第6話 「元魔王、かつての部下に説教をする」
「我が主よ、魔王軍再興の為、ともに参りましょう」
元魔王軍四魔将の一人、ダークエルフのカルディアはそう言うとヴァイスハイトに向かって跪く
だが、ヴァイスハイトは気付いていた、彼女の装備が妙なことに
「ふむ……カルディアよ、お前、ここに来るまでに何をしていた? 気のせいだと思うが、城にいた時より装備が貧相なのは何故なんだ?」
その言葉にギクッと反応するカルディア
「い……いえ! これは、あ、あの時の装備のままでは、連合軍の奴らに容易に見つかってしまいますので、ですからその、偽装の為にワザとこの姿で旅をしておりましたので……」
と言ってローブを脱ぎ褐色の肌が露になる、……ローブの下には革鎧を着こんでいたようだが随分とくたびれて所々継ぎ接ぎで補修したような箇所も見える
どう見ても貧乏冒険者にしか見えないカルディアの姿を見てヴァイスハイトは考え込む
確かに、冒険者たちに紛れて行動するならば問題は無い、だがそれでも、今カルディアが装備している武具の多くは店で購入する品の中では価値の低い物ばかり……しかも、大分くたびれている、カルディア本来の強さを考えれば、どう考えても釣り合わないのだ
「ふむ、まあカルディアの好意は有難く受け取っておこう、だが返答はすぐには出来ぬ、今日のところは宿に帰り、日を改めてまた来てくれぬか? 」
ヴァイスハイトのこの言葉に一切裏などは無い、最初から断るつもりではあるが、一応レベッカが帰ってきたら相談しないといけない為、あえて即答を控えたのだが、カルディアが望んでいた答えでは無かったようだ
「どうしても、すぐには戻ってもらえないのですか?」
なおも食い下がるカルディア
「残念だが、直ぐには戻れない……私はここを動く訳にはいかないのだよ、それにさっきも言ったが、お前の好意自体は有難いと思っている、俺はこの酒場に常にいるから何か困ったことが有ればいつでも云って来るがよい」
それからしばらく、新たな居城についてなどの話がありつつも
「戻ってほしい」「即答できん」と押し問答が続き
「何故です? ここには主にとって動くことの出来ない何が有るのですか?」
「それは、すまぬ、今は……っと、そう言えば何故そこまでして直ぐに俺を居城へ連れて行こうとしているんだ? 別に今日明日どうこうという話でもないだろう?」
「あ、それは…その…何といいますか…まあ、色々事情がありまして…」
何故かカルディアは動揺している、というか凄い汗をかいている気がするが、俺、そんなに変なこと言ったか?
「カルディア、どうした? ああ、もしかしてこの街に着くなり真っ直ぐこの店に来たのか? 長旅で疲れているなら、俺が一杯奢ってやるから、一息ついたら宿に戻って――」
「……ないんです」
ぼそりとカルディアが呟いた
「ん? 今なんて?」
思わず聞き返すヴァイスハイト
「……だから! もう路銀が底をついていて、宿代も無いんです‼」
そう言ってカルディアが涙目で訴えてきた
一瞬の静寂の後、その静寂はヴァイスハイトの驚愕の声で破られた
「ええええ!? いやいやいや! そんなことないだろ! お前……じゃああの装備は? 城に居た時のミスリル銀の鎧は? 服だって絹を用いた上等なやつだったろ? なんで、やたら露出の高い服の上に、くたびれた革鎧なんだ? 偽装だというのは理解出来なくは無いが路銀が底をつく程の事では無いだろ、一体何故なんだ」
つい腹の中にしまっておこうと思ったことを聞いてしまうヴァイスハイト
「そ……それがその、旅の支度金にと、商人に売ってしまいました……」と、申し訳なさそうに報告するカルディア、すかさずヴァイスハイトが
「え、売ったって……あの戦いの後にか? …それで、幾らで売ったんだ?」
と聞くと
「……全部まとめて、金貨三百五十枚で」
と、申し訳なさそうに答えるカルディア
「なっ……た、たったの……金貨三百五十枚!?」
思わず頭を抱えるヴァイスハイト
因みにこの世界の貨幣は金貨、銀貨、銅貨そして商取引用の大金貨、いわゆる通商金貨が流通しており、その価値は
大金貨(通商金貨)一枚=金貨百枚=銀貨千枚=銅貨十万枚という感じで銅貨1枚は日本の貨幣で言うと百円くらいである、安い宿なら一拍で銀貨二枚から、普通の宿で一拍で銀貨六枚から、上等な宿だと一気に跳ね上がり一拍金貨五枚掛かる、ちなみに安宿の場合は食事代は別である
「阿呆か!! あの装備は全部売ったら金貨十万枚以上するんだぞ! 思いっきり買いたたかれているじゃあないか!」
「え? ええええええ!? ……だ、騙された……」
と、うなだれるカルディア
