第7話 「元魔王、かつての部下を説得する」
冒険者として潜伏し、魔王軍復興の機会を伺おうとしていたダークエルフのカルディアが、初っ端から人間の商人に貴重な装備一式を買い叩かれていたことに腹を立てる、ヴァイスハイトはそんな彼女をなだめ魔王軍再興の難しさを説きつつ、今後どうしようかと思案していたところに、レベッカが買い出しから戻ってきた……
「ただいまー、って……おまえは! 四魔将のダークエルフ!」
とレベッカは腰に提げている〈魔人殺しの剣〉の効果が付与された聖なる包丁に手をかける
ヴァイスハイトは慌てて
「待て待て待て! レベッカ! 彼女はまだ何もしていない、少し落ち着いてくれ!」
と制止させようとするが
「ヴァイスハイト! あんたは黙ってて! こいつに私の仲間が……」
「殺されたのか?」
「いや、退けはしたが、戦いで重傷を負った……あの時、一騎打ちの前に話しただろ?」
レベッカにそう言われてあの時のことを思い出す……確か、そーいえば眷族は撃退したけど、こっちも仲間達が戦線を離脱しなきゃならないほどダメージを受けたさ、とか言っていたな、あー…言われてみれば『死んだ』とは一言も言っていないな……
そんなことを考えていたら、カルディアがレベッカに弓矢を構えていた
「主がおまえをレベッカといったが一体何者だ? 見たところ此処の酒場の女将のようだが、それに話を聞いたが、何故、我が主と一騎打ちをしたのだ? ……まさか!?」
流石にカルディアも気づいたか……
「……ああ、そうさ、私はかつて連合軍を指揮していた、勇者レベッカ・ローゼンブルグさ、もっとも今は引退して冒険者酒場の女将だけどね、でもアンタに後れを取るほど腕は落ちちゃいないつもりだよ?」
そう言ってレベッカはニヤリと笑う、一方カルディアは明らかに動揺していた
「そ、そんな……伝説の勇者が、で、では我が主がここに居るのは……」
カルディアは弓矢を構えたままだが、明らかに戦意を喪失していた、まあ無理もない……勇者の仲間にすら勝てなかった者が、勇者に勝つことなど不可能だからな……さてと
「カルディア、もうわかっただろう? その弓矢を降ろせ、今のお前ではレベッカには絶対に勝つことは出来ぬ、無駄に血を流すな…すまないがレベッカも私の顔に免じてその物騒なものをしまってくれ、部下の非礼は詫びよう、この通りだ」
そう言って俺はレベッカに頭を下げる
「承知しました……レベッカ殿、仲間の事は申し訳なかった」
ヴァイスハイトの説得に応じるようにカルディアも弓矢を降ろして、レベッカに跪いて謝意を表した
それを見てレベッカはため息を吐く
「はあ、ったく……しょうがないねえ、そうだね、ヴァイスハイトの言う通り仲間が死んだわけでは無いし、それにあの時は戦争中だったからねえ、是非も無し……か、分かったよ、アンタのことは許してあげる」
そう言ってカルディアの手を取る
「じゃあ、仲直りの印に一杯驕るよ、ところで此処に来た用事は何なんだい? まあ、あの貼り紙の噂でも訊いたんだろうけどね」
と言って【魔王、あります】と書かれた張り紙に目をやる
「あ、そ、その、我が主ヴァイスハイト様を迎えて、魔王軍の再興を目指そうと思って来たのですが、我が主はその気はなかったようで、今日のところは宿に帰るように促されたのですが……」
といって俯くカルディア、それを聞いてレベッカは
「はあ……また大層なことを考えるねえ、でもヴァイスハイトに宿に帰るように言われたのに何で帰らないのさ? あー、長旅で疲れたとかかい? じゃあうちに泊まってきなよ! 他所なんかよりサービスするからさ!」
と笑いながら言うレベッカ
「おい、レベッカ、上機嫌なところ悪いんだが、こいつは文無しだぞ」
