長い道のりだよ!ヴィルヘルムくん!
いつもありがとうございます!
またブックマーク登録、評価いただきありがとうございます^_^
今後もゆっくりと更新していきますので、よろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!
『沈黙』とは。
物音ひとつしない静かな様子、または行動せずにじっとしていることを示す言葉である。
(そう、例えば。)
私がクラスの教室のドアを開ければ一瞬にして静まりかえるこの状態も『沈黙』と言っていいだろう。
ですよねー。
私がそっち側でもフリーズするわー。
ひとつ言っておくとするならば、私が何かをやらかしたわけではない。
私のことは道端に落ちている石ころだと思ってくれて構わない。
いい意味でも悪い意味でも目立たない、そんな生徒である。
よって私のクラスメイト全員が目を見開いて固まっている理由は、私のすぐ真横を陣取る彼のせいだ。
「どうしたカンザキ、入らないのか?……まさかその小さい身体ではこの扉を支えることも出来ないのか?仕方ない、ならば俺が支えてやろう。さぁ入れ。」
「アリガトウゴザイマス…。」
若干の嫌味とともにすらりと長い手で扉をやけに得意げに扉を押さえる…いや、押さえてくれている彼になんとかお礼を言って教室に入る。
信じられないものを見るような目で見つめながら、一歩後ろに下がっていってしまうクラスメイトの異様な光景に頭が痛くなる。
私は珍獣ですか?
耐えかねて足早に適当な席に座ると、後ろからついて来た彼も当たり前のように私の横に座った。
ねぇ?この人クラス違うよね?
なんでこんなにくつろいでるの?
「あ、あのー……」
気まずさから声をかけると、待ってましたとばかりに紫の瞳をイキイキと輝かせてソワソワしている姿に思わず身を引く。
「なんだ。」
「いやその、確かに処罰なら後日受けるとはお伝えしたんですが…もう勘弁してもらえませんか…?」
「?なんの話だ?」
「えぇ…?」
意味が分からないという風に首を傾げる彼に私も首を傾げる。
「あの…つかぬ事をお伺いしますが…」
「カンザキ、俺と貴様は同級生だ。そこまで固くなる必要はない。気を楽にしろ。」
「「キャアアア!ヴィルヘルム様優しいぃいいいいい!!」」
彼の言葉に女の子達は頬を赤らめてバッタバタと倒れていく。
ではその優しいヴィルヘルム様に甘えて今のこの状態を確認しようと口を開こうとすると、チャイムが鳴ると同時に先生が姿を現した。
ぐるぐる眼鏡がチャームポイント、魔法歴史担当のユースタス先生である。
「よーし授業を始めます……ってどぅええええええ!?ヴィルヘルム・サリマン!?なぜ君がこの教室に!?」
「今お前が現れたせいでカンザキが発した言葉が聞き取れなかった。また口を縫い付けて欲しいのか?」
仕方がないというようにため息を吐いたヴィルヘルムくんに反発するように先生は大声で叫ぶ。
「いや先生悪くないよね!?どちらかといえば、全く関係ない君がここにいるのが問題だよね!?しかもなにこの教室、女子生徒ほとんど全滅してるじゃん!生徒の数少なっ!」
「カンザキ、コイツは後で俺が割っておくから気にするな。」
「割っておくってなにを!?……あ、眼鏡!?」
意外とノリノリに突っ込んでくるユースタス先生に少し気持ちが楽になった私は、静かに右手を上げてヴィルヘルムくんを見つめる。
「どうした?」
ソワソワと身体を動かしながら先を促してくるヴィルヘルムくんに心臓が出そうなほど緊張しながら、思った以上に小さくなった声で呟く。
「サリマンくん…私、魔法歴史の授業…受けたいからその…」
魔法歴史の授業は今日一番の目玉と言っても過言ではない。
言外に静かにしてほしいことを含めて見つめると、数秒固まって何かを思いついたように大きく頷くヴィルヘルムくん。
「そうか、そうだな。確かに。俺も受ける必要がある。」
