第21話 「一応の決着」
この一連の事件の黒幕であり、真の目的である「実験に必要な素体を集める」という目的を隠すためにモーニング・サン・クロニクル社と異世界転移者をそそのかし「連続婦女暴行事件」を支援した男、魔導師ザーバルが杖を掲げて呪文を唱えると杖が怪しく輝く
「汝に命ずる、この者たちを、一人残らず殺せ。」
さっきまで傭兵「だった」ものが「魔物強化生物」によって変化した異形の怪物たちはいっせいに雄叫びをあげてレベッカ達に襲い掛かった
「さあ、始めよう、私たちの戦争を」
「こんの、クソ外道がぁっ! 」
激怒したレベッカが叫び怪物に斬りかかる、一気に間合いを詰めて繰り出した一撃で怪物の攻撃がはじき返されて1体倒れる、だが残りの怪物はザーバルによって操られ自我を持っていない為、怯むことなく襲い掛かる、怪物の攻撃を連続で避けながら剣を振るレベッカ
「ザアアバァルウウウウゥッ! 」
レベッカが繰り出す連撃によって僅かに道が開け、ザーバルの前ががら空きになる、気を逃さず突っ込もうとしたその瞬間!
突然背後からヴァイスハイトに【牽引魔法】でヴァイスハイトの居るところまで引き戻されて止められた、片手でレベッカを抑えるとヴァイスハイトは魔力の衝撃波を放ち怪物たちを押し戻した
「放せ! 邪魔をするな! 」
レベッカはヴァイスハイトの手を振りほどこうとする
「落ち着け! お前らしくも無い、よく状況をみろ! ……ここでお前が無暗に突っ込めばどうなるのか! 」
そう言われてレベッカは周りを見渡す……と、背後を警戒していたボルグが異変に気付いた
「な、なんだこいつらは!? 」
戦闘前に展開していたヴァイスハイトの【結界魔法】で進行は防いでいたが、背後に十数名ほどの人々がこちらに向かって近づいていたのだ……正確には【元人間】ではあるのだが
「アレは……ひょっとして行方不明になっていた連中か? 何故ここに? 」
ブラッドはそう言ってからハッと気づく、あの手紙にあった「素体」と書かれた者、そしてザーバルが言った「実験の成果」……つまりこれは
「不味いぞヴァイス、これじゃあ俺たちは袋の鼠だ」
「そのようだな……レベッカ、少しは落ち着いたか? 」
「……ああ、すまないね、取り乱して……とは言え、目の前の怪物も何とかしないとね、後ろは幸いアンタの張った結界で止まってくれているけど……」
落ち着きを取り戻したレベッカは剣を構えヴァイスハイトの言葉を待つ
「前の連中は俺に任せてくれ、レベッカは背後の警戒を頼む……カルディア、前方への射撃で援護してくれ」
「承知しました、我が主」
「征くぞザーバル、お前に『魔王』とはどういう存在なのか、教育してやろう」
そう言うと魔法陣が大きく地面に展開される、と襲い掛かってきていた怪物の手がヴァイスハイトのすぐそばまで来た……が、その手はヴァイスハイトには届かなかった
「ギャアアアアアアアアッ……! 」
悲鳴を上げて後ろに下がる怪物、怪物が伸ばしたその手はヴァイスハイトの身体から放たれた魔力によって焼かれたのだ、そしてその機を逃さずカルディアは弓矢で怪物を攻撃する、矢は正確に怪物たちの身体を捉え射貫いていった、怪物の本能か、それともわずかに残った傭兵たちの意識か、その状況に怪物たちは怯み、後ずさる
「……もう元には戻らぬ哀れな人間に、せめて安らかな死を【ヘル・ファイア】」
ヴァイスハイトの放った炎が怪物たちを襲う、地獄の炎に焼かれた怪物たちは瞬く間に消し炭と化した
「やはり、ヴァイスハイト様は格が違いますな……しかしこれはどうですかな? 【フレイム・スロア】!」
ザーバルがそう唱えると杖から炎が吹き上げヴァイスハイト目掛けて火炎放射が放たれる……が、その刹那
「【アイス・ウォール】」
ヴァイスハイトの目の前に氷の壁が現れ、炎が届くことは無かった
「ふん、あれから多少は魔力が上がったようだが、所詮はこんなものか……さらばだザーバル、お前の作った残りの怪物も残らず滅ぼす……貫け【ライトニングボルト】」ヴァイスハイトの指先から一筋の光が放たれる、そしてその光はザーバルの胸を貫いた
「……! フッ、流石は……ヴァイスハイト様……ですが、これで終わったと思いませぬように……うぐっ」
そう言ってザーバルは膝を落とし崩れ落ち……倒れた
「おい! ヴァイスハイト、後ろの怪物たちが結界を突破しそうだぞ! 」
ブラッドの言葉に背後をみる、すると見えない壁に藻掻いていた怪物たちがじりじりと進んできているのが見えた
「まいったな、連中はまだ姿が人間のままだ、さっきの連中と同じように魔法で焼いたら下手をするとこっちが疑われる。」
「ヴァイス、その心配は無用だ、俺が今回の罪を生存していたザーバル一人におっ被せる記事を書いて、お前たちの関与は「連続婦女暴行事件」の解決に貢献した事だけにしておく、ライアスも協力してくれるさ……だから遠慮は無用だ」
