冬木と柊 8
甘口なハニーブラウンの髪は細くてさらさら。ナチュラルショートの前髪が無造作にこぼれた顔は小さくてまるい。つり目で一重。鼻は低いけど真っ直ぐで、口は可もなく不可もなく。
全体像は美人とはいえないし、可愛いかと聞かれても困るくらい微妙。
何故って、表情が薄いから。無愛想とか無表情っていうのとは違う。どっちかといえば表情はコロコロ変わる人。でも、淡白。とにかく薄味。
味付けが、塩1gのスープと醤油1gのスープと砂糖1gのスープを交代で出されたら、何これ、やる気あるの?って思うけど、まさにそんな感じ。
現物を見た時はほんっと唖然とした…何これ。なんか、バカにされてない?被害妄想?
とにかく、第一印象はそんな感じ。
……でも、遠くから見た姿より存在感があった。
言葉を使わず、意味深に笑う時なんか、つり目の眦がくっきりして本物の猫みたいになる。その顔だけは印象深い。私にはいい印象じゃなかったけど、油断させておいて切り込むような魅力がある……私にとっては、あくまで変な人でしかないけど。
彼女の名前は、冬木雪。
柊先輩と同い年ですごく親しい、彼のトモダチ。―――こんな含みをもった考え方してる自分が、嫌。
私は、嫉妬しているんだ。それはもう気づいてる。
だって、知りもしない相手の所へ押しかけた。……ホント、恋人でもないのによくそこまでと、今は思う。
あの時は完全に理性が外れてた。彼女を無視したままでいられなかった。嘘で相手も自分も騙しそうになった。嫉妬心が引き出す強さも醜さも、一気に知ってしまった。
でも、それは冷静になったら大体消化できた。叫びたくなるほどの羞恥心つきだけど。
本当に意味不明なのは、あの人は、なんで私にもう一度機会を与えるんだろうってこと。
冬木雪――何を考えてるのか分からない、猫みたいな人。
「すごーい!めぐちゃんは美玖の気持ちがわかっちゃうんだー!エスパーだねっ」
底抜けに明るい美玖の声で、意識が今に向き直る。
「なんでよ。エスパーじゃなくてもわかるでしょ、全然すごくないし」
「そんなことないよっ!エスパーじゃなくたってめぐちゃんはすごいもん」
「なっ…なんなの急に…恥ずかしいなぁ」
臆面もない賛辞がむずがゆくて、睨むような顔になってしまった。
その顔も美玖のにっこり満面の笑みで瞬殺されたけど。
「だって、加賀くんいってたよ。『川名が美玖翻訳係してなかったら確実におまえとは付き合わなかった』って!わたしの恋のキューピッドだからねっ、めぐちゃん!」
…………………マジデスカ。
早朝の空気も消化不良も吹きとんだ。
午前一杯、私の頭が「加賀君、好き勝手思ってゴメンなさい」一色になったのはいうまでもない。
どこかで猫が、愉快愉快とニャアニャアないている気がした。