プロローグだよ!ヴィルヘルムくん!
短編から来てくださった方も、初めて覗きに来てくださった方も楽しんでいただけるよう更新して行きたいと思います。
さぁ!行ってみようか!ヴィルヘルムくん!
Q.ヴィルヘルム・サリマンという方をご存知ですか?
「ええ!ええ!もちろんですわ!
麗しきヴィルヘルム・サリマン様!!
溢れんばかりの色気を含む紫色の瞳と黒艶な髪!
187センチから繰り出す見下すかのような蔑みの眼差し!ああん!なにもかもが素晴らしいですわ!
もし魔法業界で知らない人間がいたら逆にお会いしたいですわね!あの尊きお顔を想像するだけでもう!もう……!
…………あ、鼻血ですわ。
ねぇそこの貴方、ティッシュ取ってくださる?」
Q.ヴィルヘルム・サリマンとはどんな人物ですか?
「とんでもねぇ奴としか言えねぇな!
自分に酔ってやがる究極の気分屋!
他の人間がどうなろうと知らぬ存ぜぬだ!
興味本位で俺のことナメクジに変えて塩ふっかけようとしたんだぜ!?
どうなるかなんて誰でも知ってんのによ、アイツはあのいけすかねぇ声でなんて言ったと思う?
……ああ、ただのナメクジじゃなく猿とナメクジが混ざった生命体に塩をかけたらどうなるか調べてみたかったんだ。協力、感謝するよナメクジ猿。
……だとよ!!とんでもねぇサイコパスだ!
しかもその後俺のこと忘れて1週間ナメクジの変幻魔法を解かなかったんだぞ!……なんだよその顔。おいお前なめてんのk」
Q.ヴィルヘルム・サリマンの魔法使いとしての実力は?
「1000年に1度の逸材という言葉に嘘偽りはないな。誰から見ても彼の魔法使いとしての実力は本物じゃよ。
若さ故の未熟さはあるものの、実際魔法学園に在学中にも生徒でありながら魔物討伐に協力しておった。
数年前のあの大厄災襲来の際も彼の力で抑え込めたようなものじゃ。
まぁ、それでもワシの若い頃に比べたらまだまだじゃがの!
ふぉっふぉっふぉ!ゴッホゴッホうぇ死ぬ!」
Q.ヴィルヘルム・サリマンには弱点はないのですか?
「アイツの弱点?知ってどうするの?
あはは!嘘嘘冗談!
そうだねぇ……彼は確かに魔法使いとして優秀で、どんなに危機的状況に陥っても冷静に対処できる頭の切れる自慢の友人だよ。
だけどね…その最強でも勝てない存在がいるんだよなーこれが!
くくくっ!最強をダメにする最弱、とでもいうべきかな。
よく言うじゃん?天才と馬鹿は紙一重だって。
あー、意味が分からないという顔だね!
…まぁどうしても気になるならこの後彼に会った時に、彼の相棒についての話題を振ってみなよ。
きっと面白いものが見れるよ。
あ、でも僕は責任は持たないからね?」
「どういうことか分かる?」
「え?なにが?」
「いや、最後の。ヴィルヘルム・サリマン唯一の友人と言われているシオンさんのお話のやつ。」
長い廊下を歩きながら兄に話しかける。
数年前この世界を脅かした大厄災を撃退した功績が認められ、栄誉賞を授与することになったヴィルヘルム・サリマンの特集を組むことになった若き青年は首を傾げる。
「あー最強をダメにする最弱だっけか?意味わかんねぇよな。」
「その最弱と彼の相棒の話がどう繋がるのかね。」
「もしかして最強の魔法使いであるヴィルヘルム・サリマンの相棒が、最弱の魔法使いってことなのか!?」
兄が閃いたかのように手を叩いて発言した内容に互いに顔を見合わせる。
思考時間は数秒、だがそれで十分だった。
「ないな。」
「ないない。」
話を聞く限り、彼は人を見下す傾向にある。
それなのに弱い人間を自分の側に、相棒として認めるのだろうか。
答えは否、会ったことはないがこれは確実だろう。
「まぁこれから本人に会えば分かるか。」
「そうだな。気をつけろよ?天才であると同時にかなりの変人らしいからな。」
互いに注意事項を確認していると、黒服を着た渋めの執事が自分たちの方に寄ってきて深く一礼する。