とヴァイスハイトが言うと
「そうなの?」
とレベッカはカルディアに尋ね、カルディアは無言で頷く
「うーん……そうかぁ、どうしようかねぇ……」
と頭を軽く掻きながら考えるレベッカ、しばしの沈黙の後
「よし! カルディア! 他に行くところが無いんなら、うちで住み込みで働きな!」
と言うレベッカ、その言葉にカルディアは驚いた表情をするが
「そ、そんな上手い話に誰が乗るものか! お前もあの時の商人のように私を騙そうとしているのだろう!?」
と疑いの目で見るカルディア、まあ、無理もないが
「……アンタ、この子に一体何があったの?」
と聞くレベッカにヴァイスハイトが
「昔、人間の悪徳商人に自分の装備を相場以下の安値で買いたたかれた」
と簡単に説明するとレベッカは納得し、しばし考え込む
「あー、そう言う事ね、んーと……それじゃあ……」
と言うと、懐から一枚の紙を取り出し、テーブルに用紙を置くと、ベルトポーチから携帯用のペンとインク、そして携帯型の計算機を取り出してサラサラと何かを書き始めた、度々ペンが止まりパチパチと計算機の玉をはじく音がすると再びペンを走らせる……その様子にカルディアは怪訝な表情を浮かべて様子を伺っていたが、しばらくして
「……よし、出来た!」
とレベッカは叫ぶと用紙をカルディアの前に差し出した
「ん? レベッカ殿、これは一体?」
用紙を見つめるカルディアにレベッカは説明する
「こいつかい? これは『雇用契約書』だよ、ここに雇用の条件と待遇を書いておいた、契約が成立したら魔力が付与された特製の用紙だから、あたしとアンタ双方の同意が無ければ破棄できないようになっている、じっくり読んで納得したならここにサインしておくれ」
カルディアはテーブルに置かれた用紙をながめ、席に座ると隅々まで契約書に目を通した
半刻ほど過ぎたころ、契約書を読み終わったカルディアは、傍らに置いてあったレベッカの携帯用の筆記具を借りて契約書に名前をサインすると用紙をレベッカに差し出して
「……レベッカ殿、貴女の器の大きさに感服いたしました、これから、よろしくお願いします!」
そう言って深くお辞儀をするカルディア
「ようこそ竜の遠吠え亭へ! こっちこそよろしくね!」
と言い契約書を受け取り、カルディアの手を取るレベッカ
こうして『竜の遠吠え亭』に新しい従業員が一人増えたのだった
レベッカがカルディアに提示した雇用条件【一部抜粋】
一つ、 給仕としての一日の日当は銀貨十五枚(日本円にして約1万5千円)
一つ、 住み込みの住居使用料は無料で提供するが食事の提供は朝、昼のみ、但し夜食を提供する場合もある
一つ、 従業員用の制服は着替え用も含めて初年度は二着貸与する、その後は必要であれば一着につき銀貨二枚で購入することが出来る
一つ、 副業として冒険者ギルドの依頼を受けることは可能、但し必ずレベッカかヴァイスハイトにその旨を伝えておくこと、冒険に必要な武器・防具の手入れ代は雇用側がカルディアに仮払いとして先に支払うものとする、仮払いで支払った金は清算、余った場合は雇用主に返すこと、但し依頼の報酬は全てカルディアに支払うものとする
一つ、 給金は日給で計算するが、支払いは毎月末に一括でカルディアに支払うものとする(1週間7日のうち就業日数は6日、ひと月は4週24日で計算なので大体ひと月に金貨36枚……日本円で約36万円支給されることになる、但し総支給額からそれぞれ住民税2%として月々銀貨7枚と銅貨2枚、所得税5%として金貨1枚と銀貨8枚…合計金貨1枚と銀貨15枚と銅貨2枚……日本円にして毎月合計約2万5千2百円が天引きされる為差額の33万4千8百円が支給される)




