第23話 「アンドウの修行先」
「よし! それじゃあアンドウには、ここに行ってもらおうか、あとこれも渡しておくよ」
とサラサラとメモを書き、そして一通の手紙と共に路銀の入った革袋、そして先ほどの小型通信機をアンドウに渡した
アンドウはそれらを受け取ると
「これは道中の路銀ですか……随分入ってますね、しかしこの手紙とメモは一体?」
アンドウの問いにレベッカは
「あんたも、この国を出てアタシの知り合いの所へ行って修業をしてきな、その間シグマの連中の面倒は、あたしが引き受けるから」
そう言ってレベッカはアンドウに微笑んだ
修行の旅と聞いてアンドウは眉をピクリと動かす
「今までの話の流れではライアス殿とブラッド殿のお二方は調査の為に諸外国を回られるという事でしたが、私は違うのですか?」
その言葉にレベッカは少し困った顔をする
「うーん……確かに、アンドウの気配を察知する能力や、自らの気配を隠す能力……それに洞察力の高さは評価できるんだけど、いかんせん打たれ弱いのと、アンドウ自身の打撃力の低さは何とかしないとねえ……ボルグから聞いたけど過去に何回かモンスター討伐の依頼で戦闘不能になって神殿の蘇生術の世話になっているんだろう?」
レベッカの問いに
「あー……その事ですか、まあ、確かに……その通りですねえ、元の世界では戦闘や冒険とは無縁の生活でしたので、こちらに来たのもエミーさんの召喚術で偶然呼ばれたようなものですし、その上他の異世界転移者の方達とは違い神様から特別な能力を貰った訳ではありませんから、良くも悪くも人並みなんですよ」
そういってアンドウは申し訳なさそうに答える
アンドウは異世界転移者ではあったが、それはエミーの魔法【ランダム・サモンゲート】による召喚のせいであり、他の転移者達と違い【神からのギフト】を受け取っていない為、戦闘においては他の初級冒険者と同等かそれ以下の戦闘力しかないのである。
その為、シグマの中では主に情報収集や有力者との折衝、野外では姿を隠しての偵察活動など、非戦闘行為に終始していたのである、もちろん初歩的な戦闘術や基礎訓練などは行っていたが、それはあくまでも、”この世界で生き抜く最低限の力を得る為”であるので、前回のような事件で街中や野外で戦闘となると明らかに不利なのである
「まあ、それでもゴブリン程度なら一撃で倒すぐらいには、鍛えているんですがね……ルーク君の初仕事の時みたいにドラゴンなどが出てこられるとチョット、いや、大分厳しいですが」
そういってアンドウは頬を人差し指で軽く掻いて苦笑する
「まあ、ドラゴンを倒すほど鍛えろとは言わないさ、第一あんまり無茶をさせると鍛え上がる前に体が壊れちまう、だから近接戦闘はそこまで鍛えなくて良いんだ、これから修行に向かって貰う所は投てき武器の名人だからね、アンドウの素早さや何時も使っている手裏剣みたいなカードで攻撃しているアンドウの戦闘スタイルにはうってつけさ」
そう言って笑うレベッカに
「なるほど、それでこの手紙の宛名にあるサイカという御方の滞在先に向かえば良いのですね?」
と、アンドウが行先の人物の名を発言した所でブラッドが驚く
「な、サイカだと!? 確かアイツは海を越えた東部大陸の故郷に帰ったはずだろう? 行きの道中だけでひと月近くはかかるぞ? そんな所にアンドウひとりだけに向かわせるのか?」
と、ブラッドが抗議するとレベッカは
「ブラッド……うちらが指揮官としてに立つまでの間に【人魔大戦】で前線を支えていた【七英雄】の1人を呼び捨ては止めな、で、その事だけどサイカは今、隣国の国境付近にある山奥の村に滞在しているんだ、何でもその地方でしか採取できない薬草があるとかで、現地で調合まで済ませたいからって、わざわざ本人がやって来たんだよ……部下に任せりゃいいのにねえ」
傍で聞いていたヴァイスハイトは『そういうお前も呼び捨てにしているがそれはどうなんだ? 』とツッコミを入れたかったが後が怖いので黙っていた、その代わりにブラッドが
「レベッカ、お前も呼び捨てにしているが、それは良いのかよ?」
と言ったがレベッカはさも当然のように
「私は良いんだよ、以前【人魔大戦】の最中に軍議の席で呼び捨ては不味いかな、と思って直そうとしたけど、向こうから『無理して呼び方を直さなくても良い、聞いていてこっちがむず痒くなる』って言われたから」
