第0話 「一騎打ちの果てに」
よろしくお願いいたします。
-魔王城の中庭、連合軍魔王城制圧連隊前線司令部-
「伝令! 魔王城に突入した先鋒部隊が玉座の間を制圧! しかし魔王の姿は見当たらず!」
「なんだと!? クソッ、ここで奴を逃せばこれまでの苦労が水泡と化す、何としても見つけ出さなければ……!」
連合軍副指令は各部隊の伝令に指示しようとする、が――
「先鋒部隊より伝令! 勇者殿が逃亡した魔王の捜索の為、先鋒部隊より離脱、単騎にて追撃を開始した模様!」
その言葉に勇者の意図を察した副指令は
「承知した! ……各部隊に伝えよ! 勇者殿は必ず魔王を倒す! 我らは魔王城の制圧に全力を尽くすのだ!」
おおっ! と周りの兵士たちが拳を上げる、士気は高揚し、次々と魔王軍の守備隊を撃破していく…
剣と魔法の世界「ファンタジア大陸」且つてそこは魔王と呼ばれる存在がファンタジア大陸全土を支配しようと目論み、魔王軍が各地へ侵攻していた
多くの国は魔王軍の強大な力に屈し、支配されていった
だが魔王軍に抵抗するファンタジア大陸の各王国が連携して、勇者達を頂点とする「連合軍」を編成し反攻作戦を展開、人類最後の砦である辺境、南部地方メイ・アンガー王国防衛戦での勝利を皮切りに反攻に転じ各地で次々と魔王軍を退け支配された国を開放していった
しかし連合軍も勇者の仲間が眷族との戦いで次々と戦線を離脱、魔王の居城を攻めた時点で、前線に立つことが出来た仲間はおらず、勇者自ら先鋒を務め攻城部隊を指揮し激戦の末ついに魔王の城を落とすことに成功する、だが肝心の魔王は逃亡を図り、勇者は単身その後を追った
「やっと見つけたよ、魔王……」
そしてついに魔王を荒野で見つけ、巻物を取り出して上空に放り投げる、巻物は輝き、そこから聖なる結界の魔法を展開して動きを封じる……決戦の舞台は整った
― 序章「一騎打ち」 ―
白銀のフルプレートアーマーに深紅のマント、手にはあらゆる魔を打ち滅ぼすと言われている聖剣ユグドラシルを持ち、勇者は魔王と対峙していた……
そして……最早、逃げる事が叶わなくなった魔王は……だがしかし、真っ直ぐ勇者を見据えた
「ククク…まさかこれ程とはな…勇者よ、貴様名は何という?」と問いかける
問われた勇者は剣を構えながら答える
「レベッカ、レベッカ・ローゼンブルグだ……あんたも名前ぐらいは有るんだろう? 魔王」
魔王は不敵な笑みを浮かべる
「……フン、我の名はヴァイスハイト……あと一歩のところで大陸全土を支配出来たものを、貴様とその仲間らによって我が眷属たちはことごとく退けられていった、その手腕、見事なものだ……」
そう言って魔王ヴァイスハイトは宝珠が装飾された杖を禍々しいゲートから取り出すと勇者に向かい構えた
勇者レベッカは表情を変えることなく
「お褒めに預かり光栄だね、ま、そういうあんたも大概しぶといけれどね、全く……確かに眷族達は撃退したけど、こっちも仲間達が戦線を離脱しなきゃならないほどダメージを受けたさ、ところで、一つ聞いていいかい? もしあんたをここで始末した場合、残った魔族たちはどうなるんだい?」
妙なことを聞く、勇者というのはかなり変わった奴なのだなと思いつつ魔王ヴァイスハイトは素直に答える
「貴様なかなか面白い事を聞くな……そうだな、私が死んだら、私の次に実力のある者……つまりナンバー2が(魔王)を名乗り、魔王軍の再編成が行われるだろう、だが今回の戦いでかなり消耗したからな、侵攻可能な戦力にまで回復するのには少なく見積もっても、恐らく50年は掛かるだろう……だが我々は数百年もの間、侵攻する機会を伺ったのだ、それに比べれば大した時間ではない……」
勇者レベッカはその答えに納得したのか、フッとため息をつくと
