっきり撫でまわそう。
「じゃあ先生!また明日!」
「気をつけろよ!!いついかなるときも合言葉を忘れるなカンザキ!!」
拳を作って2人して天高くかざして叫ぶ。
「「ファイア・カモーーーーーンヌ!」」
周りから冷たい目で見られていた私は気づかなかった。
「馴れ馴れしく俺のカンザキに触れるとは命知らずな。あの炎魔人いつか氷漬けにしてやる。」
「とか言ってる割にシャッター音やばくてウケる。」
少し離れたところでそんな会話が繰り広げられていたとは。