第17話 「合流そして……」
ヴァイスハイトとブラッド・パイソンが潜入した、犯人のアジトと思われる宿屋の地下隠し部屋から数々の証拠をつかみ、ザーバル・タスフェというかつての大戦で死んだはずの男によって敵対する新聞社を通じブラッドが築いた地位を脅かそうとしていたことも判明、旧友である聖騎士ライアス・ギルの協力もあり、無事ブラッドが所属するデイ・クロニクル新聞社に対する嫌疑を晴らすことが出来た、しかし、連続婦女暴行事件の犯人は、まだカルディアを狙って動いていた為、ブラッドとヴァイスハイトは急ぎ別動隊の元へ向かうことになった。
そして別動隊であるレベッカ、アンドウ、そしてカルディアは、ドッペルゲンガーによって作り出された偽カルディアを連れて裏路地へ誘導する犯人の後を追跡していた
「アンドウ、まだ捕らえたらダメなのかい? 証拠ならヴァイスハイト達が集めているだろうし、事が起こる前にフン縛った方が良いんじゃないの? 」
「駄目です、万が一奴が開き直ったらヴァイスハイトさんが集めた証拠では逃げられる可能性があります、あまり見たくは無いのでしょうが、ここはヤツに事を起こしてもらわなければなりません、取り押さえるのはそれからです……それに妙なんですよ。」
「妙? どういう事さ。」
「今回の一連の事件についてです、新聞の記事の情報とブラッドさんから聞いた話を合わせて考えると、ただの連続婦女暴行事件とは考えにくいんですよ……何といいますか、連続婦女暴行事件は注意を引き付けるための偽装で、本当の重大事件は別にある……とか。」
「ほう、察しがいいじゃないかアンドウ、やはり何かしらの能力を授かっているんじゃないのか? 」
と、背後から声を掛けられたのでアンドウ達が振り向くと、そこにはヴァイスハイトが立っていた
「……ずいぶん早いじゃないかアンタ、もう証拠集めの方は良いのかい? 」
「ああ、ブラッドは寄るところが有るといって途中で別れたが、ある程度の収穫は有ったからな。」
「ふーん、で? アンドウの察しが良いっていうのはどういうことだい? 」
「ああ、その事だが、地下の隠し部屋で封印されたはずの【禁忌魔法】の産物と、黒幕の人物の手紙を発見したんだ……まあブラッドに渡してあるから奴がこっちに合流してから詳しく話す、今はあの犯人を追いかけるぞ。」
そう言ってヴァイスハイトはレベッカ達に追跡を促す
「まあ、アンタがそう言うんだからブラッドに後で聞いてみようかね、さてと……アンドウ、奴の動きに変化はあったかい? 」
「まだ偽のカルディアさんを誘導していますね、あとしきりに周りを見渡しています、レベッカさん、もう少し離れた方がよさそうですね」
「 だがアンドウ、これ以上離れると見失うかもしれないよ? 現場を押さえるつもりなら確実に居場所を把握しなきゃ…… 」
「 ならば使い魔を飛ばしておこう、奴の影に潜り込ませておけば、万が一、犯人が行動を起こしても時間稼ぎぐらいはできる。」
ヴァイスハイトはそう言うと召喚魔法で真っ黒な豹を召喚、それは音も無く犯人の影に近づくとするすると潜り込んで溶け込んでいった
「よし、あとは気付かれないように距離を取るぞ。」
「さすが、アンタはやっぱり頼りになるねえ。」
「今頃気づいたか? 」
「あのー……私はどうすればいいんでしょう? 」
と、自分の偽物を見守っていたカルディアがヴァイスハイト達に質問する
「まあ、じきにブラッドがこっちに合流するから、事が起こるまで追跡だな……。」
「はあ~退屈だねえ……早くブラッドが来てくれないもんかねえ」
「まあまあレベッカさん、ブラッドさんも何か考えが有るんでしょう、ヴァイスハイトさん、ブラッドさんは用事が済み次第こちらに合流すると言ったんですね? 」
「ああ、すぐに終わる事だから早く合流できるとも言っていたな。」
「おう、言ったぜ? なんか待たせちまったみたいで悪かったな。」
と、またしても背後から声がするので一同が振り向くとそこには革鎧を着た銀髪の男が荷袋を担いで立っていた。
「やあ、ブラッドさん、用事は済んだのですか? 」
「遅かったじゃないか……こんな美人二人を待たせるとか、ブラッド……アンタも罪作りな男だねえ…… 」
「あのな、こっちはライアスに合ったり色々忙しかったんだよ、それに美人二人とか……カルディアちゃんは兎も角、お前は人妻だろうが。」
「まあまあ……そういう事は、出来れば後にしていただけると助かるんですが……。」
