第20話 「魔物強化生物」
ヴァイスハイト達は【テレポート】の魔法でブラッド達の元へ合流する、そしてそこにはブラッドとボルグが数人の傭兵と戦闘の真っ最中であった
「ブラッド! 助けに来たぞ! 」
ヴァイスハイトはすぐさま魔法陣を展開して辺りに結界を張り巡らせる、こうすれば野次馬も易々と近寄っては来ない、安心して戦える環境を整えると今度はレベッカが【ヒール】の魔法でブラッド達の傷を癒していく、やはり多勢に無勢、元々前線で闘う事の無いブラッドはボルグの応援が無ければもっと苦しい状況になっていただろう、連れていた部下も戦ってはいたがダメージが大きかったため早々に引き上げさせていた
「すまねえ、あいつら国外の傭兵だ、思いのほか手強い、くそ……こんな事ならもっと部下を応援に呼べばよかったぜ 」
ヴァイスハイトは前に立ち【魔法障壁】を展開し時間を稼ぐ
「仕方ないさ、俺も地下室でアレを見るまでは相手の戦力を過小評価していたからな、とはいえザーバルを相手にするんならもう少し用心するんだな。」
「全くだ、ちょいとばかり平和ボケしてたかもな。」
「ほら、しっかりしなブラッド! あんたはそんなヤワじゃないだろう? 傷も治したから思いっきりやっちまいな、あたしも手伝うからさ! 」
そう言うとレベッカは出発前にもってきていたショートソードを構えると、拉致集団の傭兵に向いて間合いを徐々に詰めていく、敵も相手が只の女剣士では無いと解るとバラバラになっていた傭兵たちが隊列を組み集団戦法の構えを見せる
「へえ、こりゃ歯ごたえがありそうだ、アンドウ、周囲を警戒しておいてもらえるかい? 奴が姿を隠して高みの見物っていう可能性も有るからね。」
「分かりました、ボルグさんレベッカさんと前線を構築してください、カルディアさんは弓矢で支援攻撃をお願いします。」
「パーフェクトだアンドウ、さて俺は周囲の魔力の流れを探ってみる、その間手を出せないから敵を押さえておいてくれ。」
「任せときな、行くよブラッド、ボルグ、カルディア、奴らに『誰を相手にしているのか』思い知らせてやるよ? 」
ブラッド達は頷くと敵に向かっていった、レベッカは戦闘スキル【剣の舞】で相手の攻撃を受け流しながら舞い踊るように剣戟を繰り出す、背後のスキを伺おうとする敵は背中をボルグがカバーしてブラッドが素早く回り込み、ナイフで敵を切り裂く、腕を斬られた敵は剣を落とし瞬く間に無力化する、後方のカルディアは弓矢で援護して敵の動きを制限する、これで散開して機動戦に持ち込むことを防いでいく、戦況は一転してブラッド達に有利に傾いていく
「そう言えば、今回ターゲットになっていた身元不明者はどうしました? 」
周囲を警戒するアンドウが指摘するとブラッドが
「ああ、それなら心配ない、ボルグと一緒にマルクも来ていたから、そいつに安全な場所に避難してもらったよ、戦闘中にまた人質に取られたら厄介だしな。」
「なるほど、それなら取り敢えずは一安心ですね。」
アンドウの含みのある言い方に違和感を覚えたブラッド
「なんだよ『取り敢えずは一安心』って、まだ懸念があるってのか? 」
「まあ、それはそうですよ、今回の一連の事件は只の連続婦女暴行事件では無いんですから。」
戦闘がレベッカ達の一方的な攻勢に転じたのを確認するとブラッドは下がって辺りを警戒しながらアンドウに答える
「確かに、黒幕があのザーバルなら、何があってもおかしくはねえよな」
「むっ……魔力に変化が有ったぞ、レベッカ! ボルグ! 一旦下がるんだ! 」
「はいよ! いよいよ黒幕のお出ましって事だね? 」
「え、まだ敵がいるんですか? アンドウ、俺はどうすれば良い? 」
