1幼馴染が突然に選ばれました
「おい、おまえさん。そろそろ村に着くぞ」
「うぅぇ?」
野太い声で寝てたところを起こされて、俺シャル=ハイデッガーは寝ぼけた声を出してしまった。えーっと、今俺何やって。そうだ。町で冒険者の仕事をして、村行きの定期馬車に乗っていたら、疲労で寝ていて、御者に起こされたんだった。気が付いたら、もう外はとっくに夕焼けで染まっている。
馬車が村に着くと、村の馬車の停留所に白い服の女性が佇んでいた。彼女はこちらを向き、俺の顔を見ると破顔して声を上げる。
「お帰りなさい!シャル」
そこにいたのは俺の幼馴染であるエレナだった。村一番どころか俺が通う町でも一番と言ってもいい美少女。ふんわりした長い金髪、のほほーんとした温和な性格がにじみ出ているやや垂れ目がちな目とプルンとした唇が特徴の優しげな美貌、同世代の女性にしてはやや高めの身長に、同世代の女子を大幅に上回る胸。しかも今なお成長中である。
「エレナ、どうしたんだよ?今日は仕事じゃないのか?」
エレナの家は病院だ。両親が医者で、エレナはその手伝いだが、回復魔法の才能があることからよく仕事で駆り出されている。
「うん。もうやることはないから。シャルを迎えに行こうと思って早くあがらせてもらったの」
ほわわんとほほ笑むエレナ。最近ますます魅力に富む姿に、俺はおもわず目をそらす。
俺がこのエリン村に来たのは5歳の頃だった。
親父はB級冒険者で、そこそこ有名だったらしいが、町を守るために凶悪な魔物と相打ちになる形で亡くなった。その成果からギルドから多めの報奨金をもらった母は実家のこのエリン村に俺とともに引っ越してきた。
そして、近所に住むエレナ一家と知り合ったのだ。
昔のエレナは陰気で人見知りが激しく、少し太っていたので、みなからいじめられていた。それを見た俺は義憤に駆られ、いじめっ子どもをやっつけようとし・・・返り討ちにあった。
結局、助けるはずのエレナに助けられる形で、泣きながら傷の手当てをされるという何とも間抜けな結果に終わったのだ。それがエレナの出会いである。
それ以来、俺は強くなることを決意した。元冒険者が趣味で開いている剣道場に通い、必死に訓練を積み、村からすぐの町にある冒険者ギルドに登録して、実戦経験を積んだ。
父の才能も引き継いだのか、俺はいつしか村の同世代では最強の実力者になり、あの日以来俺に懐いたエレナとの付き合いも家族以上の深い付き合いとなった。
とそんなことを考えていると
「シャル?どうしたの?ぼーっとして」
疲れたの?大丈夫?心配だよ?というように目を曇らせ、ためらいなくその綺麗な顔を近づけてくる。
「な、なんでもないよ」
思わずぶっきらぼうな返事を返して、目をそらしてしまう。最近はいつもそうだ。
いつしか幼馴染ではなく、女性として恋心を抱くようになったエレナはめきめきと女らしくなっていく。
それなのに子供の頃と変わらない距離感でスキンシップや遠慮が無い言動を続けるので、どきどきしすぎて思わず襲ってしまいそうなほどの誘惑に駆られてしまうのだ。
だから近頃はあえて突き放す態度をとってしまう。
「・・・そう」
俺のつれない態度に少ししょんぼりするエレナ。
「ごめんよ」と内心謝りながら、俺らは肩を並べて、それぞれの家の方向に向かいながら、のんびり歩いて世間話をした。
「それで、どうだった?今日の冒険者の仕事は?怪我しなかった?」
「大丈夫だよ。ゴブリン数体狩るだけの仕事だしね。でも、ギルドで聞いたんだけど。最近発生率が高く“魔王”の可能性があるらしい」
「魔王・・・」
魔王
地上最強の魔物にして王。数十年もしくは数百年単位で突如現れる化け物。知性はあるようだが、交渉はできず。世界中の魔物の発生率を上げ、凶暴化を促す。選ばれた勇者と選ばれた英雄でしか倒せない存在。世界が恐怖と混乱に満ちるほどその力は増していき、最終的には世界そのものを脅かす恐るべき存在・・・
「・・・なんだけど、今じゃ対策されているからなー。そんなに危ないわけじゃないんだよな」
「そうだよねー」
そう、魔王が世界を危機に陥れたのは昔の話。今は過去の教訓から、魔王の発生の前兆を事前につかみ、勇者と英雄の発見を迅速に行い、訓練するマニュアルを築いて、魔王がその力を発揮する前の弱い状態で討伐するシステムを作っており、ここ数百年の間は特に問題なくあっさり倒されているという。
「だけど、近年になって北の山脈とか西の荒野の奥地とか、辺鄙な場所に陣取って時間稼ごうとしているんだってさ、魔王も考えてるんだな」
「倒しに行くのも大変だよね」
「勇者や英雄に選ばれるとよほどのことがないとその役目断れないからな。まぁ、俺らには関係ない話さ」
「そうよね」
などと呑気な会話した1週間後
「こ、これは!?聖女の才能じゃ!!」
「「へ?」」
教会でお偉いおっさんの驚愕の声とエレナが素っ頓狂な声がハモる。周囲の俺らは一斉にどよめきの声を上げた。