「アンドウ……おまえにも苦労を掛けるな…… 」
「お気遣いありがとうございますヴァイスハイトさん、さてブラッドさん、先程ヴァイスハイトさんから【禁忌魔法】の産物と【黒幕の手紙】というのを手に入れたと伺ったんですけど、良ければ話してもらえませんか? 」
アンドウに促されるとブラッドは
「ああ、そうだな、追跡の最中だから道々話そう、まあ結論から言うと、かつての元仲間が黒幕だった、そしてそいつはヴァイスハイト達でさえ危険と判断したヤバい物を使って実験をしている、その実験台を婦女暴行事件の陰で身元の不明な人間を拉致して調達していた、って事だ。」
そう言って袋から【魔物強化生物】の瓶を取り出して見せる、瞬間レベッカの顔色が変わる
「なんだい? この禍々しい生き物は……アンタ、これが何だか知っているんだね? 」
そう言ってレベッカは瓶の中身を睨む……中身が邪悪なものであると理解しているのだろう、嫌悪の感情がもろに現れている
「レベッカ、おまえの言う通り、こいつはマトモな魔法生物ではない、古代王国末期に魔物を強化させ、王国に反抗する勢力を効率よく殲滅する目的で当初は作られたものだったが、魔物のみならず人間やエルフ等、種族を問わず寄生し、そいつが襲った相手もこの生物の新たな宿主にして勢力を拡大するという危険な特性が有ったため、下手をすると魔族もこの生物に感染するリスクを負いかねないので少数のサンプルを残して封印されたものだ、ちなみに【人魔大戦】では使用した事は無い、ある人物がしきりに実践投入を主張したがな。」
ヴァイスハイトの説明にブラッドが続く
「そいつは【人魔大戦】の最中、魔法都市奪還戦の時に深手を負い死んだと思われていた、だが実は生きていた、そいつこそ俺達が最初にパーティーを組んだ時にいた元・宮廷魔術師のザーバル・タスフェさ。」
その名前を聞いたレベッカの顔はさらに険しくなっていった
「あいつか……ザーバル……とうとう、落ちるとこまで落ちていったんだ……で、あいつが今回の黒幕なんだね? 」
「正確にはザーバルにそそのかされて連続婦女暴行事件を操って、その裏で身寄りのない人達を拉致、監禁してザーバルの所へ提供し、見返りに数々のマジックアイテムや金を受け取っていたモーニング・サン・クロニクル新聞社との共犯だったんだがな……新聞社の方は俺とライアスで潰したから、残るのはあの犯人とザーバルの野郎だけって事さ。」
「ではあの犯人を確保してザーバルという方の情報を聞きだすという事ですか? ブラッドさん 」
「ああ、こっちのミスで新聞社社長はザーバルが仕掛けた罠にかかって死んじまった、だから残る手掛かりは奴って事になる、まあ何も知らない可能性も有るんだがな……。」
ブラッドはモーニング・サン・クロニクル新聞社での事を思い出し、苦虫を嚙み潰したような顔になるが、すぐに真顔に戻る。
「でも、捕らえれば何らかの情報を得られる可能性もある、てことですよね? 」
ブラッドの心情を察したのかは不明だが、カルディアはブラッドを気遣うように発言しヴァイスハイトとレベッカもそれに同意する
「となると、犯人の追跡のほかに拉致を目論む連中も確保しなければいけませんねえ、ふむ……ヴァイスハイトさん、ボルグ達と連絡を取りたいのですが、何か良い魔法とかありませんか? 」
「まあ、ある事はあるが……アンドウ、ボルグ達を呼んでどうするんだ? 」
「一つこちらに考えがありますので、とりあえずお願いできませんか? 」
「ふむ……解った、こいつをお前に渡そう 」
そう言ってヴァイスハイトは宝石のはめ込まれた拳ほどの大きさの巻貝の貝殻を渡す
「随分と豪華な貝殻ですねえ……これは、一体? 」
「ああ、そいつは簡易型の通信装置だ、回数に制限はあるが、そいつは俺の魔法【ピンポイント・テレパス】と同じ効果が付与されている、耳に当てて通話したいやつをイメージしろ、この都市でしか使えないが、対象がここにいる限り呼びかけて通話が出来る、喋る必要はない、頭でメッセージを伝えるだけでいい、以前ボルグも使ったことが有るからすぐにつながるハズだ。」
「なるほど、では有り難く使わせていただきます」
そう言ってアンドウはボルグに通話を試みる……一方で犯人は、まだ偽カルディアを連れまわしているようだ
「さて、じゃあこっちもいよいよ、始めるとするかね……」
そして裏通りの細い路地、突き当りの袋小路にたどり着いた、ようやく犯人は目的の場所に着いたようである。