第2話 「噂の少年」
レベッカが新米冒険者の名を口にする前に、噂の少年が店に飛び込んできた、よほど急いでいたのか、黒髪の少年は息を切らせ肩を揺らせていたが、一度深呼吸をして息を整えるとレベッカ達に助けを求めてきた……
「あ…あの! いきなり来てこんなことを言うのもなんですけど…助けてくれませんか?」
レベッカは頭をかきながら
「……本当にいきなりだねえ、まあ落ち着きなって、あたしはレベッカ…こう見えても以前は勇者だったんだよ? で、あんたは?」
問われた少年は落ち着いたのか、素直に答える。
「あ、初めまして、僕の名はルークと言います、シグマというパーティーに入れてもらって、少し前に依頼を終えて帰ってきたところなんです」
それを聞いてレベッカは嗚呼! と思い出した
「あの〈独立愚連隊のシグマ〉のとこのルークかい? 噂で最近若い奴が加入したって聞いてたけど、あんたのことだったんだ……」名前は聞いていたが、姿を見て驚いた、革鎧にショートソードを腰に提げて、見た目は冒険者の姿だが、やはり幼さの残る顔立ちが目を引く、見るからに初心者冒険者と言ったところか
「ど…独立愚連隊……」
決して良い言われ方ではないその二つ名に、ルークは一瞬顔が引きつるが、ブンブンと顔を振り、気を取り直すと
「…あ、はいそうなんです、で、急で申し訳ないんですけど、力を貸してもらえませんか?」
と言って、本題に戻す
「そういや、さっきも助けてくれって言ってたけど、一体何があったんだい?」
そういって、レベッカはカウンターの席へ案内する
レベッカに促され席に着くなり、ルークと名乗る新米冒険者は事の次第を話し始めた
「はい、僕たちは平原で依頼を終えて、その打ち上げにこの近くの酒場で飲んでいたんですけど、その、…古参メンバーのエミーさんが、お祝いにって召喚魔法を使ったんです……」
それを聞いてレベッカが呆れる
「召喚……はあ、またあの子の《ランダムテレポート・サモンゲート》の魔法が原因か…あのパーティーが何かやらかしたときは、決まってあの子が原因だねえ…で? 今度は何を出したのさ」
ルークも少しため息をつくと
「それが、その……よく解んないんですけど、魔王を呼び出してしまったみたいで…今は勇者のボルグさんと戦士のマルクさんが足止めを…」とその時、ルークの言葉を遮るように、入り口から外の声が聞こえた
「―おい! みんな逃げろ! 足止めしていた勇者と戦士が吹っ飛ばされたぞー‼」
そして外からは悲鳴と足音が聞こえてきた
「おやおや…まあ、雇われ勇者なんてそんなもんだよねぇ……」
そう言ってチラリとカウンター側に目をやる
「で? どうするのさ、アンタ」とヴァイスハイトに問いかけるレベッカ
問われたヴァイスハイトはルークに
「ふむ……おい、小僧……ルークと言ったな」
そう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべる
「あ、はい! 助けてくれるんですか?」とルークは期待する、だがヴァイスハイトは真面目な顔で
「……注文は、何にする?」
「……えっ?」予想外の言葉に思わず聞き返すルーク
ルークは彼が何を言っているのかよく解らなかった、混乱しているルークをよそにヴァイスハイトは続ける
「冒険者酒場だからな、基本的に酒がメインだが一応、酒以外の飲み物も有るぞ、で、何にする?」
これには、ルークも声を荒げる
「な、何をのんきなことを言っているんですか! 魔王はすぐそこまで来ているんですよ!? それなのに悠長に注文なんて」
「ご注文を」
「――っ!」
もはやルークにはこの酒場の店主が何を考えているのか解らなかった、そして諦めたように
「……分かりましたよ、えーと…葡萄ジュースを一杯下さい!」
そう投げやりに答えた
「そうか、解った、すぐに持ってくるから少し待っていろ」
そう言ってヴァイスハイトが奥に引っ込んだその瞬間、―爆発音とともに店の入り口が破壊された、外からの土煙で入り口だったものが覆われ、そこから禍々しい姿が現れた
「ククク……こんなところに隠れていたか、不用意にこの私を呼び出したことを後悔させてやる……」
そしてルークが言っていた異世界の魔王が現れた




