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13二人はようやく“再会”しました

「うぉ!?なんだこの声!?」


 最高の一撃を放ち、勝利を確信した後、少しの間意識が飛んでいたらしい。

 気が付くと、先ほどまで勇者を応援していた観客が大歓声をあげ、騒いでおり、レオンのハーレムメンバーの席でも全員顔を真っ青にして何やら大騒ぎしている。

「まずっ。なんか暴動おこりそう。早く逃げよ」

 今の状態であのハーレムメンバーたちに逆恨みされて、ぼこぼこにされたらたまらない。表彰とかはいいや。目的の勇者を倒したしな。とりあえず、ここから抜け出すか。

 狂乱醒めやまぬ中、急に戻った痛みと疲労がたまった体にムチ打って、問題が起きる前に去ろうと俺は闘技場からそそくさと逃げだした。


「ん?あれは・・・」

 痛む体を引きずって闘技場の通路から外に向かう途中.


 そこに息を切らせたエレナが待っていた。

 先ほど他の女性達に取り押さえられたせいか、髪は乱れ、服も破れ、手足に擦り傷も見られる。

 そのエレナは俺を見るや否や、みるみる目に涙を溜め、

「ごめんなさい!」

 思い切り頭を下げ、そして涙交じりに声を上げた。


「わ、私、貴方に最低なことしました。貴方と婚約の約束しながら、何故か破って、そして貴方をあざ笑い、侮辱して、馬鹿にして、私のために闘い倒れた貴方に最低の行為をしました」

 最低の行為?あれか。唾を吐いたことか。

 確かにあれは傷ついたな、と俺は当のエレナを前にして、あの時のことを思い返して苦い笑いが溢れる、程度しか思わないことに驚いた。当時は気絶して、思い出すだけで胸を締め付けられるほどショックだったのに。

 師匠と修行している内に、そんなネガティブな感傷に浸る暇もなくなってたからかな。それともあのカエルの口内唾地獄が効いたのだろうか。


 刹那の感傷に浸る間に、エレナは頭を上げていた。その顔は泣き顔の様な笑い顔の様なくしゃくしゃな表情に歪んでいた。

「私、シャル以外の男に身を委ねてシャルだけのキスも、愛してるの言葉も、初めても・・・ぜんぶあげちゃったの・・・」

 その涙は次から次へと湧いてきてこぼれてきた・・・その涙と初めてという単語にずきりと胸が痛む。

「ごめんなさい本当にごめんなさい!・・・私あの男にその後も何回も抱かれたの・・・でも、私は嫌じゃなくて・・・なんでかわからないの!好きなのはシャルだけなのに!なんでそんなこと思うようになったのかまるでわからないの!・・・でもでもねわたしがほんとうにすきなのはシャルだけで本当で」

 もう、ぼろぼろと涙をこぼし、段々支離滅裂になるエレナの言葉。自分でも何を言っているのかわからないのだろう。

 ここまで聞けば、流石に事情があるのは俺でも分かった。一瞬あの時のエレナの一方的な別れが、拒絶の言葉が、勇者に媚びる笑顔が、俺に見せた侮蔑の顔が、俺に唾を吐きかけた歪んだ笑みが脳裏に浮かんだ・・・が、同時に勇者との試合中に見せた、エレナの必死の応援と姿も浮かぶ。

 ・・・ふん、何下らない躊躇いしているんだよ俺。答えなんてあの時もう出ているだろうに。


 俺は泣きながら訴えるエレナの傍に近づき声をかけた。

「謝罪はもういい」

 びくりと大きくエレナの体が震える。俺の言葉を拒絶と捉えたのかその顔から一気に色が失われ、がたがたと震え始めた。

「あ・・・ひ・・・い、いやぁシャル・・・さん・・・し、信じてください。お願い・・・です・・・わたしあなたがほんとうに好、好きなんです、ごめんなさ・・・ゆるし」

 狂的なまでに目を開き、小動物のように怯え、震えながら、媚びるように、必死にすがるエレナを真っ正面から見つめ、俺は問いかける。

「そういうのはいい。今の俺に対する気持ちとどうしたいかだけ正直に言ってくれ。謝罪とか償いとか余計なこと考えないで、好きか嫌いかそれだけ答えて・・・」

 と、話の途中で、エレナは長年付き合っていて初めて聞く程の大声で絶叫した。


「嫌じゃない!嫌いじゃないの!!!好き!好き!大好きなの!好き好き好き愛してる!勝手だけどもう一度一からやり直したい!シャルと結婚したい!シャルと家族になりたい!もっともっと一緒にいたいのぉ!」

