第3話 「魔王VS元魔王+元勇者」
この世界「ファンタジア」の魔族は、その強さによって下は最下級から頂点である神話級まで全て階級別に分けられ、上から3番目の階級である「中級魔族」から「魔王」を名乗ることが出来るのだが、ヴァイスハイトはその魔族の頂点である「神話級魔族」のトップであり、現在の所……彼を凌ぐ魔族は現れていない
冒険者パーティー「独立愚連隊のシグマ」の新米冒険者であるルークは、仲間が呼び出してしまった異世界の魔王に対処する為「竜の遠吠え亭」の女将であるレベッカを頼る
だが酒場のマスターであるヴァイスハイトはルークに飲み物の注文を要求した
ルークは渋々注文しヴァイスハイトが奥に引っ込んだその時……
魔王が入り口のドアを破壊して追ってきた、不用意に召喚したことを後悔させるために
「ククク…こんなところに隠れていたか……不用意にこの私を呼び出したことを後悔してもらおう……」
貫禄たっぷりに笑う、自称・魔王は念動力で中央の丸テーブルを次々と弾き飛ばして前進する
「あ! ちょっとアンタ、店の物を随分と派手に壊してくれたねえ……お代は高くつくよ?」
元勇者で今は女将のレベッカは、そう言って異世界の魔王に注意する
「…ん? なんだ貴様は? 見たところ、この店の者のようだが……あいにく私はあの少年に用が有るのだ、邪魔立てするならタダではすまんぞ? 雑魚は雑魚らしく、おとなしくしてもらおうか」
「はあ? なに? こいつ……魔王の癖に目の前の相手の力量も見分けられないの? 情けないねえ~」
レベッカはそう言うとやれやれ、と言ったポーズをとる
「なっ!!! クッ……き、貴様あぁ……ただの人間が、調子にのりおってぇ!」
レベッカにとっては素直にそう思って発言しただけなのだが、それが異世界の魔王を激昂させた
魔王がドス黒い波動を解き放ち、傍にあったテーブルや椅子が吹き飛ぶ
(あーあ……店の備品をあんなに壊して、知らんぞ、俺は……)
背後の気配を感じて厨房にいるヴァイスハイトは軽くため息をつく
「なあ、アンタ―! こいつを少し痛めつけて良いかい?」
レベッカは厨房にいるヴァイスハイトに声を掛ける
「ああ、構わんよ……ただし、少しだけだぞ」
そういってヴァイスハイトは意味深な返答をした
「……貴様ら! 何をゴチャゴチャと! ……いいだろう、望み通り貴様を八つ裂きにし――」
異世界の魔王が最後まで言い切ることはなかった
「―五月蠅い」異世界の魔王の言葉を遮って、レベッカは腰に提げていたモノで斬りつける
一瞬で異世界の魔王の目の前に来たかと思ったら次の瞬間レベッカはもとの位置に戻っていた、だが
「は!? ―ぎゃああああああ‼ う…腕が! 私の腕がああああああ!?」
異世界の魔王は突然片腕を包丁で切り裂かれて絶叫する
「え? ただの包丁が……魔王の腕を切り裂いた!?」
ルークが困惑するのも無理はない、彼女が持っている包丁はヴァイスハイトさえも恐れる《魔人殺しの剣》の効果が付与されたものだ
そこに先ほど奥に引っ込んでいたヴァイスハイトが飲み物が入ったコップをルークの前に置く
「注文の果実ジュース、ここに置いておくぞ……さてとレベッカ、こぞ…ルーク君の安全を確保しておいてくれ」
小僧と言いかけてレベッカに睨まれ訂正すると、そう言ってカウンターを出るヴァイスハイトだが、ルークは困惑する
「え? マスターはなにを?」
「……注文をした以上、お前は大事なお客さんだ、ちょっと客に手を出す馬鹿を叩きのめしてくる」
「え? ちょっと! 危険ですよ! 僕は元勇者であるレベッカさんに助けてもらおうとしたんです!」
ルークは止めようとするが、ヴァイスハイトはフッと笑い
「心配無用だ、……あの程度の雑魚、ひねり潰すなど造作もない」
「……へ?」
困惑するルークをよそに、ヴァイスハイトは異世界の魔王に向かって歩いてゆく
突然、片腕を切り飛ばされた自称・魔王は怒りに身を震わせて更に凄まじい炎のような黒いオーラを発していた
「よくも…よくも貴様らやってくれたな…こうなれば、この建物もろとも貴様らを吹き飛ばしてくれるわ‼」
その言葉に、ヴァイスハイトはさも平然と
「ん? それは困るな、たかが〈異世界の中級魔族〉程度にやられたとあっては、この店の面子が立たぬのでな」と、右手のひらを異世界の自称・魔王に向け呪文を呟く
「…極大魔法、《マキシマム・スタン・プリズン》‼ 」
瞬間、異世界の魔王の身体が青白く光ったかと思うと体が硬直し始めた
「何!? か…身体が…貴様! 一体何を―うぐっ」
ヴァイスハイトは目の前の異世界の魔王の首元を片手で掴むと、ギリギリと締め上げた
「う…やめっ…苦し…」
みるみる身体が持ち上がり異世界の魔王は必死に足をばたつかせるが、ヴァイスハイトは手を緩めない
「……この世界に来た記念に教えてやる、我が名はヴァイスハイト、魔族の頂点にしてこの世界の魔王だ、覚えておくがいい…ま、二度と此方には来れぬがな…極大魔法、《パーフェクション・アルティメット・ゲート》!」
ヴァイスハイトが呪文を唱えると、異世界の魔王の背後に次元の裂け目が現れた
「さあ! お帰りは此方だ‼」そう言って、掴んでいた異世界の魔王を裂け目に向かって放り投げた
「馬鹿な! 何故!? なぜ酒場の主があああああぁぁぁぁ…‼」
異世界の魔王の声が遠ざかり、そして消え裂け目も閉じていた
レベッカはヴァイスハイトの肩をポンと叩き
「お疲れさん、さてと、いつものように壊された物を魔法で戻してくれるかい? 」
「ああ、その程度、造作もない…さて、ルーク君、お代の代わりにと言っては何だが……私の事は黙っていて貰えないか?」
突然の出来事に、しばらく呆然としていたルークだったが
ヴァイスハイトに声を掛けられ我に返ると
「あ…はい、わかりました、でもあの魔王の事はどうするんですか?」
「うむ、そうだな……さっきの魔王とやらは、レベッカが倒したという事にしておいてくれ」
「はい、でもいいんですか? かつての魔王は一応、倒されたことになってますから、酒場の店主が異世界の魔王を倒したって事にすれば…」ルークはヴァイスハイトにそう提案するが
「別にいいさ、ただの酒場の主の方が、今の俺には性に合っている、それに…」
「それに?」
「騒々しいのは嫌いなんだよ」
「……絶対、違うと思います」ルークは断言した




