ほしいもの
代わりのものをくれてやろうかと思いついてから、随分と経った。
失くしたというあの安物のピアスの代わりに、何かを。
同じようなピアスでもいい、それ以外に欲しいものがあればそれでもいい。
くれてやった当時はそんな素振り一切見せなかったが、あいつはあのピアスを随分と気に入っていたらしい。
だから、代わりに何かを。
ただ、あいつがあれのどこを気に入っていたのかよくわからない。
色が気に入ったのか、形が気に入ったのか、それとも他に何かあったのか。
結構大事にしていたようなので、代わりに何かをとこちらから言うと機嫌を悪くしそうな気もした。
いっそ適当に似たものを探して、一方的に押し付けるか。
そうは思ったが、そんな事をしてもどうせなんの反応も返ってこないような気もした。
……いや、昔ほどではないか、流石に何かしらはあるだろう。
そんなことを悩みに悩んで数日か数週間か。
そのうち考えるのが馬鹿らしくなった俺は、随分とらしくない事を口にした。
「…………お前、なんか欲しいもんとかねぇの?」
夕食を食べた後、寮に帰る道中でそんなことを聞かれました。
その言葉の意図がよくわからなかったので彼の顔を見上げてみましたが、機嫌が悪そうなことくらいしかわかりませんでした。
欲しいもの、そんなものを何故今聞かれたのでしょうか?
直近の会話で何かありましたっけ?
特に何もありません、というか今日もほとんど会話らしい会話なんてしていないのです。
大抵一緒にいますが会話とかほぼないのです、友人達どころか変人ばかりの寮生達からも「怖い」と言われる程度には。
昔はもう少し会話があったような、そうでもなかったような。
考え込んでいるうちに彼の目つきが悪くなりました、これはさっさと答えないとさらに不機嫌になるやつです。
欲しいもの、欲しいもの、ですか。
「……ヤミボウズの新しいグッズとかが出たら欲しいですね」
それくらいしかありません、そして現状、新しいグッズが出そうな気配はありません。
黄色い布の方はこの前も新しいグッズが出ていたというのに、何故あの子はマイナー扱いなんでしょうかね、あんなに可愛らしいのに。
特に嘘偽りもなく答えたのに、彼はさらに機嫌悪そうな顔になりました。
「存在しないどころかこの先滅多に出なそうなものを欲しがんな」
「そういうこと言わないでくださいよ。悲しくなるじゃないですか。……存在しないならいっそ自分で作れば、と思ったこともあったんですけど……無理だったんですよねえ」
そう言うと、彼は少しだけ興味を持ったような顔で口を開きました。
「作ろうとした? お前が?」
「鋼魔法で像とか作ってみようとしたり、ぬいぐるみは無理でも羊毛フェルトのマスコットならって手を出してみたんでしたけど……ダメでしたね」
「ダメだったのか」
「全く似てないバケモンが出来上がりました。……美的センスというかそういうのがないので」
悲壮感を込めつつそう言うと、彼は小さく噴き出しました。
「……そういやお前、そういうの本当に駄目だったな。この前の美術の絵とかやばかった。下手すぎて逆にアート扱いされる感じで」
「……そうなんですよね」
というか中等部の頃に美術の時間で描かされた風景画。
狙ってなくても下手でもこれはアートと評価されて、その絵を出した時だけ成績の評価が高かったことをぼんやりと思い出します。
基本的に筆記試験を頑張らないと美術は結構やばいのです、それよりももっとやばいのが音楽。
「美的センスを磨けば魔術の質が上がるのでは、と思っていた時期もありましたけど……結局変に凝るよりもシンプルな方が性に合ってると思って、そのままですね」
「ふーん。……で、なんかないの他に」
「他に、とは」
「だから、欲しいもの」
考えました、特に思いつきませんでした。
「特にないです」
正直に答えると彼は舌打ちしました。
「……ふーん、あっそ」
「ところで何故そのようなことを? 何かありましたか?」
ここ最近の会話でも特にそういう感じの話はしていませんし、プレゼントを贈り合うようなイベントごとも直近にはありません。
「別に」
何かありそうな顔でそう答えられました。
これは聞いた方がいいのかこれ以上聞かない方がいいのか。
判断が難しいです。
そういえば去年の冬のプレゼント交換会でもらった切り餅と醤油のセット、今思うとあれはかなりの当たり枠だった気がします。
他が手乗り版ホネホネくんとか手書きの筋肉の育て方の指南書とか写真集だったので。
「そういえば、欲しいものといえばうちの寮では毎年冬にプレゼント交換会をやるんですけど、ご存知でした?」
「…………知らねえし、出る気もねぇよ」
「強制参加ですよ」
「ふーん」
サボる気満々の顔でした、すごく興味なさそう。
「私は去年お菓子の詰め合わせを交換に出して、切り餅とお醤油のセットをもらいました」
「……切り餅と醤油ってあれだろ、極東の食いもんだっけ?」
「はい」
「……そういう行事だと意外とまともなのか、うちの寮。もっと変なもんが飛び交っているのかと……その顔は飛び交っているんだな?」
そう聞かれたのでこくりと首を縦に振りました。
「はい。去年の私、今思うとかなりいいあたりを引いていたようです。他は開けただけで爆発するびっくり箱とか、赤と緑の毒ジュースとか、そういう感じだったので」
「……運が良かったんだな、お前。あとお前の菓子を当てたやつも」
「そうかもしれませんね」
ちなみに私のお菓子を当てたのは鮫人間でした、普通に喜んでました。
切り餅と醤油を交換に出した翅中毒はホラー小説十三冊セットを当てていましたっけ、クソ重いと不満そうな顔をしていた覚えがあります。
「けど一番のあたりは水族館の年パスだったと思います……一番不要な人のところに行ってしまったんですけどね」
魚恐怖症の人のところに水族館の年パスが渡ってしまったの結構な事故だった気がします。
家族の誰かに譲るって言っていましたっけ、結局。
「そういやお前、水族館好きなのか?」
「ええ」
「ふーん」
好きか嫌いかと言われると普通に好きでした。
綺麗ですし、なんか落ち着くんですよねああいう空間。
あと、イカが可愛い。
イルカは口が怖いからあんまり近寄りたくないんですけどね、遠目に見るのは別にいいんですけど。
なんて話しているうちに寮に着いたので、繋いでいた手を解いて彼と別れました。
結局何であの人が私に欲しいものを聞いてきたのか、その理由はわかりませんでした。
あれ以上聞いたところで多分話してくれなかったでしょうし、さらに機嫌が悪くなっただけだと思うのですが、やはり少し気になります。
機会があったら今度探ってみようと思いつつ自室のドアを開きました。
↓のその後の話
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