「しかし、それでも文無しの理由にはならん、冒険者の報酬だって食う分には困らないはずだが……一体何があった?」
ヴァイスハイトはカルディアに問いただすと
「その、まともな冒険者ギルドの酒場では正体を見破られると思い、人気の少ない冒険者酒場での依頼を請け負っていたのですが……依頼をこなせばこなすほど保存食やら回復薬などの消耗品や路銀で出費がかさみ、装備も……武器の手入れの代金を稼ぐのが精一杯でしたので」
と言いながら徐々に視線を逸らすカルディア
「それでも安宿と飯代ぐらいは確保できるだろ」
ヴァイスハイトはさらに追及してみると
「依頼を達成して冒険者酒場に報告すると、そこの店主が『必要経費だ』といって先に宿代と食事代を差し引いて残った金を渡してもらうのですが、何故か大体依頼書に書いてあった報酬の十分の一ぐらいになってしまって……段々装備の手入れすらままならなくなった頃に、ある日依頼から帰ってくると店主から『依頼主から苦情が来たから、手間賃として報酬は無しだ』と言われてタダ働きの上に宿も追い出されてしまって……この街に来る途中でスリに遭ってしまい路銀も底をついてしまって……」
余程過酷な旅だったのか、どんどん表情が暗くなるカルディア
「おまえ……それは『ピンハネ』といって不当なものだ、苦情だって本当にあったかどうかも怪しいな、大方ギルドに目を付けられそうになったから厄介払いの為に言ったんだろ……にしても、確かに其れじゃあ路銀もままならなかっただろう」
カルディアの話にヴァイスハイトは思わずため息を吐く
そうか、そうだった――今までは人間共から奪うのが当たり前で、対価を払う、などという事をしなかったからこの世界の貨幣価値についてはかなり疎いんだった……俺も以前はレベッカに怒られていたな……と、思ってふとカルディアを見ると、怒りに肩を震わせていた
「くっ…おのれええ! 人間風情が、舐めた真似を! あの腐れ商人め! あの強欲スケベ店主め! ついでに財布をスった盗人め‼」
今更ながら狡猾な人間達からの仕打ちに激昂するカルディア、その様子にヴァイスハイトは慌てて
「待て! 落ち着けカルディア! ならば何故ろくな資金も無しに魔王軍の復興などと言ったのだ!」
とカルディアを制止しつつ、至極もっともなことを問いただすと、カルディアは我に返り
「そ、それは! ――魔王様が戻られれば、配下の者もおのずと集まります、当然必要な物資も献上できますので、そもそも復興すれば人間どもに紛れることも無いので、また適当な街で略奪をすれば……」
「以前と同じことをして何になる! 我らは一度、それで失敗しているのだぞ?」
と諭すヴァイスハイト、いかん……以前もそうだったが、こいつは全く先が見えていない、このままでは
「なんとかしなければ」
そう思っていた矢先
「ただいまー」
レベッカが買い出しから帰ってきた
あ、ヤバイ……俺、死ぬかも……
捕捉としてこの世界の設定を……
貨幣価値について
金貨一枚は銀貨十枚と、銀貨一枚は銅貨十枚と同じ価値である
現在の貨幣単位で言えば銅貨一枚で百円ぐらい
この世界の安宿は基本的に十人程度で一部屋の大部屋である、簡易的な間仕切りがあるところもあるが
プライバシーなど皆無である。
以前は各国で多少の価値の差異はあったが、基本的に金貨、銀貨、銅貨の三種が使用されていた
魔王軍との戦いにおいて連合を組む過程で補給や物流、報奨金などの各国間の齟齬を無くすという事で、基軸通貨と価値の統一が図られて制度化され、現在に至る、とはいえ未だに各国の通貨というものも存在する為、便宜上「王国通貨」と「共通通貨」の二種類が存在し通商金貨もそれぞれに存在する、「共通通貨」の造幣に関しては貨幣そのものの質を向上・安定させるため造幣所が中央大陸の大国にのみ存在し「王国通貨」の造幣は一切禁止されている(発覚した時は厳罰に処され最悪の場合は王国そのものを取り潰される、抵抗する場合は軍事力にて鎮圧・占領される、その場合は複数の王国で代官を交代で赴任させ、その後隣国のの領土として割譲される、隣国が複数の場合は協議の後に代表1国に任期付きで権利を委譲、一定期間ごとに支配権が持ち回りとなる)、各王国の通貨と交換という形で「共通通貨」への全土統一が図られている、因みにメイ・アンガー王国は辺境の小国ではあるが「人魔大戦」においての多大な貢献や勇者の生まれ故郷という事もあり、例外的に造幣所が設置されている、その為この国の貨幣は「共通通貨」が殆どである(国境付近の村ではまだ王国通貨が残っているので完全に移行は出来ていない)
貨幣以外にも商取引の為に手形債券、小切手なども存在しその価値は国家間の印と専用の魔法が施され、偽造が不可能な状態で発行されている。




