5戦姫と出会いました
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「う、うぅぅん」
眩しい光を感じ、寝ぼけ眼で起き上がり、辺りを見回すとそこは広大な平原のど真ん中だった。
あれ・・・ここどこだ・・・なんで俺こんなところにいるんだっけ。
寝起きで思考力ダウンしたのか考えがまとまらない。だが次の瞬間、全身から痛みが走り、覚醒した。そして思いだした!
俺は死の山でデュラハンに遭遇し、逃げ回り、崖から足を踏み外して・・・落下したんだ!そこまでは思い出せる。で、どこだよここ?
雲一つない青い空、芝のような短い草が生えそろった広大な緑の平原、遠方には森らしき緑が、その遥か背後に見たこともない山脈の稜線が見え、遠くの空を見渡すと無数の超巨大な岩?らしき塊がふわふわ漂っている。
・・・いやいやあり得ないだろ!さっきまで!俺は死の山にいたんだぞ。崖から落ちて川に落ちて運ばれたというのなら、まだわかる。だけど何で草原のど真ん中にいるんだ!?っていうかなんで岩が浮かんでんだよ!
しばらく考えるものの、当然答えは出ない。
(本当に何なんだここ?もしかして俺死んだのか?死者の国とかそういうのか?)
そう思える程に現実感が無い。だが、死の山で走り抜けた時にできた細かい傷がひりひりと痛み、この痛みが夢でないことを教えてくれている。
「・・・と、とりあえず、移動するか」
さすがにこんな何もない草原で佇んでもどうにもならん。もしかしたら住人がどこかにいて、疑問に答えてくれるかもしれない。そう思って、とりあえず唯一目につく森らしき場所に向かうことにした。
そして歩くことしばし、やはり目指す場所は森だった。ようやく森だとわかるくらいまでにまで距離が縮まった。だが、デュラハンと死に物狂いで逃走した疲れが残っていたのか、身体が重くなってきた。
「はぁぁ、流石に疲れたなぁ。ちょっと休憩するか」
とりあえずあの近くに見える小さな岩山で休憩だー。と思い近づいたら、
岩山が動いた。
「は?」
俺は凍りついた。
そこにあったのは、いや“いた”のは、岩山ではなかった。それは生き物、超巨大なトカゲだったのだ。
それは資料でしか見たことが無いS級モンスター“タイラントリザード”である。
見た目は10mはあろうかという、巨大なトカゲ。確かそいつは特殊能力こそないが、巨大なのに敏捷な動き、鎧並みに頑強な皮膚と筋肉、鉄の鎧すら切り裂く鋭い牙と爪をもつといわれる化け物。個体数は極めて少ないが、一度現れ、暴れると多くの家畜や人間を食い殺しまくり大きな被害を生むという凶悪極まりない魔獣だ。
そして、その危険な魔獣はじーっとこちらを見ている。完全に俺を目標にしている。
「は、ははは。嘘だろ?おい」
死んでもいいとは思ってたよ?でもこれはないだろう!?デュラハンにタイラントリザード?んでもって、訳の分からない場所。こんな意味が分からない状況でトカゲの餌になって死ぬとか冗談じゃない!
そんな俺の心境を知らず、じりじり近づくタイラントリザード。身を隠そうにも、あいにくこの場所は草原のど真ん中、向かう先には森らしきものが見えるが、まだ全然遠い。デュラハンの時と違い、障害物なしのこの場所で敏捷が売りのモンスター相手じゃ走っても間に合わない。ははは、死んだわこれ。
「しゃー!!」
デカトカゲがいきなり叫んで、こちらに駆け出した。恐怖と混乱で足も動かず凍りつく俺。しかし、次の瞬間、目の前で赤い何かが光った。
そして・・・タイラントリザードの頭が落ちた。
「は?」
頭は比喩ではなく、首から綺麗にずれて、本当にいきなり落ちた。どずぅんという音とともに。首なしトカゲとなったタイラントリザードは先ほどまでの恐ろしさが嘘のように、ある意味滑稽な姿のまましばらく立っていたが、そのまま思い出したように地響きを立てて倒れこんだ。
やっぱり俺、おかしくなったのか?訳の分からない場所にS級モンスター、それに狙われたと思ったら、いきなりそれの首が切られて。もうこれ夢としか思えないよな!?