「なるほどね……頭を叩いても下手をすると組織が再編されるだけ、全てがご破算って事か……じゃあさ、一つ賭けをしないか? この勝負にあたしが勝ったら降参して、あたしの言うことを何でも聞くっていうのはどうだい?」
勇者レベッカからの思わぬ提案に、ヴァイスハイトは少し驚きつつも、コレはチャンスと捉える
「ほお、なかなか魅力的な提案だな、いいだろう、では私が勝ったならば……貴様は私の奴隷として仕えよ」
「ああ、いいとも…それじゃあ早速やろうか‼ ……【マキシマム・シャインライト・ホーリーアーマー】‼」
勇者レベッカが呪文を唱えると彼女の鎧が輝き、金色のオーラに包まれた
「フフフ、そうだ、さあ全力で掛かって来い! 我が宿敵レベッカ・ローゼンブルグよ! 貴様を倒して我は再びこの世界の覇者になる‼ 【ディジエーム・アルティメット・ダークネス】‼」
ヴァイスハイトが呪文を唱えると彼の足元に魔法陣が現れ、彼の身体は禍々しいオーラに包まれた、そしてお互いにじりじりと間合いを詰めていき、次の瞬間、杖と聖剣が激しくぶつかる、何度もぶつかってはその度に土埃を巻き上げ衝撃波が荒野に響き渡る!
「隙あり!」
ヴァイスハイトは風の斬撃魔法を繰り出し真一文字にレベッカを切り裂こうとする!
だが、すでにそこにはレベッカの姿が無い
「あたしの何処に隙があるんだい?」
「クッ!!」
その言葉と共に殺気を感じたヴァイスハイトは反射的に真後ろに向かって杖を叩きつける!
その杖は火花を散らし相手の剣を捉えていた
「フン、流石は魔王ってとこかねえ!」
反動をつけて後ろに飛び退き体制を整えると再び剣を構えるレベッカ、あれだけの激しい攻撃を繰り出しておきながら全く息を切らせていなかった……
「ふん、なるほど……貴様只の勇者では無いな? 面白い!」
ヴァイスハイトは杖を天に掲げ虚空に巨大な魔法陣が現れる!
「笑っていられるのも今のうちだぞ、極大魔法【メテオストライク 】! ククク……さあ、どうする? レベッカ‼」
空から巨大な無数の火の玉がレベッカ目掛けて降り注ぐ!だがレベッカは剣を天に掲げ祈りを捧げる
「…神より賜りし聖剣ユグドラシルよ、勇者レベッカ・ローゼンブルグの名において命ずる、悪しき災禍の炎から我が身を守り給え!」
剣先から一筋の光が天を指す、そしてレベッカを包み込むように光のドームが発生し降り注ぐ火の玉は悉く防がれてしまう
「ハハハハハ! 素晴らしい! 実に愉快だ! これは良い好敵手に巡り合えた!」
戦いそのものを楽しむヴァイスハイト
「アハハハッ! あんたって変な奴だね! でもいいよ、気に入った! 必ずアンタを打ち負かしてみせるよ!」
レベッカは愉快に笑いながら剣を振るい、舞い踊る
そして何時間にも及ぶ激闘の末、最後の戦いは決着する、互いに力はほぼ互角であった……だが、ほんの僅かではあったが、レベッカの方がヴァイスハイトよりも持久力という点で上回り、勝ったのだ
「我が覇道も遂に此処までか……フッ、見事だレベッカ……さあ、貴様の望みを言うがよい……」
決闘に敗れはしたが、全力で戦い敗北したことに満足し、予想される運命を想い…ヴァイスハイトは覚悟を決め膝を折りその頭を垂れた……悔いはない、そう思っていた、だがレベッカの言葉は予想を覆すものだった
「…………じゃあ、アンタはこれからアタシと一緒に、冒険者酒場をやろう!」
そう言って満面の笑みを浮かべるレベッカ
「え? 酒場? ………は?」
何を言っているのか理解できず、思わず間の抜けたセリフを吐いてしまうヴァイスハイト
兎も角、戦争は終結した
そして数年後―
初投稿です、今後のモチベーションの為になにとぞ、応援よろしくお願いいたします。