「お待たせいたしました。ヴィルヘルム坊っちゃまは大変お忙しゅうございますので、取材時間は30分となります。予めご了承くださいませ。」
ギギギッと鈍い音を立ててゆっくりと開く大扉。
そこに長い脚を組んで読書をしている、なんとも美形な男がいた。
男である自分たちでさえため息を吐いてしまうほどなのだから、女性なら確かに想像しただけで鼻血が出てしまうのは仕方ないのだろう。
「入るなら早く入れ。」
「し、失礼します。」
声も心地いいテノール。
紅茶を飲みページをめくる姿はさながら映画のワンシーンである。
「申し遅れました、私たちは…」
「名乗る必要はない。猿の名前を言われても見分けなどつかないからな。さっさと始めろ。」
これは……想像以上だ。
イラっとさせられたが相手は天才。
何を言っても常識など通用しないのだろう。
そう思い取材に必要な質問をいくつかするものの、彼は一度もこちらを見ることはなく一言、二言答えて本のページをめくってしまう。
(感じ悪っ。)
そんな時、ふと頭に浮かんだあの言葉。
時計を見ると残りは5分程度。もう他に聞かなければならないこともないし、物は試しで聞いて見るか。
そんな軽い気持ちで、彼はあの話題を切り出した。
「最後となりますが、もしよろしければヴィルヘルムさんの相棒のお話を」
「俺の、相棒の話?」
バタンと思いっきり本を閉じ、初めて自分たちの顔をマジマジと見たヴィルヘルム。
紫色の瞳はらんらんと輝き、目に見えて機嫌が良くなった。
(な、なんだ?)
「え、ええ。ご友人のシオンさんから話を聞きまして…」
「そうかそうか。シオンからかそうか。俺の、可愛い相棒の話を聞きたいとはな。なかなか見る目がある。」
座ったまま椅子を引きずり、自分たちの足と彼の足がくっつくほどの距離に移動してくる。
思わず後ろに背中を反ると、追うように彼は前のめりになって語り出した。
「名はナギサと言って遠く東の国からやってきた俺の天使。今ではすっかり流暢に話せるようになったが出会った当初はこの世界の共通語をたどたどしく話していて可愛らしいかった。いやもちろん今も俺が頬に手を触れると照れて身をよじる姿なんて卒倒するほどの威力だぞ。現代風でいうなら半端ないというやつだ。」
「は…え?」
怒涛に話し出した彼についていけない。
だが兄は経験からかすぐに我に返り、ペンとメモを構えて質問した。
「そ、そのナギサさんという方はぐぇええ!!」
「おいおい冗談だろう?……なに馴れ馴れしくナギサの名前を呼んでるんだ猿ごときが。ああちょうど良かった、この間完成させた即死魔法の効果を試したかったんだ。こんなところでいいモルモットが手に入るとは………神に感謝することにしよう。」
目が座って兄の顔の前で異様な魔法陣を作る天才に戦慄する。
なにこの人怖スギィ!!
そしてまた自分は、兄を救おうとするあまりこんな質問をしてしまったのである。
「そ、そんな天使の相棒様といつ!どこで出会われたんですか!?」
「…………お前、名は?」
「ヒッ!プロ・ローグです…。」
「そうか猿よ、お前はなかなか見所がありそうだ。」
名前を聞いた意味まるでなしっ!
そんな自分のツッコミなど届くことはなく、スマートに前髪を掻き上げた後蕩けるような笑顔を向けて言葉を続けた。
「そんなに聞きたいなら教えてやろう。彼女、ナギサと俺の話をな。時間はたっぷりある。」
「い、いやそれがあと5分なんでって…あれ?」
時計を見ればなぜか秒針が止まっている。
なんだ?一体どうなっている?
その疑問に答えるように天才はにこやかに笑った。
「ああ心配するな。たっぷり聞きたいだろうと思って時間を止めさせてもらった。さぁ、まずはどこから話そうか。」
どんな魔法の使い方だよ。
これから長く始まるヴィルヘルム・サリマンの話しを聞くべく、気絶して失禁している兄からメモとペンを奪って構えた。
これは天才魔法使いヴィルヘルムくんとその相棒の、不思議な不思議なお話である。