「それは助かる、ではお前たちは下がってくれ、俺の記憶が確かなら「魔物強化生物」は自身の分身を寄生させて繁殖する能力も有るはずだからな、接敵はリスクが大きすぎる」
「え? チョット、あたしはどうなる? 剣で攻撃とはいえかなり近かったんだけど」
「安心しろ、寄生する対象は襲って殺した死体だけだ、対象が生きていても噛みつかれたりしなければ大丈夫だ。」
「はあ、そいつは良かった……じゃあサッサとやっておくれ、あいつらをこれ以上苦しめるのは可哀想だ。」
「分かっている……すまないな人間、助けてやれなくて。」
そう言って背後に居た怪物はヴァイスハイトが放った炎に焼かれ朽ちていった
「はあ、やっと終わったか、それにしてもザーバルの野郎、ずいぶんあっけなかったな……。」
その言葉にアンドウは疑問をぶつける
「それなんですけど、何か妙なんですよ……これだけの手間をかけて、アッサリ終わるとは思えないんですが。」
アンドウの言葉にレベッカも同意する
「確かにね、一度は死んだと言われていたアイツがしぶとく生き残っていたんだ、いくらヴァイスハイトの魔法が強力でも、こんなにアッサリと死ぬもんなのかねえ。」
「えー? あの陰気なザーバルがまだ生きているって事ですか? じゃあまた今回のような事件も再び起きるんですかあ? 」
カルディアは心底嫌そうに、その感想を述べる
「いや、流石に此処でまた同じ事件が起こるとは無いだろう、奴だって馬鹿じゃない、今度はライアス達だって警戒を強めるハズだしな。」
「あの……私はもう帰って良いでしょうかね? アンドウに頼まれて此処に来ましたけど、流石に帰って休みたいんですが。」
と、存在が空気になりかけた職業勇者のボルグが提案する、アンドウも頷き
「確かにボルグさんの意見に賛成です、今回の事件としてはこれで終わりでしょうから、一旦帰ってもいいんじゃないですかね、私も少し休みたいですね……もうすぐ夜が明けそうですし。」
「よし! じゃあうちに来な! 今回はサービスで宿代はタダにしてあげるよ、もちろん食事と酒も付けてやる、なあアンタ? 」
「まあ一応、依頼達成という事だからな、報酬にそれぐらいは上乗せしよう、それでいいか? ブラッド。」
「まあ、旦那にそう言われちゃしょうがねえなあ 」
「では、私は先に戻って準備しておきますね! 」
「それならアタシも一緒に行くよ、仕込みぐらいなら昔やっていたからね、アンタも一緒に来るだろ? 」
そう言われたヴァイスハイトだが
「ああ、すまん……先に戻っていてくれ、後からすぐに追いつくから。」
「ふーん、そうかい? じゃあカルディア、帰ろうか、ブラッド、アンタたちも来るだろ? 」
「おう、契約書に報酬の上乗せを書き加えないといけないしな、じゃあなヴァイスハイト。」
そう言ってレベッカ達は先に「竜の遠吠え亭」へ向かう、一人残ったヴァイスハイトはザーバルが倒れた場所まで戻る……が
「ザーバルの……遺体が無い、やはりそうか。」
そう、何故か跡形も無く、確かにそこに倒れていた筈のザーバルの遺体が消えていたのだ、そして一枚のメモが落ちていた
「これは? ザーバルめ、最初からこれを見越していたのか。」
メモには「予定通り計画はこれで前に進んだ、次に会えるのを楽しみにしている 」
とザーバルの筆跡で描かれていた、空を見上げるヴァイスハイト……そのはるか上空にザーバルが居たことは知る由も無かった……
「また会おう、魔王、そして勇者よ……今度の「人魔大戦」は楽しくなるぞ。」
そして何処かへまた姿を消すザーバルであった、しばらくしてヴァイスハイトが振り返ると目の前にレベッカが居た
「アンタ、やっぱりさっきのザーバルは偽物だったんだね? 」
「レベッカ! カルディア達と一緒に戻ったんじゃなかったのか? 」
「あんたが一人で残るってのが気になってね、皆もすぐそこで待って居るよ、それで? そのメモにはなんて書いてあったんだい? 」
ヴァイスハイトはさっき拾ったメモをレベッカに渡す
「……そうかい、やはり何か企んでいるんだね、あいつは。」
「戦争は、人と魔族の戦いは終わったはずだったんだがな。」
「あいつが何を考えているのかは、あたしにもよく解らない、ただ一つ言える事は、争う原因なんてものはほんの些細なボタンの掛け違いと、心に宿った憎しみの心……なのかもね……まあ、あたしも人の事を言えた義理じゃないんだけどね。」
「……なるほどな、そうかもしれぬな。」
「さてと、アンタの魔法なら先に「竜の遠吠え亭」に戻れそうだね、そろそろ帰ろうか。」
「ああ、帰ろう、いつもの日常にな。」
レベッカと共に仲間たちの元へ向かうヴァイスハイト、ふと振り返り
「今度の敵は人の心に棲む魔物が相手か……厄介だな。」
レベッカに聞こえないように、そう呟いた。
次の話は閑話休題…の皮を被った何かになります。