 涙がボロボロ、鼻水も少し出ていることにも気づかぬ必死の形相で訴えるエレナ。

「そうか」

 俺は安堵した笑みで呟いた。勇者が負けたので、慌てて媚を売っている、とは思えない。理屈はわからないが直感でわかる。勇者の呪縛?か何かが解けて“昔”のエレナが戻ってきたんだ。

 ・・・ようやく“再会”できた。再会を実感するにつれ、徐々に胸の奥から喜びの感情が溢れてくる。


「じゃぁさ、やり直そう」

 俺の口からは自分でも意外なほど穏やかな声が出た。

「ほへ?」

 エレナの口からは意外なほど素っ頓狂な声が出た。

「確かに色々思うところはあったけどさ。なんだろうね。さっきの応援と今の話聞いたら、もうどうでもよくなった。と、ほらもう落ち着けよ。もう鼻まで出して。とりあえず落ち着いたら、別の場所で一緒にこれからのことゆっくり話そう。な?」

「いいの?ゆ、許してくれるの?あんなひどいことをした私を?」

 俺の答えは抱擁だった。これまた自然に行動に出た。腕の中のエレナは硬直したが、次第に力は抜け、俺の背中に手を回しはじめ、顔は見えないが「嬉しいぃ」という潤み、熱く、蕩けた声が聞こえた。そして互いの溝を埋めるように強く抱きしめ合っ・・・



 そこで鏡の映像を断ち切った。

「これ以上覗くのは無粋よの」

 遥か離れた異界にてアルデリアはふん、と鼻を鳴らす。

「もしや、怨みを引きずり、あそこで突き放すかと思うたが、まっ、わしの弟子なら、許して受け止めるくらいの度量はないとな」

 シャルの言動にうんうんと満足そうに頷くと、先ほどの戦いに思いを馳せる。

「威力はわしの一割程度か。まぁ、“屍山血河”の助けが大きかったとはいえ、完全に発動できただけでも及第点じゃな。それにしても、あの勇者やはり“好感度操作”のスキルなど持っておったか」

 シャルの話からアルデリアは勇者の感情操作のスキルを疑った。そして、それは遠見の神鏡で実際に見たことで確信に至った。

 精神操作のスキルは本来あの世界にはないスキルだが、勇者には稀に存在しない固有のスキルが与えられることもある。大抵は戦闘優位のスキルだが、まれにこんなスキルを持つ者もでる。

 今回悲惨だったのは、その使い手が下種で、人の女を寝取り、その女性を弄ぶのが好きで、あげく人をいたぶり絶望させることにも快感を覚える真性の屑だったことだ。


 それを見越して、シャルにスキルに影響を与える奥義と魔剣を授けた。

 ただ、下手に説明して「勝てなくても最悪スキルだけ何とかすればいいか」などと勝利の執念に水を差し、妥協させたら、奥義習得の枷となると思い、あえてスキルの説明はしていない。

 そのせいでシャルが洗脳に気付かず、エレナと仲違いする可能性があったが、そこは3年面倒見たシャルの器を信じた。


「他の男に自分の女を寝取られぼこぼこにされたので、一矢報いたい」という、言葉にすれば子供の様な稚拙な動機で弟子入りし、その後の復讐の可能性すら考えぬ単純な男。だが、動機は単純でもシャルは地獄ともいえる特訓の中で、師である自分に甘え、諦めることなく、自分に感謝しつつ、ひたすらに己を鍛え続けた。正直3年という限られた期間で、かなり無理を押しての修行と自覚したこともあり、それに耐え抜き、恨み言一つも言わないのは予想外だった。

 単純な性格と思考でありながら、大の大人ですら逃げ出す程の凄絶な修行にも一切くじけない強靭な精神力を合わせ持ったある種レアな青年。この男ならば真実を知ればその事実ごと受け入れる器があるとアルデリアは確信していた。


 いずれにせよ放ったのが不完全な奥義であっても、その一撃を綺麗に入れれば勇者のスキルを弱体化させ、一時的にスキルを無効できた。そうすればスキルで無理やり歪んだ心は本来のものに戻り、洗脳は解けるはずだった。

 が、まさか真の奥義を発動させ、その根っこごと完全に断ち切ったのは想像以上だった。


「愚かな男じゃ。そのようなことをせずとも、勇者は誠実な行動だけでも十分人を惹きつけるのにの。“あれ”を見る限り末路は悲惨じゃろうが。まっ、自業自得か」

 心底くだらないそうに呟くと、それ以降勇者と名乗る者の興味を一切記憶から消し、愛弟子の勝利と活躍に祝い酒を飲みほした。



ようやく二人は真に再会できました。


明日は二話分掲載します。


エレナ視点の番外編とくず勇者のざまぁタイムに突入します。

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[一言] アルデリア別にシャルがエレナを拒絶してもそれはそれでよしとしたやろ
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