第24話 「それぞれの旅立ち」
「ではまた会おう、次ぎは通信機を介してだがね」
そう言ってライアスは出立前にレベッカと話した後、自宅へと帰っていった、何でも、まだ雑務が残っているとの事でそれを急ぎ片付けてから、王都メイ・アンガーを出発するとの事だった
一方、朝から自宅で二日酔いに苦しんでいたブラッド・パイソンはいまだに動けないらしい、デイ・クロニクルの社員がわざわざレベッカの所に尋ねてきて現状を報告してくれた
アンドウはというと、先日の宴の席を早々に切り上げ、宿へと帰っていった、昼頃にまたやって来るらしい……
そして店内の掃除を済ませたカルディア、仕込みを済ませたヴァイスハイトと共に朝の営業を始めた
穏やかに始まった朝の「竜の遠吠え亭」だったが、昼が近づくにつれて客の数も増え、店内は賑やかになっていく
「すみません、あの……初心者向けの簡単な依頼って……ありませんか?」
そう言ってきたのは、いかにも初心者冒険者と言った感じの若者だった、レベッカはすぐに若者に向かって案内を行う、冒険者の登録自体は冒険者ギルドが行うが、冒険者へ発注する依頼の大半は冒険者酒場が請け負っている為、ギルドの残業軽減の一因にもなっている。
「はいはい、ここに来たのは初めてかい? そんなに緊張しなくても大丈夫、新人さん向けの依頼書はこちらの掲示板だよ、君ぐらいのランクだと……うん、この辺りの3枚ある依頼書から好きなのを選ぶと良いよ、もしまた聴きたいことが有ったらいつでも私に訊きなよ」
「はい! ありがとうございます!」
「あ~……女将さん、俺の注文した料理はまだ?」
「はいよ、ご注文の肉炒めとパンのセットだよ!」
「おお、これこれ! 絶妙な焼き加減の肉に、外はさっくりとして内側はふんわりのパン、相変わらず旨そうな匂いだ!」
「女将さん! この間受けた魔物討伐依頼、ちょっと苦戦したけどキッチリこなしてきたよ!」
「お、凄いじゃないか、アンタたちも随分たくましくなったねえ、じゃあ早速報酬を用意してくるからそこで待ってな」
「へへへっ、女将さんに褒められるとやっぱり嬉しいね」
レベッカは新人の冒険者にアドバイスをしながらも店内の給仕も行い、さらに冒険者が持ってきた依頼書の手続きや依頼を達成した冒険者たちの報酬支払の手続きを矢継ぎ早にこなしていく
「はーい、ご注文の2種類の果実ブレンドドリンクでーす!」
「わあ! 綺麗な色~! 初めてこの街にやって来たけど、いいお店に出会えてよかった~! 給仕のお姉さんも綺麗だし~」
「ね~、来てよかったね!」
2人の若い女性冒険者はそう言って珍しさから飲み物に感動し、スタイル抜群のカルディアを褒める
「え~そうですか~? お客様にそう言ってもらえると嬉しいです~」
すっかり仕事を覚えたカルディアは担当である給仕の業務をテキパキとこなし、愛嬌たっぷりの笑顔と会話で店内の空気を明るくしている
そして厨房では……
「出来たゾ」スッ
「はいよ」 サッ
「出来たゾ」スッ
「はいよ」 サッ
「出来たゾ」スッ
「はいよ」 サッ
……以降繰り返し
「……解せぬ」
ぼそりと呟くヴァイスハイトにレベッカが
「何か言った?」
と聞くが
「いや……別に」
とヴァイスハイトは返した、そんな様子にレベッカは
「ふーん? まあ、いいけど……あ、この注文もお願いね」
「ああ、わかった」
ヴァイスハイトも注文された料理を凄まじいスピードで次々と仕上げてカルディアに渡していく
そうこうするうちに、アンドウがやって来た。
「こんにちは、相変わらず忙しそうですねえ……あ、葡萄ジュースひとつもらえますか?」
アンドウはカウンター席に座り注文をする、ヴァイスハイトは手早くグラスに注ぐとアンドウの前に出す、アンドウはそれを一口飲んで、喉の渇きを潤した後……フウッっと息を吐きこう言った
