第22話 「戻った日常、そして宴会」
王都メイ・アンガーで発生していた「連続婦女暴行事件」その陰で、ひそかに行われていた身元不明者の連続誘拐拉致事件は黒幕であるザーバルと拉致の実行犯である傭兵達はヴァイスハイト達の活躍によって撃退された、そしてザーバルの駒になって事件の捜査を撹乱していたモーニング・サン・クロニクル新聞社の壊滅と当初の目的である「連続婦女暴行事件」の犯人、釣り目の男やその仲間達の逮捕によって、この一連の事件は一応の解決となった、ヴァイスハイト達がテレポートの魔法で戻る少し前の事、ヴァイスハイトとレベッカがアンドウ達と合流し、これから帰るところである。
「やれやれ、これで一応決着か……レベッカ、ヴァイスハイト、カルディアちゃん、アンドウにボルグ達も手伝ってくれてありがとうな、お陰で助かったよ」
「なーに言ってんだよ、困ったときはお互い様だろ? それに今回の事件で黒幕も解ったしねぇ」
レベッカはブラッドの言葉にそう返すと
「ああ、まさかザーバルが絡んでいたとはな、しかしまあ当分はこの街にちょっかいを掛けることもあるまい」
そう言ってヴァイスハイトもレベッカに同意する
「まさか連続婦女暴行事件を隠れ蓑にして身寄りのない人達を攫って実験道具に使うとは想像しませんでしたからね、そのザーバルという魔導士はかなり危険ですねえ、被害がこの街だけとは限らないわけですし、今後の動向は注意したいですねえ」
と言うアンドウの言葉に、カルディアも頷く
「アンドウさんの言う通りザーバルの動きは気になります……ヴァイスハイト様、念のためコチラも動向を調査した方がよろしいのでは?」
今回、犯人のターゲットにされていたカルディアは自身の心配よりもザーバルの動向を気にしていた為、ヴァイスハイトに進言するが
「確かに奴の動きは気になる、だが慎重に行うべきだな、私が直接動くと流石に影響が大きいからな、下手をすると周辺の王国を刺激しかねない、ザーバルを追うはずが逆にこちらが追われるリスクもある」
と、自ら動くことには否定的だったが
「なら、依頼をすればいいじゃないか、丁度その道のプロも此処に居るんだしねぇ、そうだろ? ブラッド?」
レベッカはそう言ってブラッドの方を見る
「依頼なら受けるさ、まあそれなりに報酬は頂くがね」
と言ってニヤリと笑うブラッド
「なるほど、じゃあザーバルの調査は『竜の遠吠え亭』からの依頼という事で良いか?」
ヴァイスハイトの言葉にレベッカも同意し
「それじゃあ依頼書をつくらなきゃね、あ……そう言えば、身代わりのドッペルゲンガーを回収しないと、流石にアレをそのまんまにしとくのは不味いからねえ」
と、レベッカは身代わりとして置いてきたドッペルゲンガーの事を思い出し、ヴァイスハイトに回収を促すとヴァイスハイトも同意する
「確かにそうだな、とりあえず今後の事は帰ってから行うとしよう……とはいえ、流石にこの距離を歩くのは面倒だな、とりあえずさっきも言ったがテレポート……【拠点転送】の魔法を使うから集まってくれ」
そう言うとヴァイスハイトは魔法陣を地面に展開させる、そしてヴァイスハイト達は無事、竜の遠吠え亭に帰還することが出来た。
「竜の遠吠え亭」に戻ったヴァイスハイト達は、店に置いてきていたレベッカ達に変身させていたドッペルゲンガーを元に戻して回収、夜通しの捜査による疲れも有ったのか、その日は一旦各々の部屋に戻り休んでいった。
翌日早朝、ボルグとアンドウはブラッドの依頼を達成したという事と、元凶であるザーバルの件で協力してくれた事を考慮して報酬を上乗せする書類を作成し、レベッカの立ち合いのもとに報酬の受け渡しが行われた、そして新たにザーバルの動向を調査する依頼書を作成し、ブラッドと契約するとブラッドは一旦、デイ・クロニクル新聞社に戻ると言って帰り、ボルグ達も今回の依頼の事で「シグマ」の他のメンバーに説明するという事で、彼らが拠点にしている酒場へと戻っていった……