「え、なんで?彼女は分かるけど、何度でも言うけど君クラス違うよね?」
「それとサリマンだと発音しにくいだろう?ど、どうしてもと言うのならヴィルヘルムと読んでくれても構わないぞ。」
「ねぇ待って?今の関係ないよね?それと逆にヴィルヘルムの方が言いにくいと思うのは先生だけ?」
「黙れダサ眼鏡。割るぞ。」
永遠に始まらなそうな雰囲気に痺れを切らした私は、先ほどより大きな声でヴィルヘルムくんに注意した。
「お、お願い。もうここでもいいからとにかく静かに座ってて……ヴィルヘルムくん。」
私の言葉を聞いて目を見開いたヴィルヘルムくんは、小さい声で返事をして結構素直に前を向いた。
心臓が出そうなほどドキドキして死にそうだったが、ヴィルヘルムくん呼びをするだけで授業が始まるなら安いものである。
「よし。ユースタス先生、お願いします。」
ノートを開いて先生に目線を向けると、先生は動揺したように私とヴィルヘルムくんを見比べて呟いた。
「なにこれ?」
私にも分かりません。
とりあえずチョークを手に取った先生は、粛々と授業を開始した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(本当に大人しかった。)
あの後何事もなく授業が終わったことに感動する。
ユースタス先生もチラチラと気味が悪そうにヴィルヘルムくんを見ていたが、真面目に話を聞いていた。
(意外に真面目なのかもしれない。)
チラリと横を見ると、考え込むようにして手を組んでいる。
その横顔はやはり美しいというかなんというか。
いつのまにか復活した女子達はため息を吐きながら、瞬きを一切せずにヴィルヘルムくんを見つめている。
やばいよ、目玉カッサカサだよアレ。
そんな視線をビシビシと感じても気づいていないのか深く考え込んでいるヴィルヘルムくんに、一応は頭を軽く下げて席を立つ。
昼ごはんを買うために歩きながら、先ほどの授業内容を思い返す。
「この学園の長であるカプラ・ウィッチ様が偉大だと謳われる理由は、大悪魔コーラリアを封印したその功績にある。」
見えているか見えていないのかよく分からないぐるぐる眼鏡を一度上にあげたユースタス先生は、先ほどとは打って変わって真面目な雰囲気で続ける。
「大悪魔コーラリアは知っての通り、植物や生き物を凶暴化させてしまう凶悪な呪いを振り撒いて多大な死傷者を出した大厄災そのもの。カプラ様が封印をされて数百年経つが、大悪魔コーラリアが使役していたいくつかの魔法生物は未だに凶暴で」
「はい!先生!!」
「っびっくりした!急になに!?」
「大悪魔コーラリアが使役していた魔法生物って具体的になんですか?」
思わず身を乗り出して質問をするとかなり引いたように動揺していた先生だが、咳払いをして言葉を続ける。
「有名どころといえば黒龍だけど…あとは魔豹、魔犬とか」
「やっぱり!!」
「だから何が!?」
(魔犬を『使役』していた前例がまさかの大悪魔コーラリアだけとは………。)
相棒にするなら相手のことをよく理解しなくてはと思い、昨日の夜に魔犬について詳しく調べ始めてから嫌な予感はしていた。
(念のための確認を合わせて、今日の歴史学を受講したんだけど…)
やはりアダム先生が言っていた通り、生半可な覚悟であの子の相棒を名乗れない。
ここまで魔犬に対する印象がよろしくないと、以前いたかもしれないあの子の相棒も相当苦労をしていたのだろう。
「おーいお嬢さん?」
拳を握り決意を固めていると気づけば購買エリアまでたどり着いていた。
「店長。」
「まだその設定続いてるんだね。」
人の良さそうな顔で苦笑するおじさんに曖昧に笑って誤魔化す。
「お昼かい?なに食べる?」
パンやサンドウィッチが並ぶなか、やはり目につくのはアレなわけで。
軽くため息を吐いて静かに指差した。
「スモークターキーで。」
「流石ターキーガール。」