と返してレベッカは微笑むとブラッドは
「チッ、良いよなお前は……以前、俺が目の前で呼び捨てにしたらシジョウ殿に物凄い怖い顔で睨まれたんだぞ、なんなんだよこの差は」
という愚痴にレベッカは「人徳の差」だと答えると
ブラッドは
「そんなものかね」と言いながらも納得する
レベッカのサイカ氏滞在の件を聞いてライアスも驚く
「え、という事はシジョウ様もこちらに来られているのですか? あいにくそんな報せは師匠であるアスター様からは聞いておりませんが……」
そのライアスの言葉に
「ああ、今回はシジョウは来てないってさ、連絡役に部下を何人か連れて来てはいるみたいだけどね、アスター卿の使いが手紙を渡すためにウチの所に来てたんだよ、そういやライアスは『剣聖アスター卿』の弟子だったね」
とレベッカが言うと怪訝そうな顔で
「……何故他人事みたいに言うのですか? レベッカ、アスター様は貴女の剣術の師匠でもあるでしょう? つまり貴女は私の姉弟子なのですよ? 全く……はあ」
思わず溜息が漏れるライアスと「あー、そうだったねえ」という顔をするレベッカ、それを見て呆れるヴァイスハイト
さて、では簡単にアスター達【七英雄】について簡単に説明しよう
ライアスとレベッカの剣の師匠であるアスターはかつて「人魔大戦」でレベッカ達が合流し連合軍総指揮官として立つまでの間、剣聖アスターの仲間である魔導師カイエラ・忍者サイカ・侍シジョウ・弓使いニーマン・聖騎士ベルゴル・司祭レグトン達と共に連合軍を指揮していた、その傍らアスターたちも自ら「強襲部隊」を率いて戦い最前線で戦う時もあれば敵の陣地に深く切り込み局地戦においてはいくつか勝利を上げていた、しかし魔王軍との圧倒的な戦力差は如何ともしがたく、また当時は「元々勇者でも貴族でもない者に全軍を指揮されている」という不満は少なからず有り、その為連合軍側の作戦においては度々連携が難航、また自国の安全と地位の保身を盾に戦力の提供を拒否した挙句、魔王軍に寝返る国もあり戦局は悪化、じりじりと戦線が後退する中、彼等は反攻戦力の結集と戦略の構築を行い、レベッカ達が立った後も各国の要人を纏め連合軍の運営を円滑に行うなど、数々の功績を残したことで人々から【七英雄】と称えられていたのだ、戦後はアスター達7人はそれぞれの故郷の国へと帰り、【七英雄】を迎え入れた各国は彼らを重く用いた、アスターはメイ・アンガー王国にて戦後に国王陛下から爵位と領地を賜り、軍務と軍政を司る「軍務大臣」へ就任、弟子のライアスも衛兵団長へ就任して現在に至る
「な、なるほど……レベッカさんとライアス殿はそういう関係でしたか……では、私は隣国の村へ向かうのですね? ところでサイカ氏という方はどういった人物なのでしょうか」
アンドウの言葉に
「ああ、たしか……サイカはニンジャという特殊な職業さ」
とレベッカが答えると
「おお! ニンジャですか、この世界でも忍者がいるとは驚きです!」
とアンドウは目を輝かせる
レベッカはその様子を見て
「……何を想像しているのか知らないけれど、あんまり期待しない方が良いよ? まあ、それは良いとして出発は明後日だから、その間に仲間と挨拶ぐらいはしておきな? 修行先のサイカが認めない限り、こっちには当分戻っては来れないからねえ」
「分かりました、必ず修行を終わらせて戻ってきますよ」
レベッカの発言に覚悟を決めたアンドウ
その言葉にヴァイスハイトは
「うむ、良い返事だ、ではそれぞれの使命の遂行と無事を祈って乾杯と行こう!」
その言葉にブラッド達は頷き、盃を交わした
「アンドウの新たな門出に、乾杯!」
こうしてブラッド・パイソン主催の宴会は続いたが、それぞれに抱えた仕事を持つ者やルークのような若者達は頃合いを観てそれぞれ帰宅し、自然とお開きという形になった、ブラッドも自宅に帰っていったが飲み過ぎていたようで
「アイツは相当飲んでいたから二日酔いで今頃くたばっているだろうね」
と、同じように飲んでいたはずのレベッカは何事も無く朝から元気に働き、出立前の挨拶に「竜の遠吠え亭」を訪ねてきたライアスにブラッドの二日酔いを語ったという