そして、レベッカとヴァイスハイト、カルディアは事前に済ませていた仕込みで準備を整えると、いつも通り「竜の遠吠え亭」を開店させた、店内はいつもの喧騒に包まれる
「おーい、こっちにエール一つと肉料理くれ!」
「すいませーん、あのー、この依頼を受けてみたいんですけど」
「あれ? お手洗いってどこだっけ?」
「はーい! こちらエールと肉料理でーす! あ、お客様~お手洗いはそちらの奥になります~、レベッカさん、こちらのパーティーが依頼を受けたいそうですよ~」
カルディアはいつものように客の対応に答える、そしてカルディアに呼ばれてレベッカは依頼書を持ってきた冒険者達の対応をしていた
「お、この依頼はチョット難易度が高いよ? 今のアンタたちだと魔法使いが居ないから……そうだ、そこの席に仲間を探している魔法使いがいるんだけど、そいつも一緒に連れて行ってくれないかい? ああ、腕は確かだよ、あたしが保証する、もちろん報酬はその分上乗せするからさ、どうだい?」
レベッカは依頼を受けたいという冒険者パーティーをみて、編成に魔法使いが居ないことを確認したのちにフリーの魔法使いを紹介する、レベッカの申し出に冒険者パーティーは相談していたようだが、どうやら承諾するようだ
「うんうん、じゃあこれで契約成立だ、あ、そうだこれをサービスしておくよ! 使い切りだけど回復魔法の巻物二つと保存食を人数分だよ」
そう言ってレベッカは冒険者パーティーに巻物と保存食を渡す、冒険者パーティーも笑顔で受け取りレベッカに礼を言って酒場を出て依頼の場所へ出発した、パーティー編成で不足している人員を補ったりアイテムを渡してサポートする事は、この店ではいつもの事だった為、ここに来る殆どの客は文句を言ったりしなかった、むしろこういったサポートのおかげで全滅を免れた冒険者パーティーも少なくない為、この酒場で出世した常連の冒険者達の中には店に支援物資を寄付する者が多く居た。
「さーて、今日も張り切っていきますか!」
朝から大勢の客で賑わう「竜の遠吠え亭」、日中はいつもと同じ日常、そして夜……
今回は店を貸し切りにしてブラッド主催の酒宴が開かれた、友人であり今回の協力者であったライアスも招待したが、事件に関する事後処理などで時間が取れないという理由で欠席するという事だった、ともあれこの事件に協力した関係者の殆どが今回の宴会に招待されていた。
「さあ、どんどん好きなものを呑んで食べてくれ! 俺からのささやかなお礼だ!」
ささやか、と呼ぶにはかなり規模の大きい宴会である、料理はヴァイスハイトが腕を振るい、さながら宮廷のパーティー並みの豪華な料理が次々とテーブルに並べられていた、酒も秘蔵の樽を特別に開けたらしい、金額にすると結構なものになるのだが、ブラッド曰く
「今回の件で名誉回復、発行部数も倍増! 号外も売れ行き好調でな、おまけに国王陛下から特別報酬をたんまり戴いたからな、こっちの懐はウハウハだ! だから遠慮せずガンガンやってくれ!」
という事らしい、そんなわけで現在、大宴会の真っ最中である、そして招待客である冒険者パーティーの【シグマ】の面々は現在料理を物色中である。
「いや~、何とも豪勢な料理ですねえマルクさん、迷ってしまいますよ」
「そうだな、お、アンドウ、この肉料理は旨そうだな……」
そう言ってテーブルに並ぶ料理を小皿に取り分けるアンドウと肉料理を持ってきては次々と平らげるマルク。
「あの、エミーさん、僕は今回の依頼に全く関わってないんですけど、良いんですかねぇ……」
「えー? いいじゃない、ルーク君、せっかくブラッドさんが招待してくれたんだもの、好意は素直に受け取りましょう? あ、こっちのお菓子美味しそうね、ルーク君の分も取ってきてあげる」
「おい、エミー! 少しぐらいは遠慮しておけ、あくまでも今回はアンドウとマルクが功績を上げたんだからな」
「相変わらず頭が固いわね~、リーダであるボルグだって関わっていたんだし、ブラッドさんが招待してくれた好意は遠慮なく受け取るべきじゃなくて? そんなんじゃ将来禿げるわよ? ボルグ」
「禿げねえよ! はあ……もういいよ、食事に集中しようルーク」
