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蔦なんて嫌いだよ!ヴィルヘルムくん!

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容易く悪戯魔法を解除してみせたクロを褒め称えながらも、ふと興味が湧いた。


「ねぇクロ、他にもなにかできたりする?」


その言葉を待ってましたと言わんばかりに、次々とクロは魔法を披露してくれた。


突風を巻き起こす暴風魔法。

一面を一瞬で凍らせる氷雪魔法。

晴れていた中庭に雷を落とす雷撃魔法。

そのどれもが私にはできない魔法ばかり。


おいおい本気か。

クロに歩み寄り、思いっきり頭を撫で繰り回す。


「キミってやつは最強じゃないかーー!!!」


「ワンッ!」


私の雄叫びに合わせて嬉しそうに遠吠えをするクロだが、本当に凄い。

冗談抜きで私の相棒強すぎる。

この子は絶対魔犬の中でもエリートだ。


そんな想いを込めて全力で褒めたたえていると、クロは上機嫌で扉に向かってひと吠えする。

するとなんと先ほどと同じ蔦が扉を覆い隠してしまったではないか。


「えぇ!?凄い!同じこともできるのかお前さんは!!」


「ワウッ!」


しかしクロは悪戯魔法を解こうとはせず、期待するような眼差しをこちらに向けてくる。

その表情はなんとも可愛らしいが、とてつもなく嫌な予感が拭えない。


「ねぇクロ?」


「クゥン?」


「あの魔法、どうして解除しないの?」


「ワンワンッ!」


クロは不思議そうにしながらも前脚を扉の方に持ち上げて吠える。

私は特別犬語に対して耐性があるとかそういうわけではない。

だがこれは、間違いなく。


(お、同じことやれって言ってる。)


お前なら出来る。なんたって相棒だからな。


そんなとてつもない信頼を向けられ嬉しいような、悲しいような。

だがここで可愛いクロの想いを踏みにじるわけにはいかない。


そうさ。

私だって、やれば出来る子なはずである。


覚悟を決めた私は先ほどのクロと同じように、思いっきり叫んだ。


「ガ、ガウァアアアアア!!」


無駄にでかい私の声が、虚しく裏庭に木霊する。

数十秒にも満たない沈黙が、無情にも私を苦しめた。


「ワ、ワウ?」


そして後ろから聞こえる戸惑ったようなクロの鳴き声。

ああ…クロ、出来なくてごめんね。

なんだか非常に情けなくなり、私は無言で涙を流した。


「キャイン!?ワンワンッ!!」


「なんでなんだよチクショー…」


膝をついて項垂れる私の周りを、クロは焦ったように飛び跳ねながら吠えまくる。

そしてふと視界に入ったのであろう…私を落ち込ませた原因の蔦に向かって低く唸り、凄まじい勢いで噛みちぎった。

親の仇ともいうぐらいに全力で引きちぎった残骸を私の元に持ってきて、何かを訴えかけるように吠えた。


「ワンワンッ!ワン!」


もう扉に蔦はないから安心してって伝えたいのかな?

でもねクロ、それでは意味がないんだよ。


クロの優しさに答えられなかった自分が不甲斐なくて再度無言で涙を垂れ流しにしていると、クロが困ったように右往左往し始める。

これ以上この子を困らせても何にもならない。


「私決めたよ…」


「クゥン?」


心配そうに私を見つめるクロを見つめ返す。そしてある決意を固めた私は泥だらけの手で顔をぬぐい、ゆっくりと立ち上がる。


「絶対炎魔法使えるようになってやる…。」


「ガウ?」


「待っててねクロ……私は必ず!この憎らしい蔦を!いとも容易く燃やせるぐらいになってみせる!」


「……ワン!」


私を励ますようにひと鳴きしたクロは、ふらふらとよろける私を支えるのように身体を寄せる。

流石私の相棒。好き。

理解ある相棒を思いっきり撫で回したあと、自分の頬を叩いて気合いを入れる。


「よしクロ!私もう行くね!」


「………ワウ?」


「特訓するつもりだからあんまり来れなくなっちゃうかもしれないけど、数日に一回ぐらいは会いにくるから!また今度ね!」


ピシリと石のように固まったクロを思いっきり抱きしめたあと、私は裏庭の扉を思いっきり開けて外に飛び出す。

その瞬間に今日の授業全てが終了したことを告げるチャイムが鳴り響いた。


(まずはさっきサボっちゃった先生のところに行って謝って…そのあとは炎魔人のフレイム先生にコツを教わりに行って…)


目標が決まればやることはたくさん生まれてくる。

天使で天才なあの子にふさわしい相棒となるために、頑張ろう。


泥だらけの顔のまま、他人の目を気にせず意気揚々と廊下を歩き続けた。






















人の気配がしなくなった裏庭の真ん中で瞑想するように瞳を閉じている魔犬が1匹。


「あーいたいた。もう朝から愛しのターキーガールにベッタリだったんだって?学校中大騒ぎだよ。」


そう言ってその魔犬の横に腰掛ける白い少年は、そんな魔犬にとっての唯一の友。


「それでどうだった?」


だが質問に答えるわけでもなく、魔犬はただひたすらに先ほどの会話を思い返していた。





「数日に一回ぐらいは会いにくるから!」





「数日に一度……だと…?」


「は?」


犬の肉球から人間の掌へと戻って行く自身の両手を凝視しながらヴィルヘルムは戦慄する。


「ちょっとヴィル?大丈夫?」


数日に一度しか、(クロ)に会いに来ない。

数日に一度しか、(クロ)を撫でてくれない。


そんなこと…そんなこと……


「そんなこと認められるものかぁあ!!」


「っビックリした!」


「俺を撫でながらうっとりした表情を見るのが生きがいになっているのに、数日に一度しか味わえなくなるだと?なぜ俺まで会うのを我慢しなければならなくなる!意味が分からん!!そんなの糞食らえだ!!」


精神的ショックによりあたり周辺を凍らせ、雷を落とし、裏庭を暴風区域に変えたヴィルヘルムは大げさに頭を抱える。


「え?ちょっと落ち着きなよ。なに?どうしたの?」


「これが落ち着いていられるか!」


吐き捨てるように言ったあと、ヴィルヘルムは既に残骸となっている蔦を全力で焼却しにかかる。


「おのれこの雑草如きが!カンザキを泣かせるのみならず、俺から遠ざけようとするとは……!!命知らずなヤツめ!!」


「ねぇ、全体的になに言ってるの?」


「はっ、まさかそれで天才魔法使いであるこの俺…ヴィルヘルム・サリマンに勝ったつもりか?太陽に向かって伸びることしか能のない植物のくせに図が高いな!!」


チリチリとただ燃えているだけなのに、それすらも煽られているように感じたヴィルヘルムはさらに雷撃魔法を叩き込む。


「うわぁ本気じゃん…引くわぁ。」


「俺は決めたぞシオン。」


裏庭の天井を睨みつけ、両手を広げながら高らかに宣言する。


「カンザキがこの単純極まりない悪戯魔法を一瞬で蹴散らせるほどになるよう全力でサポートし、数日に一度しか会わないというふざけた言葉を撤回させてやる!!あと蔦は俺が全て燃やす!!」


「へぇーいいじゃん。ウケる。あ、でも明日の一限は魔法生物学だから出た方がいいんじゃない?」


「…………。」


友からの言葉にしばらくフリーズしたヴィルヘルムは、その後小さく頷いた。


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