「これは……依頼というよりお願いなんですが、私が修行で不在の間に、ルーク君の剣技を鍛えてやってもらえませんか?」
その言葉にヴァイスハイトはピクリと眉を動かす
「ルーク君はそれを望んでいるのか?」
その言葉にアンドウは
「ええ、まあ……今のところルーク君が剣を使う必要は無いんですけど」
とそこにレベッカがやって来た
「まあ、シグマには敵とみると勝手に前線に突っ込む【脳筋】が二人もいるからねえ」
レベッカはシグマのメインアタッカーである二人の事を指摘すると
「本当は、一応勇者であるボルグさんには全体の指揮をして貰いたいんですがねえ、戦うにしても、もう少し全体のバランスを考えてほしいものですが」
そう言ってアンドウはため息を吐く、それを見てレベッカが苦笑する
「アイツが全体を観て戦う? う~ん……難しいだろうねえ……まあ、だからこそ、ルーク君の指揮能力が存分に発揮できるんだけどねえ」
レベッカの言葉にヴァイスハイトも
「確かに、以前のシグマに比べると依頼の達成回数も増えているし、何よりボルグ達が戦闘不能で神殿に担ぎ込まれたっていう話もここ最近じゃ少なくなったしなあ……完全に無くなった訳ではないが」
と同意したが
「ひょっとしてアンドウがしばらくパーティーを抜けることでルーク君の意見を皆が聴かなくなるかも、と危惧しているのか?」
とアンドウに疑問を投げかけると
「いえ……流石にそれは無いでしょう、彼の的確な指揮のおかげで何度も危機を乗り越えているのは事実ですし、その事は皆充分理解しているはずです……私も、彼には随分と助けられていますから」
そう言ってアンドウはキッパリと否定した
そうなってくると問題は、やはりルーク本人の意見だが……頭の良い彼の事だ、いよいよとなればコッチに駆け込んでくることは想像に難くない。
「まあ、そのうちにこっちで愚痴の一つでも言ってくるかもしれんな」
ヴァイスハイトの意見にレベッカも
「ああ、悩みを話してきたのなら、その時は答えてやるさ」
と言って快活に笑う
「そんなに深刻に考えなくて良いよ、ルーク君については此方で何とかしてあげるよ、だから安心して修行に行ってきな」
レベッカのその言葉にアンドウも
「そうですか、それだけが気がかりだったのでひと安心しました、改めてルーク君とシグマをお願いします」
アンドウはそう言ってグラスにはいった残りのジュースを飲み干すと、代金を支払い席を立つ
「では……私は旅支度がありますので、これで失礼させていただきます」
「相変わらず固いねえ……まあいいさ……あ、そうだ、忘れる前にこれを渡しておくよ、こいつはアタシからの餞別だよ」
そう言って幾つかの回復アイテムや魔法の巻物が数本入った袋を渡す、そしてメイ・アンガーの出口には護衛の冒険者が待機していることを告げた
「こんなに沢山……ありがとうございます、では行ってきます」
「ああ、行ってきな、修行の成果を期待しているからね?」
店を出るアンドウをレベッカは見送る、この次に直接会うのはしばらく後になりそうだ
カルディアも給仕の傍らアンドウを見送ったようだ
「あのヒトは、人間の中ではかなり良い人に見えるんですよね……何故なのかはわかりませんが、妙に気になるんですよね~」
カルディアがレベッカにそう話していた時、カウンターの奥からヴァイスハイトはカルディアの様子を窺っていたが、すぐにレベッカからそれを聞いてヴァイスハイトは顎をしゃくりながら
「ほう、あのカルディアがね……実に興味深いな」
と、ぼそりと呟いた
ライアスとアンドウが王都メイ・アンガーを旅立った翌日の朝、場所は変わってデイ・クロニクル新聞社に近い一軒の家、ブラッドの自宅にて
「……う~ん……! ハッ! し、しまった……寝過した……」
二日酔いで寝込んでいたブラッドがようやく目を覚ました




