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第12話 「銀狼と呼ばれた男」 後編

魔族と人間・エルフ・ドワーフ達のファンタジア大陸全土を巻き込んだ大戦「人魔戦争」と呼ばれた戦いは

一人の勇者とその仲間達の指揮のもと、連合軍として各地を転戦、魔族に奪われた土地を次々と取り返していった、魔族との戦の前に行う戦場の把握、その土地に住む住民の命を守るために止む無く魔族側に降りた者に対する説得と内応工作、そして魔族側の戦力調査のほとんどを引き受けていた元・盗賊ギルドのギルドマスターであり「銀狼」の異名を持つ、勇者レベッカの仲間の一人であるブラッド・パイソン

 

 戦後は組織名を「新聞社」と改め自らも新聞社社長として、平時においては潜りの盗賊や野盗の調査と粛清、そして国内の貴族たちによる不正を「取材」という名目で侵入し、証拠を見つけ出して中央に情報を売り、一方で記事として新聞に載せて二度と不正などをおこさないように戒めた、ブラッドの働きにより大戦後の混乱は最小限に抑えられ、各国の復興も順調、順風満帆だった…今回の事件が起こるまでは


 自身が立ち上げた「デイ・クロニクル新聞社」の、名誉にかかわるであろう今回の事件は自らの手で解決したかった……だが、人相書きを見せた「独立愚連隊のシグマ」のメンバーである異世界転移者のアンドウから

「これは恐らくですが…この容疑者も異世界転移者ですね」

 この言葉に一筋縄ではいかないことをブラッドは確信する、だが転移者という単語に引っ掛かりを覚え

「ん? 転移? 転生者ではないのか? 」

と問いかけるが、ブラッドの質問にアンドウは静かに首を横に振る

「いいえ、もし転生者なら…本人の元々の性格にもよるでしょうが、育った環境さえ良好であればこのような暴挙には出ないでしょう、それに記事に書いてあった犯行の手口も悪質です、犯人は相当ナニかを拗らせているとしか思えませんよ、まあ仮にこの人相書きの容疑者が犯人であれば、ですが」

と説明する


「うーん、じゃあアンドウ、もし仮にそいつが犯人だったとして、次に狙うのは何だと思う? 記事だと飲食店に勤めている娘ばかり狙われているって書いてあるけど…」

と続いてレベッカが質問する

「はあ、これはほぼ確実に言えるんですけど、この店のカルディアさんが次のターゲットになると思いますよ? 」

このアンドウの発言にレベッカは驚くが、割って入るようにヴァイスハイトが疑問をぶつける

「おい、ちょっと待て、何故この店のカルディアが狙われると断言できるんだ? 」

アンドウはカウンターに向いたまま

「それは、この人相書きの男がこの店に居たからですよ、今私はカウンターの方に向いているので見えませんが、この店に入ったときにフードを目深に被った怪しい男を中央のテーブルで見かけました、恐らくは、その男が容疑者なのでは? 」


この発言にブラッドが険しい顔になる

「俺がこの店に入ったときはそんな奴は見当たらなかったが…確かめてみるか」

「え? ちょっと待ちなよ、まさか直接問いただすつもりかい? 」とレベッカは止めようとするが

「そんなわけないだろ、いまこの店には部下も複数待機させている、そいつに確かめさせる」

とおもむろに右手の人差し指と中指を揃えて立てたかと思うと、サッと横に向けた

程なくして中央テーブルの付近から一人客の声が掛かる

「あ、ヒック…すいませーんお勘定してもらえますか~? 」そういって客が立ち上がる

「レベッカ、お前は動くな」ブラッドはすかさず制止する

「え? でも客がお勘定を聞いてるけど? 」レベッカはそう言ってからハッと気づく

「あ、そういう事か、でもこのままだとカルディアが聞きに行くよ? 」

そう言っているうちにカルディアが客に気づいた

「はーい! 少し待ってもらえます? 」と中央に向かおうとするが客はよろよろとふらつきながら

「あ~大丈夫、こっちから行くから…」と中身の入ったジョッキ片手に歩きだすそして

「うわっっと! 」客が何かに躓きバランスを崩しジョッキの中身を盛大に中央テーブルにぶちまける


バシャッ!

 

「…ウッ!? 」フードを被った男は液体をもろに頭からかぶってしまう

「あーーーーー! 済まねえな、兄ちゃん! コートが濡れちまったか? 済まねえ! カルディアちゃん、悪いけどタオルを持ってきてくれないか? 」

そういって客は懐から布切れを取り出してコートを拭こうとする、客に促されたカルディアはタオルを取りに一度その場を離れる

「大丈夫! 大丈夫だからあんまり触るな! 」

とフードの男は抗議するが、客は構わずにコートを上から拭おうとする、が客の手元が狂いフードを引っぺがしてしまった、周りの視線がさっきまでフードを被っていた男に集中する…

男は慌ててフードを被りなおすが、レベッカ達はしっかりとその光景を観察していた、そこへタオルを持ったカルディアがフードの男に

「お客様、大丈夫ですか?タオルを持って来ましたのでこれで拭いて下さい」

とタオルを渡そうとするがフードの男が

「ああ、もういいよ!」と拒否すると

「あークソ! せっかくの酒が台無しだ! 女将! 代金はここに置いておくからな! 釣りはいらん! 」と代金をテーブルに叩きつけて出て行ってしまう


ブラッドはすかさず指示を出して先程の客とは別の人間に後を追わせた


「なるほど、あれが容疑者の顔ね…人相書きとは違うけど、そう、誰かさんにそっくりさね」

レベッカはちらりと視線を向ける

「おい、ちょっと待て、何で変身の対象が俺なんだ? 」と不機嫌そうなヴァイスハイト

「そりゃあ、今までの手口から考えればそうなるだろうよ」とブラッドは指摘する

「つまりは、顔見知りの人間に変装して被害者をおびき寄せて、人気のないところで襲うと、いやはや酷いことをするもんですねえ~」とアンドウも何故か視線をヴァイスハイトに向ける

「だから! 何故俺の顔を見て言うんだ! 」

益々不機嫌になるヴァイスハイト

「しかしまあ、部下を追跡させたから奴の居場所もじきにわかるだろ」とブラッドはカウンターに向き直して酒をあおる

「というわけで、レベッカ、ヴァイス、作戦があるから耳を貸せ」

と言うと


「「はいよ」」

と二人して自身の耳を一回り大きく模したものをブラッドに差し出した


パーティーグッズ魔法『でっかくなっちゃった! 』である、一発芸の類の為、何回もやると飽きられてしまうのが玉にキズであるが、魔術ギルドで期間限定の特売品魔法として定期的に売られている


「こんな時に夫婦漫才してるんじゃねー! いいからチョットこっちに来い! 」

普段は多少の冗談が通じるブラッドだがこういう時は冗談が通じない

「なんだよ、場を和ませようとしたのに……禿げるよ? 」

「禿げねーよ! 」ツッコむブラッド

「あのー、一体何の話をしているんですかー? 」接客がひと段落してカウンターに来たカルディア

「ああ、カルディアさん、何でもありませんよ」平常心のアンドウ

そして夜は更けていく……


多少脱線しつつも作戦会議は開かれた、いよいよ反撃である






これで「銀狼と呼ばれた男」は終わりです、次回はいよいよ容疑者の追跡が始まります。

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