「そうですね……ボルグさん、私たちの背後を警戒してもらえませんか? どうにも気になる事があるので 」
「了解した」
「私はどうします? 」
カルディアはヴァイスハイトに指示を仰ぐ
「カルディアも戻って来い、敵は正面からとは限らないからな。」
「承知しました」
そう言ってカルディアは後ろに下がっていく
「来たぞ、皆油断するなよ……」
ブラッドが注意を促す
それぞれが持ち場に戻り、辺りを警戒すると、黒いゲートの様なものが現れて、そこから黒いローブを纏い杖を持った男が姿を現した、背は高く灰色の髪が黒いフードからちらりと覗かせていた、肌は青白くいかにも研究室にこもる学者のような不健康な印象を与えた、男は周囲を見渡すと状況を把握し、杖を持っていない片方の手で顎をしゃくりながら頷く
「ふむ、想定したものよりも少し状況が良くないな……なるほど……お前たちが相手では分が悪いのも納得だ、久しいなレベッカ、ブラッド……そして、そこに居るのは四魔将のカルディアにヴァイスハイト様でしたか……わざわざこのような些末な事に首を突っ込むとは、ご苦労な事ですな。」
「ザーバル……まさか本当に生きていたとはね、話は聞いていたけど信じられなかったよ、この目で見るまではね。」
レベッカはそう言うと少し悲しそうな顔をした、かつては仲間として各地を放浪し、魔王軍を相手に戦っていたが、とある王国を開放する戦いの最中に姿を突然くらませて、そして魔王軍に寝返ったとの知らせを受けた時、何故という疑問と共に敵となったならば倒すしか無いと思っていた、しかし魔法王国開放戦で深手を負って戦死したと知ると、裏切り者を討ち果たしたという達成感などは無く、むしろこちらに引き戻すことが出来なかったという不甲斐なさを感じ、自身を責めていた……しかし、その思いは既に消えていた、あきらめたという方が正確かもしれない。
「一度はこちらに引き戻そうとも考えた、だが、今アンタがやっていることは人の道を外れ、犬畜生にも劣る事だ、もはやこれ以上の悲劇は増やすわけにはいかない、もう戦争は終わったんだよ。」
「相変わらず、甘い考えですなレベッカ、戦争は終わってなどいませんよ、目に見えないだけで今も続いているんですよ、私は、私のやり方でこの戦争を終わらせる、ただそれだけですよ。」
「ザーバル! てめえ、何を考えていやがる! 何の罪も無い人間を実験台にするとは、どういうつもりだ! 」
ブラッドの威圧もザーバルには通用しない
「どうと言われましても……アレは私の研究の為の『生きのいい素材』にすぎませんよ、だが、まあもったいぶっても仕方が無いですな……よろしい、特別に私の研究の成果を披露してあげようではないですか」
そう言って指をパチンと鳴らす……それを合図に背後から低いうなり声を上げてさっきまで戦っていた傭兵たちが進み出てきた、顔は青白く目は白目を剥き、口からは鋭い犬歯も見えていた、明らかにさっきまでの傭兵たちとは違う何かがゆらゆらと歩いてきていた
「これは!? さっきまで戦っていた敵なのか? 」
驚愕するレベッカ達そしてザーバルを睨むヴァイスハイト
「フン……これが、お前の言う『研究の成果』という奴か? なるほど、やはりお前を危険だと思っていた俺の読みは当たっていたわけか、この外道め。」
ザーバルはその言葉に口角を上げる
「お褒めに預かり恐悦至極……さて、私の用意した【魔物強化生物】の能力、とくと味わってくださりませ」
そう言って地面に魔法陣が展開され、ザーバルが杖を掲げて呪文を唱えると杖が怪しく輝く
「汝達に命ずる、この者たちを、一人残らず殺せ。」
異形の怪物と化した傭兵たちはいっせいに雄叫びをあげてレベッカ達に襲い掛かった
「さあ、始めよう、私たちの戦争を」