「あ、ハーイ」
不安そうなルークとは対照的に素直にこの状況を楽しむエミー、そして暴走しないように監視するボルグ、ルークとエミーは直接関わってはいなかったが、同じ冒険者パーティーという事で招待されたのだ。
「いやあ、事件も解決、名誉も回復、おまけに新聞の発行部数も過去最高! そしてその宴に呼んでいただけるとは、流石社長! 太っ腹ですね!」
「いよっ! 大盗賊からの華麗なる転身を成した伝説の男! そこに痺れる憧れる!」
「我らの偉大なる社長に乾杯!」
「乾杯‼」
そう言って何度目かの乾杯を行うブラッドの部下達
デイクロニクル新聞社の社員達も上機嫌で酒をあおる、料理の用意をしながら少し離れてその光景を見ていたヴァイスハイトは酒と料理の消費ペースの速さに不安を覚える
「盛り上がるのは結構な事なんだが……本当に支払いは大丈夫なんだろうな? もうだいぶ前金を越えて支払額が膨らんでいるんだが」
そう言って心配しているが、傍のカウンターで飲んでいたブラッドは気にしない様子で
「お前なあ……仮にも大軍を率いていた元魔王が、そんなみみっちい事を気にしてるんじゃねえよ、心配なら……ほらよ!」
と、懐から大型の金貨を数枚取り出しバンッと机に叩きつける。
「ブラッド……おまえコレは通商金貨じゃないか、確かにこれなら大分余裕があるが、いいのか?」
およそ大きな商取引や仕入れの時でしかお目にかからない大型の通商金貨を前に再び確認するヴァイスハイトだが、ブラッドは眉を片方あげてニヤリと笑う
「なんだあ? これでもまだ不安だってのか? 気にするな、言っただろ? 号外の売れ行きが好調だって……あれはな、この街だけの事じゃないんだよ」
そう言って部下が注いだ酒の入ったジョッキをあおるブラッド、その言葉を聞いて意図を察したヴァイスハイト
「なるほど、そういう事か……確かに、この街だけに限った話では無いな今回の事件は、つまり同様の事件がそう遠くない過去に他の王国でも起きていて……そしてまだ解決していない可能性もある、そういう事だな? ブラッド」
「……ご名答だ、案の定、今頃になって慌てて各国からこっちに調査の依頼が殺到、受け取った前金は必要経費を差し引いても相当額になったからな、この程度の宴会は経費のうちって事さ」
「こりゃ相当厄介だぞブラッド、あんなのが大挙して襲って来たらひとたまりもない、小規模な街や村では壊滅するだろうな」
「いや、既に幾つかの村が壊滅しているよブラッド」
と、欠席すると聞いていたはずのライアスがいつの間にかヴァイスハイトの所に来ていた、彼は酒ではなく飲料水をコップに注ぎ飲んでいた。
「ライアス、おまえ宴には出ないって言ってなかったか?」
ヴァイスハイトはそう言うとジョッキを出して酒を注ごうとしたがライアスは手で制止して断った
「すまない、まだ勤務中なんだ、精査しなければいけない書類が多いのでね」
そういって果実の飲料を注文する、ヴァイスハイトは一旦奥に引っ込むとワインボトルのようなものを出して栓を開けてカウンターに置いた、ライアスがそれを空のコップに注ぐと果実を絞った飲料が出てコップを満たした。
「それで、村が壊滅しているとは? 少なくともこの国では確認していないぞ? ライアス」
そう言って問いただすブラッド、その言葉にライアスは
「ああ確かに、この国では起きていない、だが同盟関係にある王国から報告書が届いてね、あの魔法王国からだよ、あそこにはザーバルの師匠だった大魔導師が居るからね……現在は引退しているようだけど」
「ああ、ザーバルの師匠……【大魔導師カイエラ】様か、奪還作戦で世話になったっけ、だがカイエラ様程になれば、その程度の事は未然に察知できないか? ライアス」
「そうだね、確かに魔法王国内の話なら、そうだったんだろうけど……あいにく北方隣国の辺境で起きたんだそうだ……もともと閉鎖的な風土だったという事も災いして発覚が遅くなったそうだ、報告を受けてカイエラ様も魔導士隊を派遣して幾つかの村を調査したんだけど、もう既にその村は廃墟になっていたそうだよ、数か月前には確かに存在していたはずなのに、それと報告によると現地で見たものは相当酷かったらしい、時間が経過していた事もあって損傷が酷くてね……家畜はむごい殺され方をしてらしいけど、人間の遺体は何故か一つも無かったそうだよ」