「おい、そこの無事だったか」
目まぐるしく変わる状況に理解が追いつかず、呆然としているとそこに凛と張りつめた透き通った美声が聞こえた。
振り向くとそこにいたのは真紅の陽炎を立ちこませた赤の長い刀を持ち、真っ黒なボロボロのドレスを着た凄まじい美女だった。
年の頃は20代後半か。腰まで伸びている真赤な長髪、ややつり上った綺麗な真紅の瞳が特徴の凛々しい美貌、男顔負けの高身長をしており、伸びた手足はすらっと長いが、その纏う肉は引き締まって獣のような力強さと優雅さと美しさを感じさせる。
そして何より纏うオーラが半端ない。強いという言葉でしか表せない空気である。
そもそもあの頑強で知られるS級魔獣タイラントリザードを一撃で葬り去るなど、尋常じゃない。
「あの・・・貴方は一体?ひぃ!?」
しばし佇むその美女に恐る恐る尋ねたら、とんでもない眼光で睨みつけられた。怖ぇ。
「それはこちらのセリフじゃ。妙な気配がしたからやってきたが、どこからこの世界に入り込んだ?あん?」
「あ、あわわ」
俺の質問に答えることなく、さらに眼光鋭くしてぎろりと睨んで、美人らしからぬ乱暴な詰問口調。この人怖ぇぇよ・・・デュラハンとかあのデカトカゲとは違う意味の恐怖を感じる。
慌てて俺はここに至る経緯を説明した。
「仕事で山に来たら、いきなり山中でデュラハンに遭遇し、逃げていたら山の崖から落ちて気が付いたらここにいました!」自分で言ってて、訳わかんねーなこれ・・・信じてもらえるのか?適当言うな!とか言ってぶった斬られないだろーな?と、内心びくびくして様子をうかがうと。
「・・・死の山?ああ、あの霊山か。なんとまぁ。ああ、事情は分かったぞ」
あっさり、信じてもらえましたよ。
「あの・・・すいません。こちらからも色々伺いたいことがあるんですが、まずここは一体・・・ひぃっ!?」
恐る恐る問うと、ぎろりと睨まれた。なんで一々睨むんだよぉ!?涙目でぷるぷる震える俺に赤い美女はつまらなさそうな顔をするものの説明してくれた。
「ここは貴様のいる世界と、他の世界を繋ぐ狭間の世界で多くの神や世界からの廃棄物が集う、通称“廃棄世界”じゃ。まぁ、この世とあの世の間にある異世界のようなものじゃな」
え?何それ?俺今あの世手前にいるの?
「本来、ここに来る手段はないが、様々な要因で短期間だけこちらへの扉が開く場所がある。それが貴様の言う死の山じゃ。貴様は偶然にもそこに飛びこんで、こちらに来たんじゃな。いやいや、“扉”に遭遇するだけでもレアなのに、ましてやそれに偶然入り込むなど天文学的な確率じゃな。おぬし。中々もっておるな」
ようやく、赤い美女は唇をつり上げにやりと笑う。といっても愛らしい笑いじゃない。獲物を前にした肉食獣のような笑いだ。正直笑顔も怖いよ。この美人さん。
「はぁ・・・そんなものですかねー」
でも、もってたら、デュラハンなんかに遭遇しないんだけどなー。それにエレナに振られることも・・・。思い出したらずきんと心が痛んだ。
「む、そういえば互いに自己紹介はまだじゃったな」
と少し悲痛な物思いに耽っていたところを唐突に美女が言う。そういえばそうだった。俺は慌てて名乗った。
「す、すみません。俺はCランク冒険者でシャル・・・シャル=ハイデッガーっていいます」
「ふむ。シャルか。わしはアルデリアという。姓はもうない。かつて戦士じゃったが、神殺しの罪でこの地に追放されて、今はこの世界の住人にして囚人。二つ名は“鏖殺戦姫”じゃ」
これが俺と伝説の“戦姫”の出会いだった。
ついに戦姫の登場です。