「で、そのような壊滅した辺境の村がいくつも在ったという訳か……国内で事を起こさなかったのは発覚を遅らせる為の欺瞞というところか、今回の事件といい、随分手が込んでいるな」
ブラッドはそう言うとライアスも頷く
「そういうわけで、その報告書を纏めて、近く国王陛下の命で各国を視察することになっているんだ、戦争が終わったとはいえ、連合軍としての繋がりが消えたわけでは無いからね、ブラッドはどうするんだい?」
「俺か? 俺も各国にある支社を回って情報を手に入れるつもりだ、ここは取り敢えず安全だしな、それにザーバルがこれ以上好き勝手に動いているのを見過ごす訳にはいかないしな」
2人のやり取りをヴァイスハイトは聞いていると、レベッカがやってきた
「ライアス達は各国を巡るのかい? じゃあ、何かあったらうちに報告してくれないか? アンタ、アレを2人に渡してやってよ」
とレベッカがヴァイスハイトに言うとライアスとブラッドに2つの小型の箱を渡す、2つとも現在のトランシーバーのような形状をしていた
「これは古代王国で使っていた小型の通信装置だ、魔法石が埋め込まれていて、魔力を補充しなくても2、3年はそのまま使用できる、うちにも1台あって、そいつと音声で会話することが出来るぞ」
そう言って実際にヴァイスハイトがもっている箱についているボタンのようなものを押して喋る
「あー、あー、只今通話試験中、聞こえるなら手を上げてくれ」
すると2人の持つ小型の箱からヴァイスハイトの声が響いくる
「「あー、あー、只今通話試験中、聞こえるなら手を上げてくれ」」
目の前にヴァイスハイトがいるのだが、明らかに小型の箱から声が響いていたのが確認できたため、2人は手を上げる
「これは、すごい魔道具だな……これが古代王国の遺産なのか?」
と感心するライアス
「こいつは便利だ、使い方によっては戦場とかでも意思の疎通が迅速にできるな、しかも探索時に使えば未探索の穴をカバーする事も出来る、やはり超大国を創り上げた技術だけの事は有る」
そう言ってブラッドは小型の箱を見ながら用途を思案する
「ほほう、これはなかなか面白そうな物ですね、形も私の世界にあったトランシーバーによく似ていますねえ」
そう言っていつの間にかやって来ていたアンドウが小型の箱を見ている
「アンドウ、いつからこの話を聞いていた?」
ブラッドがアンドウに問うと
「いやー、盗み聞きするつもりは無かったのですが、お二方が宴席の中心から離れて話しているのが気になりまして……で、何でも各国を巡られるという事を話しておりましたのでね、そしてヴァイスハイトさんやレベッカさんも居たのでこれは何かあるのかなと、いやはや申し訳ない」
そういって申し訳なさそうに頭を掻くアンドウ
「盗み聞きとは感心しないね、しかし話を聞いた以上、アンタにも協力してもらいたいんだけど……もちろん無理にとは言わないよ、その代わりこの話は聞かなかったことにして貰うけど」
とレベッカがアンドウに詰め寄る、しかしアンドウは
「いやはや、これは困りましたねぇ……いいでしょう、引き受けましょう、どれだけできるか解りませんが」
その言葉を聞いてにっこりと笑うレベッカ
「よし! それじゃあアンドウには、ここに行ってもらおうか」
とサラサラとメモを書き、そして一通の手紙と共に路銀の入った革袋、そして先ほどの小型通信機をアンドウに渡した。
アンドウはそれらを受け取ると
「これは道中の路銀ですか……随分入ってますね、しかしこの手紙とメモは一体?」
アンドウの問いにレベッカは
「あんたもこの国を出てアタシの知り合いの所へ行って修業をしてきな、その間シグマの連中の面倒はあたしが引き受けるから」
そう言ってレベッカはアンドウに微笑んだ




